パワーハラスメントと感じる従業員は増加傾向に
近年、職場におけるパワーハラスメント、いわゆる「パワハラ」に悩む従業員は確実に増えています。厚生労働省が公表した調査でも、職場で「精神的な苦痛を感じる言動があった」と答えた人は年々増加しており、その中でも上司による過度な叱責や人格否定的な言動をパワハラと認識するケースが多く見られます。
その背景には、従業員一人ひとりのハラスメントへの意識の高まりや、働き方改革により「理不尽な職場文化」が見直されてきたことも影響しています。かつては「上司の言うことは絶対」「指導の一環」と片づけられていたような発言が、今では明確にパワハラとして認識されるようになりつつあります。
しかしながら、「パワハラを受けている」と感じたとしても、それを会社に申し出たり、実際に状況を改善したりするのは決して簡単なことではありません。多くの従業員がその困難さに直面し、精神的に疲弊してしまっています。
そこで本稿では、このパワハラ問題の解決の難しさと、実質的な解決方法を説明します。
解決が難しい理由1:上司の性格の悪さや、従業員側の内向的な性格などが原因である可能性が高い
パワハラの問題が難しい理由のひとつに、「人間関係の個別性」があります。つまり、問題の本質が制度やルールの不備というより、「相手(上司)の性格」と「自分の性格」に根ざしていることが多いのです。
たとえば、パワハラの加害者となる上司は、支配的な性格や攻撃的な傾向を持っていることが多く、自分の言動が相手を傷つけているという認識に乏しい場合があります。「自分は指導しているだけ」と考えており、反省する気配もなければ変わる兆しも見られません。
一方で、被害を受けている従業員側が、もともと内向的で人との衝突を避けたい性格だった場合、なおさら状況は悪化しやすくなります。嫌なことをはっきり「嫌」と言えず、我慢を重ねた結果、ストレスが蓄積し、メンタルヘルスに支障をきたすケースも少なくありません。
このように、パワハラの問題は「構造的な問題」というより「個人間の相性の悪さ」から生まれることも多く、会社が一律に対処するのが難しいという現実があります。
解決が難しい理由2:弁護士に依頼して会社を訴えると、逆に会社に居づらくなる
「法的措置を取ることで問題を解決する」という選択肢も確かにあります。パワハラに対する法整備も進んできており、録音や証拠があれば、加害者を処分することも理論的には可能です。しかし、実際に弁護士に相談し、会社に訴えを起こすという選択肢を選ぶ従業員は多くありません。
なぜなら、そのプロセスを経たとしても、訴えた側が会社に居づらくなってしまうケースが非常に多いからです。パワハラを訴えたことが直接的な理由であってはならないとはいえ、「問題児」と見なされるようになったり、職場で孤立したりすることは、現実的には起こり得ます。
また、パワハラの証明は容易ではありません。加害者は録音や記録に気を配り、あからさまな証拠を残さないよう振る舞うこともあります。被害者が一方的に「感じたこと」を訴えても、「主観的すぎる」「コミュニケーションの齟齬ではないか」と処理されてしまうこともあります。
結果的に、「法的措置」という方法は理論上有効であっても、実際にはリスクが高く、職場に残るつもりであれば選びにくいのが実情です。
実質的な解決方法1:嫌な上司から引き離し、異動させてもらう
パワハラを根本的に解決することは難しいとしても、被害者である従業員が実質的な被害から逃れる方法はいくつかあります。その一つが「異動の申し出」です。
多くの企業には人事異動の制度があり、社内で部署を移動することが可能です。「体調不良」「職場との相性」などを理由に異動を申し出ることは、不自然ではありませんし、正当な理由として通ることもあります。
ただし、ここで注意したいのは、「パワハラにあった」とはっきり言わず、あくまで穏やかな理由を添えることです。会社側が「問題提起」と受け止めてしまうと、逆に事情聴取や調査が始まり、それが社内での自分の立場を不安定にしてしまうこともあります。
「〇〇部ではうまく成果が出せず、環境を変えて挑戦したい」「今後のキャリアを考えて別の部署で経験を積みたい」といった前向きな理由を添えつつ、上司との距離を物理的に置くのが現実的なアプローチです。
実質的な解決方法2:転職する
もう一つの現実的な解決策は「転職」です。思い切って環境を変えることは、精神的な健康を守るうえでも非常に有効です。
「逃げることは悪いこと」と思われがちですが、自分の心身を守るためには非常に重要な選択です。特に、現在の職場が自分に合わない、上司との相性がどうしても悪い、今後も改善される見込みがないと感じるのであれば、思い切って次のステップに進むことは有効です。
転職市場は以前に比べて活況であり、特に20代後半から40代前半までの人材であれば、経験やスキルに応じたポジションも多くあります。転職エージェントやキャリアアドバイザーに相談すれば、自分に合った職場環境を見つけることも可能です。
また、転職によって「自分に合った上司」や「風通しの良い組織文化」に出会える可能性もあります。一度パワハラを経験したからこそ、自分にとって何が大切か、どんな環境で働きたいかを明確にできるという利点もあるのです。
まとめ
パワハラに悩む従業員は増加していますが、実際に問題を解決するのは容易ではありません。加害者の性格や被害者の性格など、個人間の相性が関係していることも多く、組織が一律に対処するのは難しい側面があります。
また、法的措置を取ったとしても、社内での居場所が失われてしまうリスクがあるため、多くの従業員が「訴える」ことを選択できずにいます。
こうした状況の中で、現実的かつ実質的な解決法としては、「異動によって環境を変える」「転職によって自分に合う職場を見つける」といった方法が有効です。自分の身を守ること、そして働く環境を選び直すことは決して逃げではなく、前向きな自己防衛です。
もし今、パワハラで悩んでいるとしたら、まずは「逃げてもいい」という選択肢を自分に許すことが大切です。そして、自分にとって一番良い未来を見据えて行動することが、長期的に見て最も合理的で健康的な選択になるでしょう。
当研究所では、パワハラ問題の対処経験も豊富な弁護士が、法的理論をベースにしつつも、心情的な面」にも寄り添いながらこうした問題の実質的な解決を試みます。下記よりお気軽にご相談ください。
コメント