パン屋の倒産件数が減少
物価高の影響が各業界を直撃し、多くの業種が仕入れ価格の上昇に悲鳴を上げています。小麦も例外ではなく、原材料価格は依然として高止まりが続いています。しかし、このような苦しい環境下でありながら、パン屋の倒産件数が減少しているという現象が見られます。物価高が全方位的に家計を圧迫しているにもかかわらず、この数字だけを見るとパン屋だけが特殊な優位性を持っているように思えるかもしれません。ですが、単純に「パン業界の好調」と断じることには慎重である必要があります。
というのも、近年倒産数が膨らんでいた背景には、高級食パンブームの急激な拡大と収束がありました。贈答用として一気に全国へ広がった高級食パンチェーンは、品質へのこだわりよりもブランド訴求や話題性を重視した店舗も多く、結果として市場が過飽和になった面は否めません。新規参入が相次ぎ、競争が激化し、利益率が低下する中、物価高の波が直撃したことで淘汰が一気に進んだのです。言い換えれば、倒産件数が減少しているのは「景気が戻った」からではなく、「ブームの後片付けが終わった」という側面が大きいです。
さらに、パンの原材料の多くは輸入に頼っています。小麦粉だけでなく油脂、乳製品、ナッツ類、チョコレートなども価格が不安定で、為替レートや国際情勢の影響を受けやすくなっています。パン屋の経営環境が他の業界より有利というわけではなく、むしろコストの読みにくさというリスクを抱えているといえます。そのため、倒産件数が減少している現象の背景を正しく理解するには、パン業界が抱える固有の構造と、近年の市場変化を丁寧に見ていくことが欠かせません。
そこで本稿では、こうしたパン屋の倒産件数減少の背景を踏まえながら、パン業界がどのような工夫によって生き残りの道を拓いているかを整理していきます。物価高という逆風の中でも持続的に成長し、顧客の支持を獲得するためのヒントを読み解くことで、ポテンシャルの高いジャンルがどのように勝負すべきかを考える材料を提供します。
パンをとりまく状況
ここ数年、日本の食の構造に大きな影響を与えたのが、コメ価格の高騰です。いわゆる不作や生産調整の影響によってコメの価格がじわじわと上がり、家計に圧力がかかる場面が増えました。その結果、意外な形で恩恵を受けたのがパン市場です。コメが高いと感じる消費者が、比較的価格が安定しているパンにシフトする動きが見られるようになり、日常生活におけるパンの存在感が高まりました。特に朝食での置き換えは顕著であり、従来はコメ中心だった家庭でもパン食の割合が上昇しています。
かつて一斉に多店舗展開した高級食パンブームは落ち着きを見せました。贈答品や話題性としての利用は減少し、価格に対して価値を感じにくいという声も増えた結果、市場規模は縮小しています。しかし、パン市場全体が縮小しているわけではありません。むしろ、調理パン市場が大きく伸びています。具材を組み合わせた惣菜パン、手軽に食べられるロールサンド、若い世代に人気のボリューム系バーガータイプのパンなど、食事として成立する商品の人気が拡大しています。
また、イートインの利用が増加し、パン屋がカフェとして機能するケースも多く見られるようになりました。店の雰囲気や居心地の良さが評価され、パン以外の利用価値を見出す顧客も増えています。昼食や間食としてパンを取り入れる層が増加したことで、パン市場は単なる食品販売から「軽食・飲食の場」として広がっているのです。
そして、この市場拡大のポイントにあるのは、奇をてらった新しさではなく「ちょっとした工夫」です。具材の組み合わせやパッケージの改善、提供スタイルの工夫など、小さな改善の積み重ねが市場の広がりを支えている点が特徴です。
アレンジの幅が広い
パンは本来非常にシンプルな食品ですが、その汎用性の高さによって無限の可能性を秘めています。具材を挟むだけでサンドイッチになり、具材を乗せれば惣菜パンになり、生地を甘くすれば菓子パンにも変化します。パンそのものが「プラットフォーム」のような存在であり、どんな食材とも相性が良いのが魅力です。
菓子パンを工夫すれば、スイーツ市場への参入も可能です。クリームやフルーツを用いた商品は、パン屋でありながら洋菓子のような楽しさも提供できます。また、ピザ風の惣菜パンはランチ需要を取り込むうえでも効果的です。パン生地はピザ生地と似ており、相性のよい食材を自由に組み合わせることで「軽食以上、食事未満」の独自ポジションを確立できます。
これらは決して大掛かりな設備投資を必要としません。既存の生地にトッピングするだけで新商品が生まれるため、コストを抑えたまま商品ラインナップを増やすことができます。高級食パンブームのような「やりすぎたアレンジ」が一時的には話題を集めても長続きしなかった点を考えると、むしろこうした“控えめなアレンジ”がパン屋本来の強みを引き出していると言えます。
