執行猶予は人生の崖っぷち
刑事事件で執行猶予付きの判決が出た場合、直ちに刑務所に収容されるわけではありません。しかし、それは「許された」という意味ではなく、「次はない」という状態に置かれたことを意味します。執行猶予期間中に再び罪を犯せば、新たな刑罰だけでなく、前回の刑も合わせて執行されることになります。形式上は自由の身であっても、実質的には極めて不安定で緊張を強いられる状態だと言えます。
この「崖っぷち」の状態は、刑事事件に限った話ではありません。会社において重大なミスを犯し、「次はない」と明確に認識している立場や、男女関係において信頼を失い、次に同じことをすれば完全に関係が破綻する状況など、人生のさまざまな局面で誰しも経験し得るものです。表面上は日常が続いていても、内実は一度の失敗で全てを失いかねない危険な均衡の上に立たされています。
このような状況に陥ると、多くの人は「もう失敗しなければいいだけだ」と考えます。理屈としてはその通りですが、問題は「失敗しないこと」が決して簡単ではない点にあります。人間は感情に左右され、集中力を欠き、時に判断を誤ります。どれほど注意していても、想定外の出来事や一瞬の油断によって、取り返しのつかない結果を招くことがあります。
だからこそ、崖っぷちの状態にある人間には、通常よりもはるかに厳格なリスクマネジメントが求められます。「気をつける」「反省する」といった精神論だけでは不十分です。失敗が起こり得る前提に立ち、どのような行動が危険で、どのような場面が致命的になり得るのかを冷静に見極め、日常の行動を組み替える必要があります。そこで本稿では、こうした崖っぷちの状態にある人間が取るべき具体的なリスクマネジメントについて、順を追って考えていきます。
過失には特に要注意
執行猶予付き判決を受けた人に対して、弁護士や裁判官が口をそろえて注意を促す行為の一つが車の運転です。多くの場合、意図的に犯罪を犯すつもりはなくとも、交通事故のような過失による結果は完全には避けられないからです。信号の見落とし、わずかな判断ミス、不注意な操作など、日常的に起こり得る行為が重大な結果につながる可能性をはらんでいます。
過失の厄介な点は、本人の性格や道徳心とは無関係に発生するところにあります。真面目で誠実な人であっても、「ついうっかり」は起こります。睡眠不足や体調不良、急いでいる状況などが重なれば、普段ならしないようなミスを犯すことも珍しくありません。人間である以上、過失を完全にゼロにすることは不可能です。
しかし、崖っぷちの状況では、その「誰にでもあるミス」が致命傷になります。通常であれば注意や反省で済む事柄でも、立場が不安定な状態では、取り返しのつかない評価や結果につながりかねません。そのため重要なのは、過失そのものを責めることではなく、過失が大きな結果に発展する場面を徹底的に避けることです。
例えば、車の運転が不可欠でないのであれば、公共交通機関を利用する、タクシーを使う、あるいは移動自体を減らすといった判断が求められます。仕事や私生活に多少の不便が生じたとしても、致命的なリスクを避ける方がはるかに重要です。同様に、注意力が必要とされる作業や、失敗が即大きな問題につながる場面についても、可能な限り距離を置く工夫が必要になります。
崖っぷちの状態では、「普通の生活」を維持しようとする意識自体がリスクになることがあります。今は特別な時期であり、特別な行動基準が必要なのだと認識し、日々を慎重に生きる姿勢を徹底することが、リスクマネジメントの第一歩となります。
飲酒は控えよう
普段は冷静で理性的に見える人でも、お酒を飲むと態度が大きく変わることがあります。これは決して珍しいことではなく、飲酒によって理性のブレーキが緩み、感情や欲求が前面に出やすくなるためです。普段は抑え込まれている本性が表に出るという点で、飲酒は人間の行動を大きく変える要因となります。
特に注意すべきなのは、怒りやすい性格、攻撃的な傾向、あるいは性的な衝動を抱えやすい人です。素面の状態では理性によって制御できていても、アルコールが入ることで判断力が低下し、言動がエスカレートする危険があります。本人に悪意がなくとも、周囲から見れば問題行動と受け取られ、深刻なトラブルに発展することがあります。
崖っぷちの状態にある人にとって、飲酒は極めてリスクの高い行為です。トラブルが起きやすいだけでなく、記憶が曖昧になることで、自分が何をしたのか正確に把握できなくなる点も問題です。「覚えていない」「そんなつもりはなかった」という弁解は、立場を悪化させる要因にしかなりません。
だからといって、必ずしも完全に禁酒しなければならないわけではありません。重要なのは、自分自身のリミットを正確に理解し、素面を維持できる範囲に抑えることです。一杯なら問題ないのか、二杯で危険なのか、その境界を過去の経験から冷静に見極める必要があります。そして、その限度を一切超えないという強い意志が求められます。
