成長期のマネジメントのカギは安い仕事”だけ”を請けないこと【MBA×中小企業診断士が解説】

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成長期の成長を加速させるために何でも仕事を引き受けてしまいがち

企業が一定の軌道に乗り始めると、「成長期」と呼ばれる局面に差し掛かります。この段階では、売上を伸ばし、知名度を高め、顧客を増やすことが至上命題となります。経営者やマネジメント層は、少しでも売上を積み上げるために、大小さまざまな案件を積極的に受注しようと考えがちです。とくに立ち上がりの勢いが強いときほど、「今は多少無理をしてでも案件をこなすことが大切だ」と思い、あらゆる依頼を断らずに受け入れてしまうケースが多く見られます。
確かに、成長期においては実績を重ねることが企業の信頼性向上につながります。顧客との接点を広げることも、将来の売上拡大に資する可能性があります。したがって、多くの案件を抱えること自体は短期的にはプラスの側面もあるといえます。しかし、注意しなければならないのは、その中に「安い仕事」が一定割合で含まれている場合です。売上を重視するあまり、採算度外視で受ける案件や、相場より極端に低価格な業務を引き受けてしまうと、後に予期せぬ問題を引き起こす可能性があります。
この段階ではまだその危険性が見えにくく、売上数字の増加だけに目が向きがちです。しかし、安い仕事を大量に引き受けることが成長期のブレーキになりかねない点については、冷静に理解しておく必要があります。そこで本稿では、その弊害について段階的に整理し、成長を持続させるためのマネジメントのあり方を考えていきます。

人的リソースと仕事量のバランス

安い仕事を受け続けると、まず問題となるのは「人的リソースと仕事量のバランス」です。企業は無限に人材を抱えられるわけではなく、一定のコストをかけて従業員を雇用しています。仮に安い仕事をこなすために新たな人材を採用したとしても、収益性は悪化します。なぜなら、案件単価が低い分だけ、売上に対する人件費の比率が高まり、利益が圧迫されるからです。
では、人を増やさずに安い仕事を抱え込んだ場合はどうでしょうか。その場合は当然ながら、既存の従業員の負担が増加します。必然的に残業時間が増え、従業員一人ひとりに過剰な業務がのしかかることになります。一昔前であれば、残業を通じて給料が増え、同時に経験値を積む機会として評価される向きもありました。しかし現代においては状況が大きく変わっています。
働き方改革関連法の施行などにより、長時間労働は法的にも強く規制され、違反すれば企業に行政指導や罰則が科される可能性があります。さらに、従業員側の意識も変化しました。残業を歓迎するどころか、ワークライフバランスを重視して極力避けたいと考える人が増えています。そのため、安い仕事を大量に抱え、残業を前提にした運営を続けることは、現代の企業にとって持続不可能な戦略だといえるでしょう。

従業員の退職を促進してしまう

人的リソースの圧迫は、従業員の離職につながる深刻な問題を引き起こします。まず、残業が増えれば、優秀な従業員ほど早く辞めてしまうリスクがあります。能力の高い人材は転職市場でも需要が高いため、無理のある環境に見切りをつけ、より働きやすい職場へ移ることが容易だからです。結果として企業にとっての貴重な戦力を失い、組織全体の競争力が低下します。
さらに、安い仕事が増えると職場の雰囲気自体が悪化します。利益が少ない案件は達成感や評価に直結しにくく、従業員の士気を下げる要因となります。努力して成果を出しても、数字のインパクトが乏しければ正当に評価されていると感じられず、不満が蓄積します。その不満はやがて組織全体に波及し、モチベーションの低下を招きます。
また、限られた高評価につながる案件をめぐって、従業員同士が競い合うことになり、人間関係が悪化する危険性もあります。誰が「やりがいのある仕事」を担当できるかで摩擦が生じ、協力関係が崩れてしまうことも少なくありません。こうして、安い仕事の比重が高まれば高まるほど、職場は疲弊し、最悪の場合「崩壊」とも言える状態に陥りがちです

生産性とやりがいを重視

成長期の企業にとって、真に大切なのは「いかに生産性を高めるか」という視点です。安い仕事に労力を割くよりも、付加価値の高い案件を中心に据え、限られた人的リソースで効率よく成果を上げることが求められます。高い生産性を維持できれば、従業員は達成感ややりがいを強く感じられるようになります。
やりがいのある環境は、従業員の忠誠心を高める効果を持ちます。「自分の努力が組織に貢献している」という実感が得られることで、さらに意欲が高まり、正のスパイラルが形成されます。結果として、企業は持続的に成長し、競争優位を確立することが可能となります。
このとき重要なのは、現状の人的リソースに見合った「質」と「量」の仕事を用意することです。質の面では従業員の評価につながりやりがいを感じられる仕事を用意するということ、量の面では従業員が残業せずに勤務時間いっぱいでちょうどこなしきれる量の仕事を用意することが大事です。
背伸びをして過剰に案件を抱える必要はありません。むしろ、組織の規模に合った適切な案件を精選し、安定した稼働状況を作り出すことこそが、成長期の企業に求められるマネジメントの役割といえるでしょう。

安い仕事を受ける条件

とはいえ、安い仕事を一切受けないというのも現実的ではありません。どんな企業でも「安売りセール」のように、戦略的に低価格の商品やサービスを提供することはあります。重要なのは、その目的と位置づけです。期間を限定し、顧客に高価格帯の商品やサービスを同時に購入してもらうための導線として安い仕事を用いることは有効です。
例えば、新規顧客に対して「お試し価格」でサービスを提供し、満足度を高めたうえで本来の価格帯の案件につなげるといった戦略があります。あるいは、大口契約の一部として、付随的に低価格業務を含めることで全体として高収益を確保する方法も考えられます。この場合、安い仕事は単独で存在するのではなく、高い仕事と結びついて初めて価値を持ちます。また、自社の仕事が価格に見合った品質を備えていることをPRするために、まずは安い仕事で意識してもらうという活用法も考えられます。
また、従業員側にとっても「この案件は次につながる」と理解できれば、安い仕事に対する抵抗感は軽減されます。つまり、安い仕事をただ単に受け入れるのではなく、「どう利用するか」を経営者が明確に示すことが欠かせません。そうすることで、安い仕事が組織にとってプラスに働くケースも確かに存在します。

まとめ

成長期の企業は売上拡大を至上命題とし、つい安い仕事も含めてすべて受け入れてしまいがちです。しかし、それは人的リソースを圧迫し、残業や離職を招き、組織の活力を損なう危険性をはらんでいます。重要なのは、安い仕事を中心に据えるのではなく、生産性とやりがいを軸にマネジメントを行うことです。従業員の忠誠心を高める環境を整え、正のスパイラルを生み出すことで、持続的な成長が実現されます。
もっとも、安い仕事を完全に排除する必要はありません。戦略的に利用することで、高価格案件の獲得や顧客基盤の拡大に寄与することもあります。要は「安い仕事を受けてもよいが、安い仕事”だけ”を請けない」姿勢が肝心です。成長期を乗り越え、企業が次のステージへと進むためには、この判断基準を常に意識し続けることが求められます。
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