パンが持つアレンジの幅は、周辺市場を取り込む強力な武器になります。スイーツ、軽食、ランチ、カフェタイムといった複数の需要に応えられるため、日常的に訪れる理由を提供しやすい点が大きな魅力です。
売り方の工夫もできる
パンは商品としての汎用性が高いだけでなく、売り方の工夫の幅も非常に広い食品です。単に家庭用に販売するだけでなく、提供スタイルそのものを変えることで顧客層を拡大し、売上構造を安定させることが可能です。
特にイートイン市場の拡大はパン屋にとって追い風となっています。パン自体が特別に高級でなくても、店内の雰囲気が快適で、コーヒーが美味しいだけで集客力は大きく高まります。カフェとパン屋の中間のような業態であれば、パンの原価率の低さを活かしながら、ドリンクやサイドメニューで利益率を確保しやすくなります。
さらに、パンを単品で売るのではなく、「セット」で売る戦略は極めて有効です。スープ、サラダ、カットフルーツなどを組み合わせれば、客単価が自然と上昇します。朝食メニューやランチセットは安定した需要があり、リピーターを増やすきっかけにもなります。
持ち帰り需要に向けては、食べやすいサイズの総菜パンやワンハンド商品を増やすことで、働く人の間食需要を取り込むことができます。最近では、見栄えが良い箱入りの詰め合わせセットを販売し、ちょっとした手土産需要を拾うパン屋も増えています。パンは日持ちしづらい難点がありますが、逆に“今日買って今日食べてもらえるギフト”として魅力を打ち出せば、他にはない価値を提供できます。
こうした工夫はいずれも奇抜なものではなく、既存の商品や設備を活かした「少しの工夫」によって実践できるものです。パン屋は他の飲食業と比べて応用範囲が広いため、小規模な店舗でも売り方を変えるだけで収益構造を改善できる点が大きな特徴です。
ポテンシャルの高い商品はアイディア勝負
パン屋の成功事例に共通しているのは、パンという食品そのものが持つポテンシャルの高さです。食事にもなり、スイーツにもなり、軽食としても使え、さらにドリンクやサイドメニューと組み合わせることで価値を高めることもできます。この「応用範囲の広さ」は他の食品ではなかなか見られない特徴です。
しかし、どれだけポテンシャルが高くても、単品でそのまま売っているだけでは差別化にはなりません。パンそのものは全国どこにでもあり、価格競争に巻き込まれれば途端に利益が出にくくなります。そこで重要になるのが「ちょっとした工夫」です。例えば具材の組み合わせを変える、食べ方を工夫する、季節限定の商品を週替わりで出すといった、小さな変化でも顧客にとっては新鮮に映ります。
ただし、奇をてらいすぎる戦略は長続きしません。高級食パンブームのように一時的に話題となっても、過度なアレンジやコンセプトの押し付けは消費者の生活に溶け込まず、最終的には淘汰されてしまいます。むしろ、日常生活の中に自然に入り込む“ほどよい変化”こそが最も長く愛される傾向にあります。
また、顧客ニーズを敏感に察知し続ける姿勢も欠かせません。パン市場は流行の移り変わりが比較的早く、SNSで話題になった商品が急速に広まり、数か月で飽きられてしまうこともあります。継続的な商品開発と、変化を恐れない姿勢が求められます。
ポテンシャルの高い商品ジャンルでは、小さなアイディアと継続的な改善こそが成功の鍵になります。パン屋に限らず、こうした姿勢はあらゆる業界で応用できる普遍的な戦略です。
まとめ
パン屋の倒産件数が減少している背景には、市場の正常化や生活スタイルの変化、そしてパンが持つ“潜在力の高さ”が関係しています。パン市場は大きな投資をしなくても、アレンジや売り方の工夫によって需要を広げられる稀有なジャンルです。
特に重要なのは、奇抜さではなく「ちょっとした工夫」を継続することです。具材を変える、売り方を変える、店内環境を整えるといった小さな取り組みでも、消費者にとっては十分魅力的な変化になります。実際、調理パン市場の拡大やイートイン需要の増加は、まさにそうした工夫が積み重なった結果だと言えます。
そして、パンに限らずポテンシャルの高い商品ジャンルでは、基本の品質を維持しながら適度な改善を続けることが最も重要です。奇をてらう戦略は短期的な話題づくりには有効ですが、長期的な安定には向きません。日常生活に自然と溶け込む工夫こそが、最も強力で持続可能な差別化要因になります。
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