接客業の倒産も増加。背景には人手不足以外の事情も
近年、接客業の倒産件数は確実に増加傾向にあります。特に保育園業界では前年比で7割増という報告もあり、介護施設など他のサービス業でも同様の傾向が見受けられます。接客業に限らずサービス業全般において「人がサービスを提供する」ことが中心であるため、人手不足は古くからの大きな課題でした。しかし、ここにきて倒産件数が目立って増加している背景には、単なる人手不足だけでは説明しきれない要素が潜んでいます。
もちろん、少子高齢化によってそもそも業界に従事する人の母数が減少しているという問題は無視できません。しかし、それだけではなく、長時間労働の慢性化や、働き方改革に伴う人件費の増大、さらにはコロナ禍をきっかけとした需要の変動など、複合的な要因が絡み合っています。また、AIやセルフレジなどの省人化技術の導入も進んでいる一方で、まだまだ人の手でしか対応できない部分が多い現場では、従業員の負担感が強まっています。
そこで本稿では、こうした倒産増加の背景を踏まえながら、特に人手不足を助長する構造的な問題と、その解決の糸口となる対策について順を追って説明していきます。人手不足の裏にある現場を守る仕組み作りと人材定着のための取り組みについて、具体的に考えていきたいと思います。
求められる高いスキルと転職率
接客業の特性として、提供する商品が物ではなく「サービス」である点が大きな特徴です。そのため、スタッフ一人ひとりの接客スキルの高さが店舗や施設全体のサービス品質を大きく左右します。逆に言えば、いくら立派な設備や商品を用意していても、最前線に立つスタッフの対応が不十分であれば、顧客満足度は低下し、リピーターの確保も難しくなります。
このように高いスキルが求められる接客業ですが、問題はその人材をどう育て、どう留めるかという点です。多くの企業はOJTを通じて新入社員を育成し、ようやく一人前のスキルを身につけた頃には、より好待遇の企業へ転職されてしまうという悩みを抱えています。特に中小企業においては、せっかく育てた人材を引き留める手立てが十分に整っていないことが多く、結果として慢性的な人手不足に陥りがちです。
さらに、若年層の価値観の変化もこの傾向に拍車をかけています。以前よりも「一つの職場で長く勤め続ける」ことにこだわらない世代が増えており、スキルを身につけた後にキャリアアップのための転職を前向きに考える人が多いのです。こうした現状を踏まえれば、企業は単にスキルを教えるだけでなく、スタッフが「ここで長く働きたい」と思える環境を整備する必要があります。
カスハラによる精神的負担
最近では「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉が広く知られるようになりましたが、これは接客業に従事する人々にとって深刻な問題です。特に介護や保育といった、ただでさえ身体的にも精神的にも負担が大きい職場では、利用者やその家族などからの理不尽な要求や暴言が日常的に発生しています。
カスハラが繰り返されると、従業員のメンタルヘルスは大きく損なわれ、最悪の場合、休職や退職を余儀なくされるケースも珍しくありません。特に、サービス精神が強く責任感のある人ほど、理不尽な要求に応えようと無理を重ねてしまいがちです。このような状態が続くと、せっかくスキルを磨いた人材が次々に現場を離れてしまい、人手不足がさらに深刻化するという悪循環に陥ります。
さらに、カスハラは従業員だけでなく、企業の評判にも影響します。スタッフが疲弊しきった状態で対応すれば、当然サービス品質も低下し、クレームが増加するという負のスパイラルが発生します。これを断ち切るには、従業員が「理不尽な要求には毅然と断れる」という安心感を持てる体制を整えることが不可欠です。
クレーム対応を現場に任せてはいけない
カスハラ対策としてまず考えたいのは、クレーム対応の在り方です。多くの接客業では、クレームや理不尽な要求の初期対応を現場のスタッフに任せているケースが少なくありません。しかし、この方法では、スタッフがストレスを抱え込むだけでなく、顧客とのトラブルがさらに大きくなることもあります。
効果的な対策としては、クレームや過度な要求を一括して処理する専門部署を設けることが挙げられます。また、中小規模の企業で専門部署の設置が難しい場合は、外部の顧問弁護士を活用する方法もあります。法的な専門家を介在させることで、理不尽な要求に対しても毅然とした対応が可能となり、現場スタッフは本来の業務に集中することができます。
さらに、クレームの内容や発生状況をデータとして蓄積・分析する仕組みを導入すれば、トラブルの傾向を把握し、再発防止策を講じることも可能です。重要なのは、現場のスタッフが「自分たちを守ってくれる仕組みがある」と実感できることです。この安心感が働きやすさにつながり、結果として人材の定着率向上にも寄与します。
人材が定着するための仕掛けを用意する
カスハラ対策やクレーム対応の分業化が整った後は、人材が安心して長く働ける職場をつくることが重要です。接客業は「人の力」が最も重要な資源ですので、従業員がモチベーションを維持できる仕掛けをいかに用意するかが経営者の腕の見せ所と言えます。
たとえば、個々のキャリアプランを定期的に話し合う場を設け、従業員が将来の目標を具体的に描けるようにサポートすることは大切です。また、スキルアップや資格取得を応援する制度を整えれば、自己成長を実感しながら働き続けられます。さらに、社内でのコミュニケーションの活性化も見逃せません。部署や役職を超えた懇親会や交流イベントを通じて、職場への愛着を高め、ストレスを軽減する効果が期待できます。
企業文化として「何かあれば相談できる」「助け合える」という雰囲気を醸成することも重要です。日常的な声かけや、上司の面談機会の充実など、取り組めることは数多くあります。これらを積み重ねていくことで、転職率を下げ、接客業における倒産リスクを根本から減らすことができるのです。
まとめ
接客業の倒産増加には、単純な人手不足だけでは説明できない、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。高いスキルを求められる職種だからこそ、従業員は成長すると転職しやすく、人材の流出が後を絶ちません。また、カスハラ問題によって精神的な負担を抱える従業員も多く、現場に過度な責任を背負わせる体制では人材は定着しにくいのが現実です。
こうした状況を打破するには、現場の負担を減らす仕組み作りが不可欠です。クレーム対応を専門部署や外部の専門家に任せることにより、スタッフが本来の業務に専念できる環境を整えましょう。そのうえで、キャリアプランの明確化やコミュニケーションの場づくりなど、従業員が「ここで働き続けたい」と思える職場環境を築くことが求められます。
接客業の経営者の方々には、今一度、自社の人材育成や定着に向けた仕掛けが十分かどうかを見直していただきたいと思います。地道な取り組みの積み重ねこそが、人手不足の克服と倒産回避につながる最大の武器となるはずです。
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