違法な捜査には徹底対策が必要【弁護士×ITストラテジストが解説」】

リスクマネジメント

強制捜査はできないが・・

刑事手続においては、逮捕や捜索・差押えといった強制的な処分は、原則として裁判所の発する令状がなければ行うことができません。これは個人の自由やプライバシーを守るための極めて重要な原則であり、法治国家の根幹をなすルールです。したがって、警察が市民に対して身体拘束や住居への立ち入りを行う場合には、厳格な手続が要求されます。
しかし現実の捜査現場では、この原則が形式的に守られていても、実質的には逸脱している場面が少なくありません。典型的なのが「任意捜査」と称しながら、事実上は強制に近い形で行われる取り調べです。例えば、事情聴取に応じたところ長時間にわたり帰宅を許されない、退席の意思を示しても説得や威圧によりその場に留め置かれる、といったケースが見受けられます。表向きは任意であっても、実際には心理的拘束が強く働き、自由な意思決定が困難になっている状況です。
このような手法は、法律上は違法と評価され得るものです。しかし、後からその違法性を主張し、捜査の結果を覆すことは容易ではありません。なぜなら、捜査の現場で何が起きたのかは当事者間で認識が食い違うことが多く、客観的な証拠が乏しい場合には、捜査機関側の説明が採用されやすい傾向があるからです。その結果、違法な手続が問題視されないまま、供述や証拠がそのまま裁判で用いられてしまう危険があります。
したがって、こうした事実上の強制捜査に直面した場合には、その場で適切な対応を取ることが極めて重要になります。そこで本稿では、任意捜査の名のもとに行われる違法・不当な行為に対して、どのように備え、どのように対抗していくべきかについて、実務的な観点から整理していきます。

違法を感じたら録音・録画を開始せよ

近年、刑事手続においては取り調べの可視化が進み、一定の重大事件については録音・録画が行われるようになっています。これは捜査の適正を担保し、後日の紛争を防ぐための重要な制度です。しかし、この制度があるからといって、すべての取り調べが完全に記録されているわけではありません。対象となる事件は限定されており、軽微な案件や任意同行の場面では録画が行われないことも少なくありません。
また、仮に録画が存在していたとしても、そのすべてが弁護側に開示されるとは限りません。実務上は必要部分のみが提出されるにとどまり、前後のやり取りや圧力の有無が不明確なままとなるケースもあります。このような状況では、捜査の適法性を争うための材料が十分に確保されているとは言えません。
そこで重要となるのが、当事者自身による記録の確保です。違法または不当と感じる取り扱いを受けた場合には、速やかに録音や録画を開始することが極めて有効です。スマートフォンなどを用いた記録は、捜査の実態をそのまま残す手段として強い証拠価値を持ちます。特に、長時間の拘束や退席拒否、威圧的な発言といった状況は、口頭の主張だけでは立証が困難であるため、客観的な記録が決定的な意味を持ちます。
裁判所は一般に、供述の信用性については慎重に判断するものの、捜査機関の違法行為の有無については消極的に認定する傾向があります。単なる当事者の主張の対立では、違法性が否定されてしまう可能性が高いのが実情です。そのため、録音・録画といった客観的証拠が存在するか否かが、結論を大きく左右することになります。
さらに、記録を取るという行為自体が、捜査側の対応を抑制する効果を持つ点も見逃せません。可視化されていることを意識すれば、不適切な言動は控えられやすくなります。このように、自ら証拠を確保することは、防御と予防の両面において重要な意味を持つのです。

違法であればすぐに証拠が却下されるわけではない

録音や録画によって違法な捜査の実態を明らかにすることができれば、それで問題が解決するように思われがちです。しかし、実際の裁判実務はそれほど単純ではありません。確かに、客観的な記録があれば、捜査の過程に違法な要素があったことを認定させること自体は比較的容易になります。長時間の拘束や威圧的な取り調べが映像として残っていれば、その存在を否定することは困難だからです。
ところが、違法な捜査があったと認定された場合でも、直ちにそこで得られた証拠がすべて排除されるわけではありません。刑事裁判においては、違法収集証拠の排除について一定の基準が設けられており、単に違法であるというだけでは足りず、その違法の程度や証拠の重要性などが総合的に考慮されます。その結果、違法性が認められても証拠能力は維持される、という判断が下されることが少なくないのです。
特に問題となるのは、違法な手段によって発見された物的証拠です。例えば、違法な捜索によって明らかに禁止されている物品が見つかった場合、それを証拠として用いることを一律に否定するのは不合理であると考えられる傾向があります。裁判所は、社会的に見て重大な違法物の存在を無視することの不当性にも配慮するため、証拠の採否について慎重なバランスを取ろうとします。
このような実務の枠組みを踏まえると、違法捜査への対応は単に「違法である」と主張するだけでは不十分であることが分かります。違法性の立証は出発点にすぎず、その先にある証拠排除の判断にまで踏み込んだ主張と立証が求められます。したがって、対策としては、違法性の程度や捜査の態様がいかに重大であったかを具体的に示し、証拠の利用を許すことが相当でないことを丁寧に論証する必要があります。

