養育費は算定表から自動的に算定されるので簡単?
子どもの将来に直結する重要なお金、それが養育費です。離婚や別居に際して、相手方に養育費を請求する際、多くの方が「算定表を見れば大丈夫」と考えてしまいがちです。しかし、実際には「金額を決めた」だけでは十分とは言えません。そこで本稿では、養育費請求において必ず押さえておくべき実務的なポイントについて解説します。
養育費を決める際、一般的には家庭裁判所が公表している「養育費算定表」に基づいて金額を算出します。この算定表は、両親の年収(源泉徴収票などから確認)と、子どもの人数・年齢に応じて、どのくらいの養育費が妥当かをあらかじめ示してくれるものです。そのため、「自分で簡単に計算できる」と思われる方も少なくありません。
確かに、算定表は実務上の基準として広く使われており、基本的なケースではこれを使えば目安となる金額はすぐに分かります。しかし、ここで注意すべき点があります。それは、算定表が「最低限の目安」であり、実際の生活実態や教育費の水準などを反映しきれないということです。たとえば、私立学校に通っていたり、障害のあるお子さんがいる場合、想定される支出は大きく異なります。
さらに、算定表での計算に安心しきってしまうと、後の請求段階で不利になることがあります。たとえば、口頭の合意だけで金額を決めてしまい、公的な書類に残していなかった場合、相手が支払いを渋ったときに強制力を持たせることができません。「計算できた=支払いが確保された」わけではないことを、まずは理解しておく必要があります。
差押えのプレッシャーがなければ支払われないおそれ
養育費を取り決めたにもかかわらず、実際には支払われないというケースは珍しくありません。その背景には、養育費の支払いが「自発的な支払い」に依存しているという構造的な問題があります。つまり、払う側が本気で払おうとしない限り、何の圧力もなければ支払いが滞ることが現実として起きてしまうのです。
特に、養育費を支払う側が経済的に苦しい場合や、支払いの必要性を真剣に受け止めていない場合、養育費は生活費の中で「後回し」にされがちです。こうした状況を避けるためには、「差押えのリスク」を具体的に意識させる必要があります。そのために有効なのが、公正証書や調停調書の作成です。
これらの書類には、「養育費が支払われなかった場合は直ちに強制執行できる」効力を持たせることができます。公正証書を作成する際には、必ず「強制執行認諾条項」を入れてもらうことが重要です。こうすることで、相手が支払いを怠った場合でも、給与や預貯金を差し押さえるという法的手段を取りやすくなります。言い換えれば、「支払わないと差押えられる」というプレッシャーを与えることで、養育費の支払いを促すことができるのです。
子どもの養育費は成長や進路に従って変わる
養育費は、子どもの年齢や人数だけでなく、両親の年収に基づいて計算されるものです。しかし、人の収入は一定ではありません。離婚時には年収が低かったとしても、その後昇進や転職により大幅に増えることもあります。また逆に、失業や病気により収入が減ることもあり得ます。
こうした収入の変化に柔軟に対応できるよう、養育費の取り決めに「見直しのための条項」を設けておくことが非常に重要です。たとえば、「年収が一定以上変動した場合には養育費を再協議する」「毎年源泉徴収票や確定申告書を相手に提示する義務を課す」などの工夫が考えられます。
これにより、相手の収入増加を把握しやすくなり、それに応じて養育費の増額請求を行うことが可能になります。逆に、何の条項もないままにしておくと、収入の変化に気づけず、結果として本来もらえるべき金額よりも少ないまま放置されてしまうこともあるのです。将来の変化を見据えた取り決めが、長期的に子どもの生活を守る鍵となります。
算定される養育費は親の収入が変化すれば変わる
子どもは日々成長していきます。そして、その成長に伴って必要となる支出も当然ながら増えていきます。特に教育費は、進級や進学に伴って急激に上昇することがあります。たとえば、中学校から私立に通うようになった場合や、大学進学を選択した場合には、通常の生活費に加えて入学金や授業料、受験費用など多額の出費が発生します。
こうしたタイミングで必要な費用をスムーズに確保するためには、養育費の取り決め段階で「進級時や進学時の一時金支払い」に関する条項を入れておくことが有効です。具体的には、「高校進学時に○○円を一時金として支払う」「大学進学時には入学金および授業料の半額を別途支払う」など、子どもの進路に応じて必要な資金を計画的に受け取れるようにすることが望ましいです。
また、これらの費用に関する取り決めは曖昧にせず、できるだけ明文化しておくことが重要です。子どもの将来の選択肢を狭めないためにも、成長と進路に応じて柔軟に養育費を増額できる仕組みを最初から設けておくことが必要不可欠です。
「確実に支払わせる」ために活用できる仕組みはすべて使い切る
養育費請求において最も大切なのは、「金額を決めること」ではなく、「決めた金額を確実に支払わせること」です。これができなければ、どれだけ適正な金額を算出しても意味がありません。そのためには、活用可能な制度や法的手段を最大限に使い切る覚悟が必要です。
まずは、前述したように公正証書や調停調書を作成し、強制執行できる状態にしておくことが基本です。さらに、相手が支払いに消極的である場合には、「面接交渉権」とのバーター交渉も視野に入れてみましょう。たとえば、「子どもに定期的に会いたい」という希望がある相手に対し、「養育費の支払いを確実に行うこと」を条件に面会を認めるという合意を形成することが可能です。
また、最近では自治体によっては「養育費保証制度」や「立替支給制度」を導入しているところもあり、必要に応じて行政の支援を活用することも検討に値します。養育費の問題は、親同士の問題にとどまらず、子どもの生活と将来に直結する社会的な課題です。制度・法律・交渉術を組み合わせることで、支払いを確実にするための道は必ず開けます。
まとめ
養育費は、単に算定表を使って金額を決めるだけでは不十分です。実際の支払いを確保し、子どもの成長や将来の選択肢を守るためには、以下のようなポイントをしっかり押さえる必要があります。
- 養育費は簡単に決まると思わず、後のトラブルに備えて書面化すること
- 差押えのリスクを相手に認識させるために公正証書などの法的文書を活用すること
- 相手の収入の変動を前提に、養育費見直しの条項を入れておくこと
- 子どもの成長や進路に応じた費用をあらかじめ想定し、一時金などの支払い条項を設けること
- 確実に支払わせるための制度や交渉カードをすべて活用すること
「たかが養育費」と侮ることなく、戦略的に取り組むことで、子どもにとって安心できる未来を築くことができます。適切な準備と知識が、あなたとお子さんの生活を守る最大の武器になるのです。
当研究所では、弁護士・CFPが離婚後の生活まで設計した離婚戦略の策定と実行を指南しています。離婚に関するご相談ごとがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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