地方の百貨店が軒並み倒産
一昔前まで、百貨店は地域社会における「顔」のような存在でした。特別な買い物をする場であり、贈答品を選ぶ際や家族で外出する際には、まず百貨店に足を運ぶという行動が自然に定着していました。百貨店は単なる小売店舗ではなく、地域の文化や流行を発信する拠点として機能し、そこで買い物をすること自体が一種の社会的体験でもあったのです。
しかし近年、その百貨店が次々と姿を消しています。特に地方都市では、長年親しまれてきた百貨店が閉店や倒産に追い込まれるケースが相次いでいます。これは一時的な景気後退によるものではなく、構造的な問題が長期間にわたり積み重なった結果といえます。百貨店が地域の中心的存在であった時代を知る人ほど、その衰退に強い寂しさを覚えているでしょう。
一方で、大都市に目を向けると、すべての百貨店が不振というわけではありません。ターミナル駅に直結、または駅前に立地する大型百貨店は、今なお多くの来店客を集めています。人の流れが集中する場所にあるという立地の強みは依然として大きく、集客力という点では優位性を保っています。
もっとも、こうした都市部の百貨店も安泰とは言えません。地価の高騰や人件費の上昇により、売上があっても利益率を確保するのが難しくなっています。売れば売るほどコストが重くのしかかる構造に悩まされており、規模の大きさが必ずしも強みとして機能しなくなりつつあります。
地方では集客が難しく、都市部ではコスト構造が厳しいという状況の中で、百貨店という業態そのものが岐路に立たされています。そこで本稿では、百貨店、すなわちデパートが今後どのような方向性を持てば生き残る可能性があるのかについて、現状を整理しながら考えていきます。
百貨店の経営が振るわない背景事情
百貨店の経営が振るわなくなった背景には、複数の要因が重なっています。その中でも大きな変化の一つが、郊外型ショッピングセンターの増加です。広大な駐車場を備え、衣料品、食品、飲食、娯楽施設まで一体化したショッピングセンターは、車移動が前提の生活スタイルと非常に相性が良く、家族連れを中心に強い支持を集めてきました。
こうした郊外型施設は、日常的な買い物から休日のレジャーまでを一か所で完結させることができます。その利便性は、都市中心部に立地する百貨店にとって大きな脅威となりました。特に地方では、中心市街地に出向く理由そのものが弱まり、結果として百貨店への来店頻度が低下していきました。
もう一つの大きな要因が、ECサイトの発達です。インターネット上で簡単に商品を検索し、比較し、購入できる環境が整ったことで、消費者は時間や場所に縛られずに買い物ができるようになりました。重い荷物を持って帰る必要もなく、価格面でも競争力のある商品が多く揃っています。
さらに、消費者の消費スタイル自体も大きく変化しています。かつては「良いものを長く使う」ことが重視されていましたが、現在では用途や気分に応じて商品を使い分ける傾向が強まっています。その結果、必ずしも百貨店が得意としてきた高品質・高価格の商品だけが選ばれるわけではなくなりました。
これらの変化が重なった結果、消費者は「百貨店に行かなければ手に入らないもの」を探す必要がなくなりました。目的の商品が別の場所や手段で簡単に手に入るのであれば、わざわざ百貨店に足を運ぶ必然性は薄れてしまいます。この点が、百貨店経営を長期的に圧迫してきた大きな背景事情といえるでしょう。
インバウンド消費が追い風だったが
日本人による百貨店での消費が減少する中で、一時期、百貨店の売上を下支えしてきたのがインバウンド消費でした。訪日外国人旅行者の増加に伴い、百貨店はその受け皿として重要な役割を果たしてきました。特に都市部や観光地に近い百貨店では、外国人客の姿が日常的に見られるようになりました。
駅前に立地する百貨店は、外国人旅行者にとって非常に分かりやすい存在です。交通アクセスが良く、免税対応や多言語対応が整っていることから、安心して買い物ができる場所として認識されてきました。旅程が限られている旅行者にとって、効率よく買い物ができる点も魅力でした。
また、百貨店が展開してきた高付加価値商品は、日本製品の品質や信頼性を重視する外国人旅行者の嗜好と合致していました。化粧品、時計、工芸品、食品など、価格帯が高くても「日本らしさ」や「安心感」を感じられる商品は、インバウンド需要を確実に取り込んできたといえます。
しかし、こうした状況も徐々に変化しています。外国人旅行者の嗜好は多様化し、必ずしも百貨店だけが選ばれる存在ではなくなってきました。専門店やアウトレット、地域密着型の店舗など、選択肢が広がる中で、百貨店の優位性は相対的に低下しています。
