三重苦の中での塾の生き残り策【公認会計士×中小企業診断士が解説】

事業再生

学習塾の倒産が増加傾向

学習塾の倒産件数は、ここ数年で明確に増加傾向にあります。地域に根ざして長年運営されてきた個人塾や中小規模の塾であっても、経営を維持できずに廃業を選択するケースが珍しくなくなりました。かつては「塾を開けば一定数の生徒は集まる」と言われた時代もありましたが、その前提はすでに崩れています。
現在の保護者世代の中心は、いわゆる就職氷河期世代です。この世代は、厳しい受験競争と就職環境の中で育ち、「少しでも良い大学に入ることが将来を左右する」という価値観を強く刷り込まれてきました。そのため、家計に無理をしてでも塾に通い、偏差値を上げる努力を重ねてきた経験を持つ人が少なくありません。
しかし、そうした経験を持つ親世代であっても、現在の教育環境をそのまま受け入れているわけではありません。終身雇用が揺らぎ、学歴だけで人生が決まる時代ではなくなった現実を、社会人として身をもって理解しているからです。結果として、「とにかく偏差値を上げるために塾に通わせる」という考え方は、以前ほど絶対的なものではなくなっています
加えて、学び方そのものも大きく変化しています。インターネットを通じて、無料または低価格で質の高い学習コンテンツにアクセスできる時代になりました。動画解説、学習アプリ、オンライン教材など、塾に通わなくても学べる手段が増えたことで、学習塾の存在意義が改めて問われるようになっています。さらにはAIによる自動翻訳などもスマートフォンで簡単に利用できるようになり、外国語の学び方などは親の世代と大きく変化しています。
こうした背景の中で、学習塾は単なる「勉強を教える場所」では生き残れなくなりつつあります。そこで本稿では、学習塾を取り巻く厳しい環境を直視した上で、特に街中にある中小規模の塾が、どのようにして生き残りを図るべきかについて考察していきます。

学習塾を取り巻く三重苦

学習塾の経営を難しくしている要因は一つではありません。現在の塾業界は、複数の深刻な問題が同時に重なり合う「三重苦」の状態に置かれています。この三重苦が、従来型の塾経営を根本から揺るがしています。
第一の要因は、少子化です。子どもの数そのものが減少しているため、学習塾の潜在的な顧客数は年々縮小しています。地域によっては、小学校や中学校の統廃合が進み、そもそも塾の商圏が成り立たなくなっているケースもあります。これは塾側の努力だけではどうにもならない構造的な問題です。
第二の要因は、人件費の高騰です。講師を確保するためには、以前よりも高い報酬を提示しなければ人が集まりません。大学生アルバイトに頼るモデルも限界が見え始めており、指導の質を維持・向上させようとすれば、必然的に人件費は上昇します。教師不足は学校現場だけでなく、塾業界においても深刻な問題となっています。
第三の要因は、物価高騰による家計への直撃です。食料品や光熱費、住宅費の上昇により、多くの家庭で可処分所得が圧迫されています。その結果、教育費、とりわけ塾代に充てられる余裕が減少しています。以前であれば「子どもの将来のため」として支出されていた塾代が、見直しの対象になりやすくなっています。
これら三つの要因が同時に進行することで、従前の塾経営モデルでは収益を確保することが極めて難しくなっています。生徒数は減り、コストは上がり、価格転嫁も簡単にはできないという状況は、多くの塾経営者にとって厳しい現実です。まずはこの三重苦を正しく認識することが、今後の生き残りを考える出発点となります。そのうえで、どのように高単価の顧客を獲得するかの検討が必要です。

競合の変化

学習塾を取り巻く環境が厳しさを増す中で、競合の姿も大きく変化しています。かつての競合は、同じ地域にある別の個人塾や中小塾であることが多く、比較的分かりやすい構図でした。しかし現在では、競合の範囲は大きく広がっています。
大手塾チェーンは、効率化を徹底することで支出削減を進めています。教材の共通化、指導マニュアルの整備、教室運営の標準化などにより、規模のメリットを最大限に活かしています。その結果、一定の品質を保ちながら、価格を抑えたサービス提供が可能になっています。
一方で、AIやデジタル教材の普及も見逃せません。AIによる学習診断や自動問題生成、進捗管理などを活用し、自宅で学習を進める生徒も増えています。これらは人件費をほとんど必要とせず、学習効率を高められる点で、従来の塾と異なる競争軸を形成しています。
こうした状況下では、予算に余裕のない中小学習塾は、自然とふるいにかけられていきます。価格競争では大手に勝てず、技術投資ではIT企業や教育プラットフォームに太刀打ちできません。その結果、中小学習塾は「何ができる塾なのか」「なぜ選ばれるのか」を明確にしなければ、存在意義を示せなくなっています
従来と同じやり方を続けるだけでは、競争の中で埋もれてしまいます。環境が変わった以上、経営の発想も変えなければなりません。大手やデジタル教材とは異なる土俵で価値を発揮することが、これからの塾には求められています。コストカットの方向では大手に太刀打ちできないのであれば品質の方を高める必要があることは容易に理解できるはずです。

