各スーパーが唐揚げに注力
近年、多くのスーパーがお総菜コーナーの唐揚げに力を入れています。新商品として期間限定フレーバーを投入したり、定番商品の味付けを改良したり、揚げ時間や衣の配合を見直したりと、その取り組みは年々高度化しています。店頭では「自慢の唐揚げ」「リニューアル」「専門店品質」といったポップが並び、まさに各社が競い合っている状況です。
注力のポイントは各社さまざまです。価格を徹底的に抑え、日常使いしやすい商品として打ち出す店舗もあれば、素材や味付けにこだわり、やや高価格帯で差別化を図る店舗もあります。外はカリッと中はジューシーという食感を追求する店もあれば、冷めてもおいしいことを前面に出す店もあります。にんにくや生姜の配合、醤油の種類、下味の漬け込み時間など、細部にまで工夫が凝らされています。
一見すると唐揚げはどこにでもある定番商品にすぎません。しかし、各スーパーがここまで真剣に取り組むのは、単なる流行ではありません。唐揚げの開発は、実は経営戦略上きわめて大きな意味を持っています。唐揚げは老若男女に人気があり、家庭の食卓にもお弁当にも使われる万能メニューです。しかも調理済み商品であるため、来店動機を直接的に生み出す力を持っています。
そこで本稿では、スーパーがお総菜コーナーの唐揚げの開発に注力する意義について、経営戦略の観点から順を追って解説していきます。唐揚げという身近な商品を通して、小売業の競争構造や売上拡大の仕組みが見えてきます。むしろ唐揚げという身近な商品だからこそ、意外に絶大な効果を発揮するそのからくりを見ていきましょう。
小売業の差別化
スーパーは小売業です。基本的なビジネスモデルは、食品や日用品をメーカーや卸から仕入れ、それを店頭で販売することにあります。取り扱う商品は、野菜や肉、魚、調味料、加工食品、飲料、洗剤、ティッシュペーパーなど多岐にわたります。しかし、これらの多くは全国共通の商品であり、どの店舗でも似たようなラインナップになりがちです。
小売業における差別化の王道は品揃えです。他店にはない商品を置く、地域特産品を豊富に扱う、輸入食品を充実させるなどの工夫が考えられます。しかし大手メーカーの商品はどこでも扱われており、消費者もそれを前提に買い物をします。その結果、複数のスーパーを比較しても棚に並ぶ商品がほとんど同じという状況が生まれます。
大手チェーンはプライベートブランド商品で差別化を図ろうとします。自社企画の商品であれば価格や仕様をコントロールでき、利益率の改善にもつながります。しかしプライベートブランドも、一定の売れ筋を意識するため、最終的には似通った商品構成になりやすいという課題があります。消費者にとっては「安い」「無難」という印象はあっても、強烈な来店動機になるとは限りません。
このように、品揃えが画一化しやすいスーパーにとって、いかに独自性を打ち出すかは長年の課題です。価格競争だけに陥れば利益率は下がり、持続的な経営は難しくなります。だからこそ、他店にはない魅力をどこで作るかが重要になります。単に同じ商品を安く売るだけではなく、「この店に行きたい」と思わせる理由をどう生み出すかが、差別化の本質です。その突破口をどこに求めるかが、各スーパーの戦略を分けるポイントになります。
惣菜の可能性
独自性を打ち出すという課題に対し、惣菜コーナーは極めて有効な領域です。惣菜は店内調理や独自レシピによって作られる商品であり、仕入れた既製品を並べるだけの棚とは本質的に異なります。味付け、調理方法、盛り付け、ボリューム感など、工夫の余地が非常に大きく、店舗ごとの個性を反映しやすいのが特徴です。
惣菜は家庭の調理負担を軽減する商品でもあります。共働き世帯の増加や高齢化の進展により、調理時間を短縮したいというニーズは年々高まっています。その中で、出来立て感のある惣菜は強い支持を得ています。しかも惣菜は、同じメニュー名であっても味の差が明確に出やすく、消費者が「この店のほうがおいしい」と実感しやすい分野です。
特に唐揚げは惣菜の中でも人気が高い商品です。夕食のおかずとしても、お弁当のおかずとしても、子どものおやつとしても活用できるため、購入頻度が高いという特性があります。多くの人が味に敏感で、自分好みの唐揚げを求めています。だからこそ、他店より一歩抜きん出た唐揚げを提供できれば、それ自体が強力な集客装置になります。
実際に、「あのスーパーの唐揚げはおいしい」という評判が広がると、わざわざその店まで足を運ぶ人が増えます。惣菜売場に人が集まれば、店内の回遊も活発になり、他の商品への関心も高まります。唐揚げは単なる一品ではなく、来店動機を生み出す核となり得る存在です。こうした可能性を踏まえ、各スーパーはレシピ開発や調理体制の強化に投資し、唐揚げの品質向上に取り組んでいます。