必要性・相当性

裁判所が違法収集証拠の可否を判断する際に頻繁に用いるのが、「必要性」と「相当性」という枠組みです。この考え方は、捜査の目的達成のためにどの程度の手段が許容されるかを評価するものであり、形式的な違法性の有無だけでなく、実質的な妥当性を検討するための基準として機能しています。
例えば、警察官が令状なしに個人のポケットに手を入れて中身を取り出す行為は、それ自体としては明らかに違法です。しかし、その人物が違法物を所持している強い疑いがあり、証拠が失われる危険が差し迫っているといった事情がある場合には、捜査の必要性が認められる可能性があります。そして、暴力を伴わず最小限の方法で行われたのであれば、その手段は相当な範囲にとどまると評価される余地が生じます。
このような場合、裁判所は「捜査は違法であるが、発見された証拠の証拠能力までは否定しない」という判断を下すことがあります。つまり、違法性の有無と証拠の採否は必ずしも一致せず、必要性と相当性の観点から独自に評価されるのです。この枠組みは、個人の権利保障と犯罪の発見・処罰という二つの要請を調整するためのものですが、実務上は捜査機関に有利に働く場面も少なくありません。
したがって、違法な捜査に対抗するためには、この必要性・相当性の判断を意識した主張立証が不可欠となります。具体的には、当該場面において本当に緊急性や証拠隠滅のおそれがあったのか、他により穏当な手段を採ることができなかったのか、といった点を詳細に検討し、それらが欠けていることを示す必要があります。また、捜査の方法が過度であったり、威圧的であったりした場合には、それが相当性を逸脱していることを具体的事実に基づいて指摘することが重要です。
このように、単なる違法性の主張にとどまらず、必要性・相当性の双方に切り込むことで、初めて証拠排除の可能性が現実的なものとなります。対策は一段深いレベルで構築する必要があるのです。

そもそも疑われないことが大事

これまで見てきた枠組みを総合すると、違法捜査への対応がいかに困難であるかが理解できます。違法性を立証し、さらに証拠排除にまで持ち込むためには、多くのハードルを越えなければなりません。そのため、より本質的な対策として浮かび上がるのが、「そもそも疑われないこと」の重要性です。
一度捜査の対象として疑いを持たれると、捜査機関はその疑いを前提として行動します。事情聴取は長時間に及び、細かな点まで繰り返し確認されることになりますし、対応次第では強制的な手段に移行する可能性も高まります。こうした状況では、本人がいかに冷静に対応しようとしても、心理的な圧力が蓄積し、不利な供述をしてしまう危険が増大します。
さらに、疑いが強まるにつれて、捜査の必要性が認められやすくなります。必要性が高いと評価されれば、それに伴って許容される手段の範囲、すなわち相当性の判断も緩やかになる傾向があります。その結果、本来であれば問題とされるべき手法であっても、一定程度は許容されるとの評価がなされる可能性が出てきます。この構造を踏まえると、疑いを招く状況自体を回避することが、結果として最も有効な防御策であることが分かります。
具体的には、日常生活において誤解を招く行動を避けることや、トラブルの種となる関係性に安易に関与しないことが挙げられます。また、万一事情を聴かれる場面に遭遇した場合でも、軽率な発言を控え、事実関係を整理した上で慎重に対応する姿勢が求められます。曖昧な説明や矛盾した発言は、それ自体が疑いを強める要因となり得るため注意が必要です。
このように、違法捜査に対抗するための知識や手段を備えることは重要ですが、それ以上に、捜査の端緒となる疑念を生じさせない行動を心がけることが、結果として最も確実なリスク回避につながります。予防という観点を軽視してはならないのです。

まとめ

違法な捜査に対する対策は、一つの手段に依存するのではなく、複数の視点から総合的に構築する必要があります。まず前提として理解すべきは、法律上は令状主義が採られているにもかかわらず、実務においては任意捜査の名のもとに強い拘束が加えられる場面が存在するという現実です。このギャップを認識することが、適切な対応の出発点となります。
次に重要なのは、そのような状況に直面した際に、いかにして客観的な証拠を確保するかという点です。録音・録画は、捜査の実態を明らかにするための有力な手段であり、違法性の立証において決定的な役割を果たします。記録が存在するか否かによって、その後の展開は大きく左右されるため、迅速な対応が求められます。
もっとも、違法性が認定されたとしても、それだけで証拠が排除されるわけではありません。裁判所は、証拠の重要性や社会的影響を考慮しながら、証拠能力の有無を慎重に判断します。このため、単なる違法の指摘にとどまらず、証拠の利用を許すことが不相当であることを具体的に主張する必要があります。
その際の鍵となるのが、必要性と相当性という観点です。捜査の必要性が乏しく、かつ手段が過度であったことを示すことができれば、証拠排除の可能性は高まります。この段階に至って初めて、違法捜査への対抗が実質的な意味を持つものとなります。
さらに根本的な視点として、疑われない行動の重要性も見逃せません。疑いを持たれること自体が、捜査の強度を高め、結果として不利な状況を招く要因となるためです。日常的な行動の積み重ねが、最終的なリスクの大小を左右することを意識する必要があります
以上のように、違法捜査への対策は、現場対応、証拠確保、法的主張、そして予防という複数の要素から成り立っています。これらを総合的に理解し、状況に応じて適切に行動することが、自身の権利を守るうえで不可欠であると言えるでしょう。
当研究所では違法捜査に対応した経験が豊富です。もし、違法捜査でお悩みでしたら、下記よりお気軽にご相談ください。

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