新規事業創出はそのタネを拾うことが9割
新規事業を立ち上げることは、多くの経営者やビジネスパーソンにとって大きな挑戦であり、同時に胸躍る楽しさを伴うものです。しかしながら、実際に手をつけてみると、当初の想定通りに進まないことが多く、迷走してしまうケースが少なくありません。なぜ迷走するのかを冷静に振り返ってみると、その理由は「アイディア出し」と「事業化の道筋づくり」の間に大きなギャップがあるからだと言えます。ブレインストーミングを行えば、数多くの発想が出てきます。しかし、その中から1つを選び、それを磨き上げて成功の確率が高い事業モデルに仕立てるまでには、必ずといってよいほど手戻りの連続が待っています。この過程で体力も気力も消耗し、頓挫してしまいがちです。
一方で、スムーズに新規事業を創出できる人が存在することも事実です。そうした人々の成功例を丹念に見ていくと、全く偶然や幸運によるものではなく、一定のセオリーに従ってタネを拾っていることが分かります。つまり、新規事業創出の成否は、後半の実行力だけでなく、前半の「タネの拾い方」にかかっています。ここでいうタネとは、発想の断片や小さな着想のことであり、それが具体的な事業へと育っていく基盤になります。畑にまいた種が芽吹くかどうかは、選ぶ種の質や環境条件に左右されるのと同じで、事業のタネも良質なものを拾わなければ成功の芽は出ません。
このように考えると、新規事業創出はアイディアの数を競うものではなく、いかに確かなタネを見抜き拾えるかが勝負の分かれ目です。そこで本稿では、そのために有効とされる手法を整理し、実践的な観点から紹介していきます。
今ヒットしているものの背景を探れ
新規事業を考えるとき、多くの人が「まだ誰も手をつけていない完全に新しいアイディア」を求めがちです。しかし、実際に全くゼロからヒットする商品やサービスを創出することは極めて難しく、成功確率は低いのが現実です。そこで有効なのが、すでに世の中でヒットしているものの背景を徹底的に探ることです。ヒットしているものには必ず理由があり、その理由を分析すれば、多くの示唆を得られます。
重要なのは、作られた人気ではなく自然発生的に広まった事例に注目することです。たとえば、テレビや新聞といった既存メディアで大々的に取り上げられている商品は、広告費や宣伝戦略によって人工的に人気が作られている場合があります。それに対し、SNSや口コミを通じて自然に広がっている商品やサービスは、純粋に消費者の支持を得ている証拠です。そこには生活者が心から魅力を感じる要素が存在し、それを抽出することができれば、十分に新規事業のタネとなり得ます。
分析の際には「なぜ支持されているのか」を徹底的に掘り下げることが大切です。価格の安さか、デザイン性か、利便性か、あるいは社会的共感を呼ぶストーリーか。見つけた長所のうち、自社が持つリソースで再現可能なものがあれば、それを基に事業を組み立てることができます。必ずしも同じ商品を真似る必要はありません。その長所を異なる分野に応用するだけでも、新しい価値を生み出すことが可能です。
このように「ヒットの背景」を冷静に探ることは、奇抜な発想を無理に絞り出すよりもはるかに現実的で効果的なタネ拾いの方法となります。
世の中の困りごとに敏感に
新規事業のタネを見つける上で、最も確実な方法の一つは「困りごと」に注目することです。人々が抱える不便や不満を解消する商品やサービスは、必ず一定の需要を生みます。なぜなら、困っている状態を解決できれば、顧客は対価を払う意欲を自然に持つからです。これは新規事業創出における王道の考え方といえるでしょう。
ただし、世間の人が「私はこれに困っています」と明確に表明するケースは意外に少ないです。多くの場合、困りごとは潜在的に存在していて、本人すら気づいていない場合もあります。例えば、家事や移動、買い物といった日常の行動の中には「不便だが仕方ない」と受け入れてしまっている部分が多々あります。そこに目を向け、改善策を提案できれば、新規事業のタネとなります。
さらに重要なのは、「すでに及第点に達しているが、もっと便利になれば喜ばれる」という視点です。現状で大きな不満がなくても、利便性や効率を一段引き上げることができれば、多くの人に受け入れられる可能性があります。例えば、決済サービスは現金でも十分に成り立っていましたが、キャッシュレス化によってさらに便利になり、急速に普及しました。このように、潜在的な困りごとを掘り起こす力こそが、新規事業の芽を育てる大きな推進力となります。