多様な付加価値の方向性
唐揚げに注目が集まる理由の一つは、付加価値の付け方が非常に多様である点にあります。価格帯の設定一つをとっても幅が広く、日常のおかずとして気軽に買える低価格帯から、専門店さながらの品質を目指した高価格帯まで展開可能です。価格戦略と品質戦略を柔軟に組み合わせられる商品であることは、経営上大きな魅力です。
素材へのこだわりも差別化の重要な要素です。国産鶏を使用するのか、特定の銘柄鶏を使うのか、部位をもも肉中心にするのかむね肉中心にするのかによって、味わいと食感は大きく変わります。さらに、下味に使う醤油や塩、スパイスの選定によって風味の方向性を自在に調整できます。にんにくを強めに効かせるのか、あえて控えめにするのかでもターゲット層は変わります。
衣の工夫も欠かせません。片栗粉中心にするのか、小麦粉をブレンドするのか、米粉を使うのかによって、サクサク感やカリカリ感は大きく異なります。揚げ油の温度管理や二度揚げの有無によっても食感は変わります。冷めても硬くなりにくい工夫や、時間がたっても油っぽくならない配合など、研究の余地は尽きません。
さらに、味そのものだけでなく、パッケージや売場演出によっても付加価値を高められます。出来立てを強調する時間表示、試食販売、量り売りなど、販売方法の工夫によって体験価値を向上させることができます。このように、唐揚げは多面的な改良が可能な商品であり、各スーパーが独自の方向性を打ち出せる余地が極めて大きいです。
お目当ての唐揚げがあれば売上が確実に増える
あるスーパーに「どうしても食べたい唐揚げ」が存在すれば、その店は強い選択肢になります。消費者は日常的に複数のスーパーを使い分けていますが、明確な目的商品がある場合、来店先は自然と固定化します。今日はあの唐揚げを買おうと思えば、そのスーパーに足を運ぶことになります。
夕食のメインとして唐揚げを購入する場合、同時に野菜やサラダ、味噌汁の材料、飲料なども必要になります。結果として、唐揚げ以外の商品もその店で購入されます。本来であれば他店で買われていたかもしれない商品が、目的商品の存在によって同時に購入されます。これが同時購買の効果です。
さらに重要なのは、唐揚げを買わない日にも影響が及ぶ点です。一度その店に通う習慣ができると、店内の配置や価格感覚に慣れ、心理的なハードルが下がります。すると、特別な目的がない日でも自然とその店を選ぶようになります。こうして来店頻度が高まり、総合的な売上が底上げされます。
唐揚げは単価が比較的手頃でありながら、来店動機を生み出し、同時購買を促し、来店習慣を形成する力を持っています。一品の強化が店舗全体の売上構造に波及する点に、経営上の大きな価値があります。だからこそ、各スーパーは唐揚げの品質向上に継続的に投資し続けています。
まとめ
スーパーが唐揚げに注力するのは偶然でも一時的な流行でもありません。小売業という業態の構造を踏まえたうえで、極めて合理的な戦略として選ばれている取り組みです。
スーパーは仕入れ商品が中心であるため、棚に並ぶ商品は他店と似通いやすいという宿命を抱えています。価格競争に陥れば利益率が圧迫され、長期的な成長は難しくなります。その中で、店内調理による惣菜は数少ない差別化の武器です。なかでも唐揚げは、幅広い層に支持され、購入頻度が高く、味の違いが分かりやすいという特性を備えています。
さらに、唐揚げは価格帯や素材、味付け、食感、販売方法など、多様な切り口で付加価値を創出できます。低価格戦略にも高付加価値戦略にも対応できる柔軟性があり、店舗のブランドイメージに合わせた商品設計が可能です。その結果、「この店の唐揚げが好きだ」という明確な評価を獲得しやすくなります。
そして何より重要なのは、唐揚げが来店動機を生み、同時購買を促し、来店習慣を形成する力を持つことです。一品の魅力が店舗全体の売上拡大につながるという波及効果は、小売経営において非常に大きな意味を持ちます。
差別化が難しい小売店において、顧客をひきつけるオリジナル商品が1つあるかないかだけでも集客において大きな違いが生じます。そして、から揚げは誰もが気軽に夕食のおかずに買いやすいものであるからこそ、顧客の目を惹きやすいです。
唐揚げという身近な商品に注力することは、単なる惣菜強化ではなく、店舗全体の競争力を高める戦略的投資です。だからこそ、多くのスーパーが真剣に唐揚げ開発に取り組み続けています。
当研究所では差別化戦略の支援も行っております。下記よりお気軽にご相談ください。

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