また、飲酒の場そのものを減らすことも有効です。酒席は人間関係を円滑にする一方で、トラブルの温床にもなりやすい環境です。崖っぷちの状況では、「付き合いだから」「断れないから」といった理由よりも、自身の安全を最優先に考える判断が不可欠です。
ハラスメント気質は改めよう
近年、社会において様々なハラスメントが問題視されています。パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントに加え、モラルハラスメント、カスタマーハラスメントなど、その類型は年々増加しています。これらの多くは刑事罰の対象とはならないものの、組織や人間関係に深刻な悪影響を及ぼす行為である点に変わりはありません。
崖っぷちの状態にある人にとって、ハラスメントは極めて危険な要素です。たとえ犯罪ではなくても、「問題人物」という評価が一度定着すれば、立場の回復はほぼ不可能になります。特に、職場や人間関係において信頼が揺らいでいる状況では、わずかな言動が決定打になりかねません。
注意すべきなのは、自分が無自覚のままハラスメントを行っている可能性がある点です。過去に自分が受けてきた指導や扱いを「普通」「当然」と認識していると、それを後輩や部下に繰り返してしまうことがあります。しかし、社会の価値観は変化しており、かつて許容されていた行為が現在では問題視されることも少なくありません。
「自分は悪意がない」「冗談のつもりだった」という認識は、通用しない場面が増えています。重要なのは、相手がどう受け取るかであり、発言者の意図ではありません。新しいハラスメントの概念や社会的な感覚を学び、自身の言動を常に点検する姿勢が求められます。
崖っぷちの状況では、過去の被害意識や不満を表に出す余裕はありません。自分が受けてきた不当な扱いが事実であったとしても、それを理由に同じことを他人にしてよいわけではありません。むしろ、そうした連鎖を断ち切る意識こそが、自身の評価を守るための重要なリスクマネジメントとなります。
性格を矯正する機会に
崖っぷちの状態で何も変えなければ、結果がどうなるかは運任せになりがちです。問題が起きなければ助かるし、起きれば終わりという、不安定で危険な状態が続きます。このような状況は精神的な負担も大きく、長期的に見ても健全とは言えません。
だからこそ、崖っぷちに立たされたときこそ、自身の性格や行動を見直し、矯正する好機と捉えることが重要です。うっかりミスが多いのであれば、行動を単純化する。飲酒によって問題が起きやすいのであれば、量や頻度を減らす。ハラスメントに該当しそうな言動があるのであれば、発言の前に一呼吸置く。こうした小さな改善の積み重ねが、致命的なリスクを遠ざけます。
性格を変えることは簡単ではありません。しかし、完全に別人になる必要はありません。危険につながる要素を自覚し、それを抑える仕組みを生活の中に組み込むだけでも、状況は大きく改善します。メモを取る、ルールを決める、信頼できる第三者に相談するなど、具体的な行動が重要です。
崖っぷちの状態は確かにピンチですが、見方を変えれば、これまでの生き方を修正する最後のチャンスでもあります。この機会を活かして行動を変えられるかどうかで、その後の人生は大きく分かれます。危機を単なる不運として終わらせるのか、それとも再出発の契機にできるのかは、自身の意識と行動にかかっています。
まとめ
崖っぷちの状態に置かれた人間にとって、最大の敵は「これまで通りで大丈夫だろう」という油断です。執行猶予付き判決に象徴されるように、表面的には日常が続いているように見えても、実際には極めて脆い立場に立たされています。その現実を直視せず、従来と同じ行動を続けることは、リスクを自ら高める行為にほかなりません。
本稿で述べてきたように、崖っぷちの状況では、過失、飲酒、ハラスメントといった一見些細に思える要素が、決定的な結果を招く引き金になり得ます。これらは悪意や犯罪意思とは無関係に発生することが多いため、精神論だけで防ぐことはできません。環境を変え、行動を制限し、危険な場面そのものを避けるという、現実的なリスクマネジメントが必要です。
また、重要なのは、崖っぷちの状態を一時的な不運としてやり過ごそうとしないことです。この状態は、自身の行動や性格を見直す強制的な機会でもあります。うっかりが多い、酒に弱い、言動が強いといった自分の特性を認識し、それに対処する仕組みを作ることは、将来の安定につながります。
崖っぷちに立たされた人間が取るべき道は、「何も起きないことを祈る」ことではありません。起き得る最悪の事態を想定し、それを避けるために日常を組み替えることです。その積み重ねによってのみ、再び信頼を取り戻し、立て直す可能性が生まれます。ピンチをチャンスに変えるための第一歩は、現実を直視し、慎重に、しかし着実に行動を変えることにあります。
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