コンビニのゲームセンター化の意義と限界【公認会計士×中小企業診断士が解説】

コンサルティング

クレーンゲームを設置するコンビニが増加

近年、クレーンゲームを設置するコンビニエンスストアが徐々に増えています。かつてコンビニは、食品や日用品を短時間で購入するための場所というイメージが強く、娯楽性はほとんど意識されていませんでした。しかし現在では、店内の一角に小型のクレーンゲームを設置し、来店客の目を引く工夫を行う店舗が珍しくなくなっています。この変化は、コンビニ業界が置かれている厳しい競争環境と無関係ではありません。
コンビニは「気軽に行ける距離」に存在していなければ利用されにくい業態です。そのため、都市部はもちろん、住宅街や幹線道路沿いなど、あらゆる場所に多数の店舗が展開されています。その結果、同一チェーン同士、あるいは異なるチェーン同士での過当競争が発生し、単純に商品を並べているだけでは差別化が難しくなっています。顧客に「この店を選ぶ理由」を提供できなければ、すぐ近くの別のコンビニに流れてしまうのが現実です。
一方で、コンビニ1店舗あたりの面積は限られています。スーパーマーケットのように広い売り場を確保できるわけではなく、棚一段、通路一本の使い方が売上に直結します。そのため、どの商品をどの位置に配置すれば最も効率よく利益を上げられるかという点は、常にシビアに検討されています。回転率が低い商品や利益率の低い商品は、容赦なく棚から外される世界です。
そうした環境を考えると、一定の床面積を必要とするクレーンゲームの設置は、一見すると非効率に映ります。飲料棚や冷蔵ケースを置けば確実な売上が見込める場所に、ゲーム機を置くことは、収益性を損なう判断のようにも思われます。それにもかかわらず、あえてクレーンゲームを導入する店舗が増えているのは、単純な売上効率だけでは測れない狙いがあるからです。
クレーンゲームは、直接的な売上だけでなく、来店体験そのものに影響を与えます。店内に楽しげな要素があることで、来店客の印象は変わりますし、滞在時間がわずかでも延びる可能性があります。こうした変化は、衝動買いや再来店のきっかけにつながる場合もあります。そこで本稿では、こうした背景を踏まえつつ、コンビニがクレーンゲームを設置する意義と、その一方で避けられない限界について、順を追って考えていきます。

ゲームセンターは減少傾向

街中のゲームセンターは、長期的に見ると減少傾向にあります。かつては駅前や繁華街に複数のゲームセンターが立ち並び、若者を中心に大きな賑わいを見せていました。しかし現在では、閉店や業態転換に追い込まれる店舗が相次ぎ、かつてのような存在感は薄れています。この変化は一時的なものではなく、構造的な要因によるものと考えられます。
ゲームは流行の移り変わりが非常に早い娯楽です。人気タイトルは短期間で入れ替わり、ヒット作が出なければ集客力は一気に落ちます。そのため、ゲームセンターは短いサイクルで機械を入れ替え、常に最新のゲームを提供し続けなければなりません。しかし、ゲーム機の導入コストは高く、撤去や更新にも費用がかかります。安定した売上を確保できなければ、この負担は経営を圧迫します。
また、従来のゲームセンターは「暇つぶしの場」としての役割を担ってきました。学校帰りや仕事帰りに立ち寄り、時間を消費する場所として機能していたのです。しかし現代では、暇つぶしの手段そのものが大きく変化しています。スマートフォン一つあれば、動画視聴、SNS、ゲームなど、個人で完結する娯楽が無数に存在します。わざわざ場所を移動してまでゲームをする必然性は、以前よりも確実に低下しています。
さらに、オンラインゲームや家庭用ゲーム機の進化も、ゲームセンター離れを加速させました。自宅にいながら高品質なゲーム体験ができる環境が整い、他人の視線を気にせず、好きな時間に楽しめる点は大きな魅力です。これに対し、ゲームセンターは立地や営業時間に制約があり、騒音や混雑といったデメリットも抱えています。
このような環境下で、「ゲームをしにゲームセンターへ行く」という行動そのものが、特定のファン層に限定されつつあります。クレーンゲームや音楽ゲームなど、一定の需要は残っているものの、全体としては縮小傾向にあることは否定できません。こうした状況が、コンビニという別の業態にクレーンゲームが入り込む余地を生んでいるとも言えます。

