企業は要所で岐路に立たされる
企業活動は常に順風満帆に進むわけではありません。事業を開始した当初は順調に収益が伸びていたとしても、市場の成熟化や競合の台頭、技術革新のスピード、消費者マインドの変化など、外部環境は常に変動し続けています。どれだけ魅力的な商品やサービスであっても、時代の流れに合わなくなれば、次第に収益性は低下していきます。企業はその変化を肌で感じ取り、適切に対応する必要があるものの、すべての変化を自社の努力だけで乗り越えられるとは限りません。とくに、法律や規制の変更、世界情勢の悪化による仕入価格の高騰、人材確保の困難など、外部要因が主要な原因となって改善が難しいケースも多いです。
こうした局面に立たされた企業がまず考えがちなのは、「何とかして今の事業を維持できないか」という点です。もちろん既存事業を維持し、改善を重ねることは重要です。しかし、事業には寿命があり、どれだけ努力しても外部環境が逆風である限り、高度な改善策を投入しても十分な効果が出ないことがあります。そこで必要になるのが、事業そのものの見直し、すなわち事業の再構築という選択肢です。
事業再構築とは、単純な経費削減や小手先の改善ではなく、企業としての稼ぐ力を抜本的に見直し、新たな収益モデルへ転換するための大きな方向転換を意味します。これは企業にとって大きな決断であり、時には痛みを伴います。しかし、その先に持続可能な成長の道が開けていることも事実です。変化の激しい現代において、変化を恐れず、自社の事業活動を再定義する姿勢が強く求められています。
そこで本稿では、企業が事業再構築を行う際の基本的な考え方や具体的な検討ポイントについて紹介します。再構築は決して極端な事業転換を意味するものではなく、限られたリソースを最適な場所に配置しなおし、収益力を高めるための一連の取り組みです。企業が岐路に立たされた際に、どのような視点で方向性を決めるべきか、その一助となる内容をまとめていきます。
不採算部門は適正規模に縮小
外部環境の変化によって収益性が低下した事業は、企業にとって徐々に負担となっていきます。需要の減少、競合の価格競争、規制の強化など、さまざまな要因によって収益性が落ち込むことは珍しくありません。その際、多くの企業が陥りがちなのが、「薄利多売で何とか売上を確保しよう」とする発想です。しかし、この考え方は人手不足が続く現代において現実的ではありません。生産性の低い働き方は従業員のモチベーションを奪い、企業全体の疲弊を招きます。持続可能性を重視する経営環境において、薄利多売型ビジネスを守り続けることは長期的には困難となっています。
不採算部門には、企業の歴史や家業としての思い入れが強く残ることがあります。とくに中小企業の場合、長年続けてきた家業への愛着から、収益性が低下していても縮小を決断できず、結果として従業員に過度な負担を強いるケースが見られます。しかし、企業として存続させることが最優先である以上、感情に流されず客観的に事業を評価する必要があります。収益性を改善できない事業を抱え続けることは、従業員の未来を奪うことにもつながるため、現実を受け入れることが重要です。
もちろん、不採算の原因が内部にある場合は、生産性改善によって収益性を回復できる余地があります。作業工程の見直しやデジタル化、人材配置の最適化により、十分に改善を達成できる場合もあります。しかし、外部環境の影響が大きく、改善の見込みが立たない場合には、縮小や撤退を真剣に検討するべきです。事業規模を適正化することは、決して敗北ではなく、企業全体の健全性を守るための戦略的選択です。
また、事業縮小は一気に行う必要はなく、段階的に進めることが可能です。まずは固定費を見直し、採算ラインを把握し、そのうえで必要な縮小幅を慎重に決定します。感情と経営のバランスを取りながら、企業の未来にとって最良の選択を下す姿勢が求められます。
余ったリソースの活用
不採算部門を縮小すると、そこで使用していたリソースが余剰として生まれます。これは単なる過剰資産として処理すべきものではなく、新たな収益機会を生み出すための重要な資産です。まず考えるべきは、余った設備、オフィススペース、機械類などの活用方法です。いきなり賃貸借契約を解約したり、設備を売却したりするのではなく、その資源を別の用途に転換できないかを検討します。スペースを利用した小規模サービスの展開や、社内研修の拠点、商品開発スペースなど、活用の幅は意外と広いものです。
また、不採算部門で使用していた材料や在庫にも価値があります。売れ残り品であっても、加工して別商品に転換したり、セット商品として販売したり、新しい需要を掘り起こすことが可能です。廃棄する前に必ず活用の余地を探り、コスト削減と新規収益創出の両面でメリットを得る姿勢が重要です。
さらに忘れてはならないのが、そこで培われたノウハウや技術、経験といった知的資産です。縮小や撤退した事業にも、改善の蓄積や顧客対応の知恵、品質管理の工夫など、多くの知的遺産があります。これらを洗い出し、体系化したうえで新規事業に活用することで、競合との差別化につながります。知的資産は目に見えないため軽視されがちですが、事業再構築の成否を左右する重要な要素です。
余ったリソースを最大限に生かすためには、リソースの棚卸しを丁寧に行うことが不可欠です。資源をただ手放すのではなく、どのような形で再活用できるのかを一つひとつ検討し、事業全体の最適化を図る姿勢が求められます。
補助金と人
新規事業を検討する際には、公的な補助金の存在が大きな支援となる場合があります。設備投資や新サービス構築を行う際、補助金は資金面の負担を大幅に軽減し、事業再構築のスピードを加速させる役割を果たします。各自治体や国の制度を注意深く調査し、自社に適したものがないかを確認することが重要です。
