歯科医業界は激戦だが戦略が勝敗を分ける【公認会計士×中小企業診断士が解説】

事業再生

歯科医院の倒産が増加傾向

かつて医師免許を取得すれば将来は安泰、と考える人は多くいました。しかし、現在ではそのような見通しは必ずしも正しくありません。特に開業医の分野では、競争の激化と経営の難しさから倒産件数が増加傾向にあります。歯科業界も例外ではなく、患者数の確保や設備投資、人材の確保といった課題に直面しながら日々運営されているのが実情です。
大きな病院に勤務する場合も、医師としての収入が年功序列で伸びづらくなっており、安定した給与は得られるものの、思うような生活の質の向上が望めないケースも少なくありません。そのため、自らの裁量で収入を得ることができる開業医を志す人も多いのですが、経営センスや立地戦略、ブランディングといった非医療的な能力が求められる現実に直面することになります。
こうした背景から、医院の開業は従来のような「診療ができればよい」という時代ではなくなってきており、経営戦略が重要な意味を持つようになっています。そこで本稿では、歯科業界を一例として、現代における開業医の難しさと、それを乗り越えるための戦略について解説していきます。

歯科医は高収入・低リスクだが

歯科医師は、他の診療科と比べて高収入かつ医療リスクが低い分野として長らく魅力的な職業とされてきました。実際、外科手術などを必要とする分野と異なり、歯科は比較的ルーチン的な診療が多く、設備もコンパクトにまとめやすいため、都市部や住宅地近くでの小規模な開業がしやすい業種です。
また、利便性の高い立地に開業すれば患者としてもありがたく、固定客を確保しやすくなり、口コミなどの地域の評判も収入に直結します。特に虫歯治療や定期検診、ホワイトニングなどは継続性のあるサービスであり、リピーターの獲得も可能です。そのため、安定した収益を得ながら、なおかつ医療過誤による訴訟リスクも他の診療科よりは低いという特長がありました。
このような特性が、多くの歯科医師を開業に向かわせる大きな要因となっていましたが、結果として別の課題が浮上してくることとなります。

競争激化と差別化困難

歯科医院が「開業しやすい」「儲かりやすい」というイメージを持たれていたこともあり、ここ数十年で街中の歯科医院の数は急増しました。その結果、患者数の取り合いが生じ、医院ごとの収益性が大きくばらつくようになりました。地域によっては、1キロ圏内に複数の歯科医院がひしめき合い、新規開業でも安定した患者数を得ることが困難になっています。
さらに、医療技術の進歩と生活習慣の改善により、虫歯の発生率自体が低下していることも問題を深刻化させています。かつてのように「患者が自然と集まる」時代は終わりを迎えており、今や歯科医院が患者に選ばれる努力をしなければならない時代となっています。
しかしながら、医療という本質的に差別化が難しい分野においては、他院との差異を打ち出すことが容易ではありません。「うちの医院は丁寧です」「最新設備があります」といった訴求は多くの医院で共通しており、患者側からするとどこを選べばよいのか判断しづらくなっています。
このような状況では、従来の手法では経営は立ち行かなくなり、新たな業務分野への進出や、価値提案の再構築が求められるようになります。

予防歯科などの新しい業務

競争が激しくなり、従来の虫歯治療だけでは生き残りが難しいと感じた歯科医院の中には、「予防歯科」や「審美歯科」といった新しい分野に取り組むケースが増えてきました。予防歯科とは、虫歯や歯周病になる前の段階で、口腔環境を整えることで病気の発生を未然に防ぐ診療スタイルです。これは高齢化社会の到来とも相性が良く、今後の主流になると見られています。
また、テクノロジーの進化によって、AIや画像診断の自動化なども導入が進んでおり、従来の人手に依存した運営から一歩進んだモデルが模索されています。こうした新しい技術を取り入れることで、診療の効率化だけでなく、サービスの質の向上にもつながります。
つまり、これからの歯科医院は「病気を治す場所」から「健康を守る場所」へと役割を変えていく必要があります。これに対応できる歯科医師こそが、今後の市場において生き残る存在となっていくでしょう。

医院のコンセプトを描いて差別化を

生き残るための戦略のひとつとして、医院の明確な「コンセプト作り」が不可欠です。たとえば「子ども専門の歯科医院」や「ホワイトニング特化型」「痛みの少ない治療を重視」など、患者が一目で「この医院はこういうところだ」と理解できるようにすることが大切です。
これは単なる装飾や宣伝文句ではなく、医院の内装・スタッフの応対・診療の進め方すべてに一貫性を持たせることによって実現されるべきです。また、WebサイトやSNSを活用し、地域の住民に情報を届ける取り組みも重要です。
開業当初からこうしたビジョンと戦略を持って運営するかどうかで、その医院の将来は大きく左右されます。自院がどのような課題を解決し、どのような価値を提供するのか、経営者である歯科医師が言語化できるか否かが成否のカギを握ります。

まとめ

かつては「安定」「高収入」とされてきた歯科医業界も、時代の流れと共にその環境は大きく変化しました。都市部に歯科医院が乱立し、競争が激化するなかで、従来の治療中心の経営モデルでは生き残りが難しくなってきています。虫歯の減少という社会的な変化も加わり、従来通りの発想では対応しきれない状況です。
今後の歯科医院経営には、予防歯科や審美歯科など新たな業務領域への対応、テクノロジーとの融合、そして明確な医院コンセプトによる差別化戦略が求められます。医療技術に加え、経営やマーケティングの視点を持つことで、ようやく歯科医院としての「第二の開業」が見えてくるでしょう。
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