困りごとに敏感になるためには、日常的に社会を観察する習慣が欠かせません。街を歩く、SNSを読む、顧客の声を直接聞くなど、あらゆる情報源から「不便の兆候」を拾い上げる姿勢が重要です。その積み重ねによって、誰もが見過ごしている小さな不便を発見し、大きなビジネスのチャンスへとつなげることができるのです。
コラボを検討する
新規事業のアイディアがなかなか思い浮かばない場合、既存事業同士を組み合わせる「コラボレーション」を検討するのも有効です。全く新しいものを一から創造するのは難易度が高いですが、既存の要素を組み合わせるだけで意外な新鮮さや利便性を提供できる場合があります。これはまさに「1+1が3にも4にもなる」発想法です。
身近な例を挙げるなら、ジャンルの異なるYouTuberが時折コラボ動画を制作し、それぞれのファン層を巻き込んで新しい価値を生み出すケースがあります。異なる分野を掛け合わせることで、単独では実現できなかった魅力が発揮されるのです。同じように、異業種同士が協力してサービスを同時提供すれば、顧客にとって新鮮かつ便利な体験を届けられる可能性があります。
もっとも、コラボなら何でもうまくいくわけではありません。重要なのは「顧客にどんな便益を与えられるか」を冷静に見極めることです。見た目の派手さや話題性だけを追っても、実際の顧客が価値を感じなければ長続きしません。逆に、目立たなくても顧客の不便を一つでも解消できるなら、それは十分に挑戦する価値があります。
一般的に、コラボによってシナジーを生み出すのは容易ではなく、調整や役割分担に手間もかかります。それでも、従来の発想では到達できなかった新しいサービスの形を生み出せる可能性があるため、検討に値します。大切なのは「互いの強みをどう組み合わせれば顧客に喜ばれるか」という視点であり、その一点を突き詰めれば新規事業のタネは自然に芽吹いてくるのでしょう。
PRは常に意識せよ
どんなに優れた新規事業でも、世間に知られなければ存在しないのと同じです。新しいサービスや商品を開発した際に最も陥りやすい落とし穴の一つが、「良いものを作れば自然と広まるはず」という思い込みです。現実には、認知されなければ売上は立たず、存続すら危うくなります。そのため、新規事業の創出段階から常にPRを意識しておくことが欠かせません。
PRと一口に言っても、単に広告費をかければ良いという話ではありません。大量に費用を投じても、効果が出るまでには時間がかかりますし、必ずしも期待通りに広まるわけではありません。重要なのは「誰に向けて」「どのように伝えるか」を明確に設計することです。ターゲット層を定め、その層が普段触れているメディアやコミュニティに適切な形で情報を届けることが、最も効果的です。
また、PRは戦略的に長期視点で計画する必要があります。「どの層に」「どの程度の費用感で」「どれくらいの期間で効果を期待するか」を精緻にシミュレーションし、施策を積み重ねていくことが重要です。短期的に派手な打ち上げ花火を上げても、一時的な注目に終わってしまえば意味がありません。むしろ、小さくても継続的に情報を発信し、徐々に信頼と共感を積み重ねていく方が長期的には大きな効果を生みます。
特に現代ではSNSの活用が欠かせません。ユーザーが自発的に共有してくれる仕組みを組み込めば、広告費を抑えながらも大きな広がりを得られる可能性があります。結局のところ、PRは「費用」よりも「手法」の巧拙に左右されます。新規事業を成功に導くには、良いタネを拾うと同時に、そのタネをどう世の中に知ってもらうかを常に意識する必要があります。
まとめ
新規事業を成功させるには、実行力や資金力といった要素が重要であることは言うまでもありません。しかし、その前段階として「タネをいかに拾うか」が成否を大きく左右します。タネ探しの工夫次第で、事業化のスピードも成功確率も格段に変わります。
ヒットの背景を分析することは、ゼロからの発想に頼らずとも現実的な出発点を与えてくれます。また、人々の困りごとを丁寧に拾い上げれば、確実に需要のある市場を発見できます。さらに、既存の要素を組み合わせるコラボレーションや、効果的なPR戦略を意識することは、事業を育てる上で強力な推進力となります。
つまり、新規事業創出のプロセスは「偶然のひらめき」ではなく、観察と分析、そして戦略的な工夫によって十分に再現可能なものなのです。日常の中から拾った小さなタネを、どのように磨き、育て、世の中に届けるか。その積み重ねこそが、新しい事業を生み出すための最も現実的かつ効果的な道筋といえるでしょう。
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