しかし、補助金であれば何でも取得すればよいというものではありません。補助金の中には、申請に膨大な労力がかかるものや、採択後に重い事務負担を伴うものもあります。事業計画に対して過度な制約を課す補助金を利用してしまうと、かえって企業活動の自由度が損なわれる可能性もあります。そのため、補助金は「利用すること自体が目的」にならないよう注意し、自社の方針と無理なく整合するものを選択する姿勢が求められます。
また、不採算部門の縮小に伴って、余剰人材が発生することは避けられません。事業再構築では、この人材の再配置が非常に重要になります。余った人材を単に別部署に移すだけでは、能力が埋もれてしまう可能性があります。それぞれの従業員の強みや価値観を見極め、その特性が生かせる新規事業を構築していく視点が求められます。
人材は企業の最大の資源であり、新規事業の成否を大きく左右します。社員が「自分が活かされている」と実感できる配置こそが、新しい事業の推進力になります。特性を活かしやすい環境を整えることは、企業文化の再構築にもつながり、組織の活力向上に寄与します。
新規事業の方向性
新規事業の方向性を考える際に最も重視すべき点は、既存のメイン事業との関連性です。企業にとって新規事業とは未知の領域への挑戦であり、リスクを完全に排除することはできません。しかし、本業とのつながりを確保することで、そのリスクを大幅に軽減できます。まったく無関係な分野に進出すると、企業として蓄積してきた知識やノウハウを活かすことが難しく、事業の安定性も損なわれやすくなります。経験が生かせない事業は、立ち上がりのスピードが遅いだけでなく、投資の回収にも長い時間を要してしまいます。
既存事業とのシナジーを確保できる新規事業であれば、これまで積み上げてきた業務プロセスや営業網、顧客基盤を活用できるため、事業の立ち上げがスムーズに進みます。たとえば、製造業であれば部材調達のネットワークや品質管理のノウハウを新規事業にも活かせますし、サービス業であれば接客スキルや既存顧客へのクロスセルの機会を利用することができます。このように、本業と新規事業をつなぐ共通点を探ることは極めて重要です。
さらに、本業とリソースを共有できる新規事業は投資効率を高めます。既存設備を活用できれば初期投資を抑えられ、人材についても再教育の負担が減ります。従業員も自分が培ってきたスキルを応用しやすいため、業務に対する心理的なハードルが下がり、新規事業への参加意欲も高まります。企業全体の柔軟性が高まる点も大きなメリットであり、変動の大きい経営環境下ではこの柔軟性が企業の競争力を維持する鍵となります。
また、新規事業は短期的な収益を狙うだけの取り組みではなく、企業の収益ポートフォリオを再構築する機会と捉えることが重要です。本業を補完する事業を育てることで、特定分野に依存しない経営基盤を形成できます。外部環境の変化により本業が一時的に落ち込んだ場合でも、代替的な収益源を確保していれば企業としての安定性が向上します。事業ポートフォリオを多様化することは、企業を長期的に守るためのリスクヘッジでもあります。
とはいえ、新規事業なら何でも手を出せばいいわけではありません。企業の価値観やビジョンに沿ったものでなければ、長期的に継続することは困難です。市場の需要を踏まえつつ、企業としての強みや将来像と整合する方向性を慎重に選び取ることが求められます。新規事業は企業の未来をつくる重要な投資であり、焦らず、しかし確実に前進する姿勢が不可欠です。
まとめ
事業再構築とは、単なる事業の縮小や撤退を意味するものではありません。むしろ、企業が将来に向けて再び成長するための土台を整える積極的な経営判断です。企業活動は常に外部環境に影響され、どれほど努力しても避けられない衰退局面に直面することがあります。そのとき必要なのは、現状を嘆くことではなく、自社の事業構造を客観的に見直し、必要な変化を受け入れる勇気です。
不採算部門の縮小は痛みを伴う決断ですが、それによって余剰となったリソースは企業の再成長の起爆剤にもなり得ます。余った設備やスペース、人材、ノウハウは、新規事業を立ち上げる際の貴重な資源です。これらを捨てるのではなく、どのように組み替えれば新たな価値を生むかを考えることが、事業再構築の核心です。
また、補助金や支援制度は事業再構築を後押しする有効なツールですが、むやみに活用するのではなく、自社にとって本当に必要なものを選び取る姿勢が求められます。制度そのものに振り回されると、本来の目的である事業強化が後回しになってしまいます。自社の体力や戦略に合った支援策を選び、あくまで主体性を持って活用することが重要です。
さらに、事業再構築では人材の再配置が欠かせません。余剰人員を単に別部署に「押し込む」のではなく、それぞれの強みを活かせる配置や役割を慎重に検討する必要があります。従業員が力を発揮できる環境を整えることは、企業の新たな価値創造に直結します。人材を最大限に活用できれば、組織全体の活力が向上し、再構築後の企業成長に大きく寄与します。
事業再構築は簡単な取り組みではありませんが、変化を受け入れ、将来に向けた挑戦を続ける企業こそが生き残り、次の成長ステージに進むことができます。本稿で述べたポイントを参考に、自社の可能性を広げるための事業再構築に一歩踏み出してみることをおすすめします。
当研究所では、外部環境の変化に対して打つべき「次の一手」の分析と検討をお手伝いいたします。下記よりお気軽にご相談ください。


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