1対多数はもはや非効率

かつて、子どもの数が多かった時代には、1対多数の教室型学習は非常に効率的な指導方法でした。一人の教師が多くの生徒を同時に教えることで、コストを抑えながら一定の学習効果を提供できたからです。このモデルは、塾経営において合理的な選択肢でした。
しかし、生徒数が減少した現在では、この効率性は大きく損なわれています。教室に集まる生徒の人数が少なくなると、同じ時間と労力をかけても、得られる収益は減少します。結果として、1対多数の授業は、経営面でも指導面でも非効率になりつつあります。
さらに、教師側の負担も増えています。教室型授業では、幅広い学力層に対応するため、教材準備や予習に多くの時間を割かなければなりません。少人数であってもカリキュラムは維持する必要があり、結果として労力に見合わない指導になってしまうケースもあります。
こうした中で注目されているのが、1対1の個別指導です。生徒の理解度に合わせて、わからない部分をピンポイントで指導できるため、学習効率は高まります。また、生徒側も「自分のために時間を使ってもらっている」という実感を得やすく、満足度が向上します
個別指導では、勉強そのものだけでなく、学習への不安やモチベーションといったメンタル面のケアも行いやすくなります。こうした要素は、画一的な教室授業では提供しにくい価値であり、塾の存在意義を再定義する重要なポイントとなっています。そこでこうした支援をサービスに組み込んで付加価値を高める取り組みも進んでいます。

付加価値化の手順

学習塾の世界では、1対多数の教室学習から、個別指導へと重心が移りつつあります。しかし、個別指導は単に形式を変えれば成功するものではありません。高い付加価値が求められるため、簡単に生徒が集まるわけではないのが現実です。
個別指導では、教師の力量がそのままサービスの質に直結します。生徒一人ひとりの理解度を把握し、適切な説明を行い、学習意欲を引き出す力が不可欠です。そのため、経験や指導スキルが不足している状態でいきなり高付加価値を打ち出しても、信頼は得られません。
そこで重要になるのが、段階的な付加価値化です。まずは、手ごろな価格帯の教室学習を通じて、指導経験を積み重ねることが有効です。この段階では、多くの生徒と接することで、教え方の引き出しを増やし、地域での認知度を高めることが目的となります。
教室学習を通じて、「あの塾は丁寧に教えてくれる」「相談しやすい」といった評価が蓄積されることで、塾の信用力は徐々に高まっていきます。こうした土台があるからこそ、次の段階として個別指導を展開した際に、適正な価格でも納得してもらえるようになります。
個別指導を高付加価値のサービスとして成立させるためには、指導内容だけでなく、コミュニケーションやフォロー体制も含めた総合的な質が問われます。段階を踏んでサービスを進化させることが、無理のない付加価値化につながります

まとめ

学習塾を取り巻く環境は、少子化、人件費の高騰、物価高による家計圧迫という三重苦の中で、かつてないほど厳しさを増しています。さらに、大手チェーンの効率化やAI・デジタル教材の普及により、競争の構図そのものが変化しています。この現実を直視せずに、従来のやり方を続けるだけでは、生き残りは難しいと言わざるを得ません。
特に街中の中小学習塾にとって重要なのは、「規模」や「価格」で勝負しないという選択です。大手やテクノロジーと同じ土俵に立つのではなく、人だからこそ提供できる価値を磨く必要があります。その代表例が、個別指導を中心とした丁寧な学習支援です。
1対多数の教室学習は、時代背景が変わった今では効率性を失いつつあります。一方で、1対1の指導は、生徒の理解度や心理状態に寄り添える点で、大きな可能性を秘めています。ただし、その価値は一朝一夕で築けるものではありません。指導経験の蓄積や信頼関係の構築が不可欠です。
段階的にサービスを磨き、地域での評価を積み重ねていくことが、結果として高付加価値化につながります。学習塾は単なる「勉強を教える場所」から、「学びを支える存在」へと役割を変えることが求められています。この変化を受け入れ、着実に対応していく塾こそが、三重苦の中でも生き残っていくことができます。
当研究所では、時代の変化に合わせた事業設計の修正と収益化について幅広い分野で対応しております。下記よりお気軽にご相談ください。

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