加えて、旅行者自身が事前に情報収集を行い、目的を明確にして行動するようになったことで、百貨店に立ち寄る必然性も薄れつつあります。インバウンド消費は依然として重要な要素ではありますが、それだけで百貨店全体の消費を支え続けることは難しくなっているのが現実です。
デパ地下好調の理由
百貨店全体の売上が伸び悩む中でも、比較的安定した集客を維持しているのがデパ地下、いわゆる食品売場です。多くの百貨店において、来店客の多くがまず足を運ぶのがデパ地下であり、その賑わいは他のフロアと明確な対照をなしています。
デパ地下の強みの一つは、地域の商店街や一般的なスーパーではなかなか手に入らない食品が数多く並んでいる点です。全国各地の名産品、有名店の惣菜、期間限定の商品など、歩いているだけで新しい発見があります。その様子は、単なる食品売場というより、一種のテーマパークのような空間といえるでしょう。
また、デパ地下では試食や実演販売が行われることも多く、五感を刺激する体験が提供されています。香りや音、人との会話を通じて商品に触れることで、消費者は単なる「購入」以上の価値を感じます。こうした体験価値は、ECサイトでは代替しにくいものです。
さらに、デパ地下は日常使いと非日常の両方に対応できる点も強みです。普段の食卓に並べる惣菜から、特別な日のための贈答品まで、幅広いニーズを一か所で満たすことができます。この柔軟性が、安定した集客につながっています。
デパ地下が好調である理由を整理すると、そこでは単にモノを売っているのではなく、「選ぶ楽しさ」「発見する喜び」「安心して買える信頼感」といった体験が提供されていることが分かります。このあり方は、百貨店全体を考える上で重要な示唆を含んでいます。
家電量販店も好調
百貨店が苦戦する一方で、同じ大型店舗でありながら家電量販店は比較的好調な業績を維持しています。この違いはどこにあるのでしょうか。家電もECサイトで購入できる時代であるにもかかわらず、実店舗に足を運ぶ消費者が多い点は注目に値します。
家電製品は価格帯が高く、使用期間も長いため、購入時には慎重な判断が求められます。そのため、カタログや画面上の情報だけでなく、実物を見て触れて確認したいというニーズが強く存在します。サイズ感や操作性、質感などは、実際に体験して初めて分かる部分が多いからです。
大型家電量販店に行けば、同一カテゴリの商品が多数展示されており、比較しながら選ぶことができます。この「一度に多くの選択肢を確認できる」という点は、スケールメリットが最大限に活かされている例といえるでしょう。専門知識を持つ販売員から説明を受けられる点も、消費者に安心感を与えています。
また、家電量販店は商品だけでなく、設置、保証、アフターサービスまで含めた総合的な提案を行っています。購入後の不安を軽減する仕組みが整っていることで、実店舗を利用する価値が明確になっています。
このように、多様な商品の実物を一か所で確認できること、体験を通じて納得して選べることは、百貨店にとっても重要な示唆を与えています。商品を「並べる」だけでなく、「体験させる」場としての価値をどのように高めるかが、重要な視点となります。
まとめ
百貨店を取り巻く環境は厳しさを増していますが、その一方で、完全に役割を失ったわけではありません。地方では生活動線の変化、都市部ではコスト構造の問題と、それぞれ異なる課題を抱えていますが、共通しているのは「百貨店でなければならない理由」が問われているという点です。
経営不振の背景には、郊外型ショッピングセンターやECサイトの普及、消費スタイルの変化といった外部環境の変化があります。これらは百貨店だけでなく、多くの小売業に影響を与えてきました。その中で、インバウンド消費という追い風が一時的に支えとなったものの、それだけに依存する形は持続的ではありません。
一方で、デパ地下や家電量販店の事例からは、実店舗ならではの価値がどこにあるのかが見えてきます。そこでは、単なる商品提供ではなく、体験、比較、安心感といった要素が重視されています。消費者が足を運ぶ理由は、価格だけでは説明できない部分にあります。
百貨店が生き残るためには、自らの強みを再定義し、来店すること自体に意味を持たせる工夫が不可欠です。すべてを網羅する場所ではなく、「選ばれる理由」を明確にした空間づくりが求められています。その方向性を見誤らなければ、百貨店にはまだ役割を果たす余地が残されているといえるでしょう。
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