警備会社の倒産が増加傾向
近年、警備会社の倒産が目立つようになってきました。中小規模の警備会社を中心に、事業継続が困難となり市場から退場していくケースが相次いでいます。一見すると、警備業界の話は特定業界の問題に思えるかもしれませんが、実はこの倒産ラッシュが社会全体に及ぼす影響は決して小さくありません。
警備会社の経営が苦しくなっている最大の要因は、深刻な人手不足です。警備員の仕事は、建物やイベント会場の巡回、交通誘導といった業務が中心ですが、その裏には不規則なシフト、炎天下や寒冷地での長時間勤務、トラブル時の対応など、身体的にも精神的にも負担が大きい環境があります。その割に賃金水準が低く、キャリアアップの道も限定的であるため、若年層を中心に敬遠される職種となっています。
さらに、少子高齢化の進行により労働力人口そのものが減少しているため、人材確保は年々難しくなっています。人手が足りなければ受注できる案件も減り、企業としての売上・利益が減少し、経営悪化に直結するという悪循環に陥っています。
こうした状況下で、倒産する警備会社が増えることで、建設現場やイベント会場、商業施設など日常生活に密着した場所での警備体制が脆弱化していきます。そこで本稿では、警備会社の倒産が単なる業界内の問題ではなく、社会全体に深刻な影響を及ぼすことを説明します。
警備会社社員は警察官ではない
警備員の業務は、イベントや施設での人や車両の誘導、建物内外の巡回、監視カメラのモニタリングなど、一般の目から見ると「それほど難しくない仕事」と捉えられがちです。しかし、実際の現場では、突発的なトラブルやアクシデントに対応する重要な任務が課せられています。
イベント会場での群衆事故、建設現場での車両接触事故、不審者対応など、警備員が瞬時に判断し対応しなければならない場面は数多く存在します。こうした対応次第で被害の大小が決まるため、警備員には冷静な判断力と状況対応力が求められます。
問題は、制服を着て現場に立っていることで、一般の人々が警備員を「警察官に近い存在」と誤認しがちな点です。警備員は、基本的には私人であり、警察官のような公権力や法的強制力を持っていません。しかし、外見上は警察官と大差がないため、現場での指示や対応に対して、周囲が警察官同様の対応を期待してしまいがちです。
この認識のギャップは非常に危険です。例えば、警備員が制止したにも関わらず無視して進入する悪質な来場者がいた場合、警備員ができる対応は極めて限定的です。また、重大な犯罪が発生した場合の初動対応も警察官のようにはいきません。現場では「制服を着た人がいるから安心」と思われていますが、実際の能力や権限は全く異なるという現実を社会全体が認識しなければ、警備体制の脆弱化に気づかぬままリスクを抱え込むことになります。
人手不足から誰でも採用
警備業界の深刻な人手不足は、採用基準の大幅な緩和をもたらしています。本来ならば、冷静さ・責任感・体力など一定の資質を備えた人材が求められる職種ですが、現状では「来てくれるなら誰でも良い」という状態にまでなりつつあります。
特に高齢者の採用が急増しており、70代以上の警備員も珍しくありません。もちろん、経験豊富で責任感の強い高齢者も多く存在しますが、体力的な限界があるのも事実です。また、働く意欲はあっても責任感に乏しいフリーター層が「とりあえず日雇い感覚」で働くケースも増えており、有事の際に適切な対応ができるかは大きな不安材料となっています。
こうした状況では、平常時に業務をこなす分には問題なくても、突発的なトラブル時に警備員が適切に動けず、かえって事態を悪化させてしまうリスクが高まります。現場でのOJT(現場教育)やマニュアル教育も、急場しのぎのものになりがちで、真に緊急時に役立つスキルや判断力を身につけられる環境が整っているとは言い難いのが現状です。
こうした質の低下が警備業界全体に波及すれば、社会全体の安全性も知らぬ間にじわじわと損なわれていくことになります。安易な採用で現場に送り出された「質の低い警備員」が、どれだけのリスクを社会に生み出しているか、私たちはもっと真剣に考えなければなりません。
大規模イベントを狙った愉快犯が増加
ここ数年、大規模イベントを狙った愉快犯的な犯罪や悪質ないたずらが急増しています。SNSの普及により、些細ないたずらが瞬時に拡散される環境が整い、承認欲求を満たすために目立った行動を起こす者が後を絶たない状況となっています。イベント会場での異物混入、フェイク情報の拡散、観客同士のトラブル誘発など、その手口は多岐にわたります。
こうしたトラブルに対して、主催者側が最前線で防御線を張れる唯一の存在が警備員です。しかし、前述の通り人手不足や倒産の増加により、現場に配置される警備員の質と量が落ちている現状では、必要な対応力が維持できない事態が懸念されます。
特に地方都市で開催される中規模イベントでは、予算不足から警備体制を削減せざるを得ないケースも増えています。その結果、リスクに対する備えが不十分なままイベントを開催し、トラブルが発生してから初めて問題の深刻さに気付く、という状況が相次いでいるのです。
イベントの成功には、華やかなステージ演出や運営スタッフの努力だけでなく、見えないところで安全を支える警備員の存在が不可欠です。警備会社の倒産や質の低下は、単なる業界問題ではなく、イベント文化そのものの存続に関わる重大な社会課題と言えるでしょう。
二極化へ
警備業界が直面する人手不足と倒産の波は、業界内の「二極化」をさらに加速させると予測されます。一方では、コストをかけてでも高品質な警備体制を維持しようとする企業が登場し、他方では低価格を売りにしながら質を犠牲にする業者が増えていくという構図です。
国際的なスポーツ大会や大型フェスティバルなどの大規模イベントでは、警備が不十分であることがブランドイメージや集客力に直結するため、主催者側は高賃金でも優秀な人材を確保しようとします。こうした需要に応えるために、高度な研修や福利厚生を整え、職業としての警備業を魅力的にする企業が増えていくでしょう。
一方、予算的に余裕のない小規模イベントや地方の施設では、どうしても低コストを優先せざるを得ず、「安かろう悪かろう」の業者に頼らざるを得ない状況が続くと予想されます。この二極化は、単なる価格差だけでなく、現場での安全性という形で参加者にも明確な差異として現れることになります。
このような構造を放置すれば、結果的に「安全なイベント」と「危険なイベント」の格差が広がり、社会全体として安全性が低下するリスクが高まります。警備業界の未来を左右するのは、企業努力だけでなく、業界全体としての制度設計や社会全体で警備という仕事の価値を再認識する動きが不可欠です。
まとめ
警備会社の倒産増加は、業界内部だけの問題にとどまらず、社会全体の安全を脅かす重大なリスクとなっています。人手不足から質の低下を招き、警備員がトラブル時に適切な対応を取れなくなれば、イベントや日常生活の安全性は確実に低下します。愉快犯的な行為が増える中、警備会社の倒産や質の低下は、見過ごすことのできない社会課題です。
今後は「高くても質の高い警備会社」と「安かろう悪かろうの業者」との二極化が進むと予想されますが、この流れを是正するためには、社会全体で警備の重要性を再評価し、適正な対価と労働環境を整備することが求められます。単なるコスト削減の対象としてではなく、安全と安心を支える社会インフラとして警備業を位置付け直すことが、今後の日本社会にとって不可欠です。
当研究所では、人手不足の環境下において企業の倒産防止のための総合的な施策の構築と実行に向けた支援を行っております。下記よりお気軽にご相談ください。


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