米の価格高騰によりパン屋の倒産が減少しているという分析報道
今年の米の価格高騰により、主食を米からパンに徐々に移行させている方は多いと思います。収入を増やすのが難しい中で家計出費を維持するためには、贅沢品の購入を諦めるか、こうした「割安な」ものに代替していくことが有効だからです。米の消費はおそらく減少し、代わりにパンの消費は増えているはずですが、ここで、今年1~4月期のパン屋の倒産件数が前年よりも大幅に減少しており、その要因が米の価格高騰だとする分析記事を見かけました。この記事に対しては専門家を中心にかなりのツッコミが入っており、信用できない記事だったわけですが、ぼんやり報道に触れているとうっかり騙されてしまいかねません。そこで本稿では、この件を題材としてデータ分析の基本的な考え方と、パン屋の倒産件数減少の背景にある事情について考察していきたいと思います。
母数と対象期間は必ず確認すべき
データ分析の基本としてチェックすべき事項は多いのですが、データの母数と対象期間は真っ先に確認すべき事項です。母数が大きいほど信用性は高く、対象期間を含めたデータの取り方次第でもデータから何が導かれるかは大きく変わってきます。
ここで、この元データは東京商工リサーチのデータベースのようなのですが、対象期間は1~4月とたった4か月と短く、季節性やその年のトレンドなどの影響の可能性を否定できません。そして、倒産件数は前年の13に対し、今年は7件と、割合で見れば約半減ですが、件数が少なすぎて誤差の入る可能性も高いと考えざるを得ません。そのため、この程度のデータで「今年はパン屋の倒産件数が減少した」と判断するのはあまりに早計で、そのことを論証したければもう少しデータ量・範囲を増やして分析すべきです。また、今年の2月は例年通り恵方巻きの大量生産・大量廃棄が問題となり、米の消費が大きく落ち込んだわけではないため、対象時期からしても米の消費と関連付けるのは難しいと考えられます。
高級パンブームの終焉が一段落
パン屋の倒産件数が減少したかどうかはこの元データからはわかりませんが、少し前の年になると30件以上の倒産が発生していた年もあり、ひょっとしたらパン屋の倒産減少の傾向はあるのかもしれません。しかし、その要因は高級パンブームの終焉と考えるべきでしょう。
数年前まで町のいたるところに高級パン店が開店していました。一時期ブームになった商品ですが、時価消費するには高過ぎ、贈答品としてしか使途がなくなったところにコロナ禍が来てブームが完全に終了しました。その後、フランチャイジーによる値下げ交渉もなかなかまとまらずにフランチャイズの離脱が相次いだためパン屋の倒産が相次ぎました。パン屋の倒産件数がここ数年にかけて減少しているのであれば、この巨大ブームの終焉が最も大きな要因と考えられます。
材料高・人手不足はパン屋も同じ
米からパンに主食が移っているといっても、決してパンも安いわけではありません。小麦など輸入材料に依存するため、分量的にも価格的にも安定調達が難しい部類に入る食料品です。加えて、パン製造の仕事は熟練技術であり、技術者の高齢化に伴う職人確保や技術承継の問題、配送や小売店でのレジ係など比較的定型業務の担い手も人手不足が続いています。すなわち、パン屋は決して余裕のある業態ではなく、家庭用の安価な食パンだけ製造・販売するだけではとても黒字化は難しいと考えられます。そのため、米が高くなったから皆、パンを食べるようになったというのも単純すぎる話で、パンも値上がりし続けていますし、同業者間の競争が激化しています。
因果関係はないが・・
こうして、米の価格が高騰したからパンや屋の倒産が減少した、とは言えないのですが、ではパン屋の経営は好転しているのかといいうと、その要因はいくつかあると考えられます。
お米もそれ自体には付加価値をつけられないため、高級おにぎりや寿司などで収益をあげる企業は多いですが、パンも単純な食パンだけではジリ貧になるため、様々なアイディアパンで任期を集めているパンや屋はたくさんあります。これまでの高級食パンは付加価値をつけすぎて価格が高すぎて消費者から敬遠されましたが、適度な付加価値をつけて、1個200円~300円程度の少し豪華なパンの販売促進ができるとお店の利益がしっかり確保しやすくなっているようです。そうすると、パンの競合相手は米ではなくドーナツやケーキなどのスイーツにあるとも考えられます。
まとめ
米が高くなったからパン屋の倒産が減少した、というのは現状のデータでは早計ですが、この先、もう少しデータが集積されればそのような分析が可能になるかもしれません。しかし、パン業界を見ていると、安さを訴求して食パンの販売促進を進めればよいわけではなく、収益をあげるために注力すべきは、適切な付加価値をつけた中間価格帯の商品メニューを充実させることにありそうで、中長期的にはやはり米とパンは競争関係には立たないかもしれません。こうした微妙な関係性を直感ではなくデータから読み取る必要性は年々、高まっています。
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