別居する意味を改めて考えよう
結婚生活において、喧嘩やすれ違いが重なった結果、「もう一緒には暮らせない」「少し距離を置きたい」といった理由から「とりあえず別居する」という選択をする夫婦が増えています。特に、DVやモラハラといった深刻な理由による別居もあれば、比較的軽度な不満や倦怠感が積み重なった結果の別居も存在します。
一見すると「別居」は最終手段としての離婚よりも軽く、柔軟な対応策のように感じられるかもしれません。実際、「離婚はまだ考えていない」「一時的に距離を置けば気持ちが整理できるかもしれない」と考えて別居に踏み切る方も少なくありません。
しかし、冷静に考えるべきは、別居が単なる「一時避難」では終わらない可能性が高いという現実です。多くのケースで、別居がそのまま離婚への助走期間となってしまい、「修復不能」という結論に至ってしまうこともあります。
つまり、別居という選択は、たとえ離婚届に捺印するより軽く見えても、実質的には夫婦関係を終わらせる第一歩となりうる重要な決断なのです。その意味を軽視せず、冷静に見極めてから行動することが求められます。
そこで本稿では別居のメリット・デメリットをふまえて、その判断は離婚の判断と同程度に慎重に行うべきことを説明します。
夫婦間の問題をクールダウンさせる機会
とはいえ、別居がすべて悪いわけではありません。感情的に衝突しやすくなってしまった夫婦にとって、一定の距離をとることは有効な解決手段にもなりえます。
同じ空間で顔を突き合わせ続けていると、どうしても冷静さを失いがちです。「一緒にいると、些細なことでも言い争ってしまう」という状態にある夫婦にとって、距離を置くことは感情を落ち着け、状況を俯瞰的に見るための有効な時間となります。
別居期間中は、相手の存在のありがたみを再認識したり、自分自身の言動を振り返ったりする時間として使うことが可能です。また、お互いの意見や価値観の違いを冷静に分析できる余地も生まれます。第三者の介入(カウンセラーや家族、友人)も取り入れやすくなることで、建設的なコミュニケーションに転じるチャンスもあるでしょう。
そのため、別居は「関係を壊すため」ではなく「関係を見直すため」の手段として前向きに活用されるべきです。夫婦が互いの存在を再評価する時間を設けるという観点では、別居には一定の意味があります。
別居してしまうと話し合いの機会が減る
しかし一方で、物理的に距離を置くという行動は、心理的な距離をも生む可能性があります。特に、別居をきっかけにお互いの生活リズムが大きく変わってしまうと、「話し合うきっかけすら失う」という事態になりかねません。
実際、別居した当初は「落ち着いたら改めて話し合おう」と考えていても、時間の経過とともにその機会を逸してしまう夫婦が多く見られます。生活の場が別になることで、直接会話をする機会が減少し、LINEやメールなどの文字情報に頼るようになると、意思疎通の齟齬や誤解が生じやすくなります。
また、別居をしているという事実そのものが「夫婦関係はうまくいっていない」という心理的認識を強め、相手に対してよりネガティブな印象を抱きやすくなります。相手の悪い部分ばかりが記憶に残り、良かった時期のことは忘れてしまいがちです。
このように、別居は一時的に冷却期間としての意義がある反面、仲直りに向けた話し合いの場を失うという重大なデメリットも含んでいます。
長期間の別居は離婚原因となる
さらに注意すべきなのが、「別居状態が長期間続くと、法的に離婚の正当な理由とみなされてしまう」点です。日本の民法では、配偶者に重大な落ち度がなくとも、長期間の別居が続いている状態であれば、「婚姻関係が破綻している」と判断され、裁判所が離婚を認める場合があります。
具体的には、5年、6年と別居が続いていると、「もはや夫婦としての実態がない」と見なされやすくなります。この点については、家庭裁判所の判断に左右されますが、夫婦関係を修復したいと考えている一方の当事者にとっては、非常に不利な状況を招くこととなります。
つまり、別居は「離婚ではない」と軽く考えていたとしても、その継続期間次第では、将来的に「離婚と同等の意味合い」を持つことになってしまうのです。このリスクは、別居を考える際に必ず念頭に置いておくべきでしょう。
復縁の意思があっても相手が弁護士を立てて離婚意思を示すと事実上争いにくくなる
さらに深刻なのは、片方に復縁の意思があったとしても、もう一方が弁護士を通じて離婚を強く主張してくるケースです。たとえば、別居をして数か月たったある日、突然相手側の弁護士から「離婚協議書案」が郵送されてくるといった事態です。
この段階になると、もはや相手の離婚意思は明確であり、交渉は弁護士を介しての形式的なものとなります。本人同士での感情の交流や和解の余地は極端に狭まってしまい、復縁を望む側にとっては極めて不利な状況になります。
別居前に「これはあくまで冷却期間」と合意していたとしても、相手がその後の生活で離婚を決意し、法的な手続きに乗り出した時点で、その「合意」は過去のものと見なされてしまいます。つまり、別居という状態を軽視したがために、取り返しのつかない状況へと進んでしまうのです。
このように、別居には「感情を落ち着かせる」という面もある一方で、「関係の終焉を加速させる」要素も大いに含まれているという事実を見落としてはいけません。
まとめ
「別居」は「離婚」とは異なるという認識は一般的です。たしかに、法律的には別居それ自体が婚姻の終了を意味するわけではなく、戸籍にも変化はありません。しかし実質的には、別居は夫婦関係の重大な転機であり、関係修復か決裂かの分岐点となる行動です。
別居には一時的に夫婦間の問題を冷静に見直す時間を提供するというメリットがあります。感情のぶつかり合いから距離を置き、相手の存在を見つめ直すには有効な手段です。しかしその反面、物理的距離が心理的距離を生み、話し合いの機会が減少し、結果的に関係の修復が困難になるというデメリットも無視できません。
特に長期の別居は「婚姻関係の破綻」とみなされ、離婚の法的根拠となってしまうことがあります。さらに、別居を一時的な冷却期間と認識していても、相手が弁護士を立てて本格的に離婚を進めようとすれば、復縁は極めて困難となる可能性があります。
「とりあえず別居してみよう」という気持ちで踏み切ったとしても、その一歩が取り返しのつかない方向へ進むこともあります。だからこそ、別居は離婚届に捺印する行為と同等に慎重に扱うべき決断なのです。感情に任せず、冷静に未来を見据えたうえで、自分と相手の意志を明確に確認し合うことが何よりも大切です。
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