買物の合間にちょっと楽しむ

コンビニに設置されたクレーンゲームは、従来のゲームセンターとは位置づけが大きく異なります。コンビニの場合、基本的に「ゲームをしに客が訪れる」わけではありません。来店目的はあくまで買物であり、ゲームはそのついでに存在するものです。この点が、コンビニにおけるクレーンゲームの最大の特徴と言えます。
典型的な例として挙げられるのが、親子連れの来店です。母親が日用品や食品を購入している間、子どもが店内で手持ち無沙汰になる場面は少なくありません。そうしたとき、クレーンゲームがあれば、子どもは短時間でも楽しむことができ、親にとっても落ち着いて買物ができる環境が整います。この「少しの余裕」は、来店体験全体の満足度を高める効果があります。
また、コンビニの商品は一般に割高であると言われています。同じ商品でも、スーパーマーケットに比べれば価格は高く設定されています。それでも多くの人がコンビニを利用するのは、利便性や時間短縮といった付加価値があるからです。クレーンゲームのようなちょっとした楽しみは、この付加価値をさらに補強する役割を果たします。単に物を買うだけでなく、「少し楽しい時間」を得られる場所として認識されれば、割高感は相対的に和らぎます。
クレーンゲーム自体の売上は、小規模なものであっても、来店動機や再来店意欲への影響は無視できません。特に、子どもが「またあのコンビニに行きたい」と感じれば、家族の行動選択に影響を与える可能性もあります。このように、クレーンゲームは直接的な収益以上に、店舗全体の商品販売に付加価値を与える存在として機能しています。
重要なのは、あくまで「買物の合間にちょっと楽しむ」という距離感です。長時間遊ばせることを目的とせず、数分で完結する娯楽であるからこそ、コンビニという業態と親和性が高いです。この軽さが、従来のゲームセンターとの差別化を生んでいます。

コンビニには多様な層が訪れる

前章で触れた親子連れ以外にも、コンビニには実に多様な層の客が訪れます。学生、会社員、高齢者、観光客など、時間帯や立地によって客層は大きく変化します。この多様性こそが、クレーンゲームの活用余地を広げています。
単独で買物に来る客の中にも、いわゆる「推し活」をしている人は相当数存在します。アニメキャラクターやアイドル、アーティストなど、特定の対象を応援する文化は広く浸透しています。もし、推しに関連するグッズがクレーンゲームの景品として用意されていれば、予定になかったプレーをしてしまう可能性は十分にあります。買物のついでに一回だけ試す、という行動は心理的ハードルが低く、コンビニならではの強みです。
また、複数人で来店するケースも見逃せません。友人同士や職場の同僚など、グループで来る場合、全員が同時に買物をするとは限りません。誰かがレジに並んでいる間、手持ち無沙汰になる人が出ることもあります。その待ち時間を埋める手段として、クレーンゲームは非常に分かりやすい存在です。短時間で完結し、結果が目に見えるため、会話のきっかけにもなります。
さらに、シリーズものの景品を用意したクレーンゲームであれば、収集欲を刺激することができます。全種類を集めたいという動機が生まれれば、ゲーム目的でのコンビニ来訪も期待できます。これは従来の「ついで利用」から一歩踏み込んだ行動変化であり、特定の商品や企画次第では一定の集客力を持ち得ます。
このように、コンビニに訪れる多様な層それぞれに対して、クレーンゲームは異なる価値を提供します。全員に強く刺さる必要はなく、「一部の人にとってちょうど良い楽しみ」であることが重要です。この柔軟さが、コンビニという場所でクレーンゲームが成立している理由の一つです。

コンビニ機能の膨張

クレーンゲームを置くこと自体は理にかなっている一方で、無制限に拡大できるわけではありません。ここで問題となるのが、コンビニ機能の膨張です。近年のコンビニは、宅配、公共料金の支払い、各種チケットの発券、行政サービスの窓口機能など、多様な役割を担っています。そこに娯楽要素まで加わることで、店舗運営の複雑さは増しています。
特に深刻なのが、コンビニ店員に求められるスキルの高度化です。レジ業務一つ取っても、対応すべき業務内容は非常に多岐にわたります。そこにクレーンゲームの管理やトラブル対応が加われば、負担はさらに増します。このまま業務が増え続ければ、ただでさえ人手不足が深刻な状況で、店員の確保が一層困難になるおそれがあります。
また、コンビニのスペースは物理的に限られています。どれほど人気のあるクレーンゲームであっても、設置できる台数には上限があります。複数の企画を同時に展開したくても、現実的には空いたスペースがある場合に限られます。その結果、何を置き、何を置かないかという選択はますます難しくなります。
コンビニに「あれば良い機能」は無数に存在します。しかし、すべてを詰め込むことは不可能です。限られたスペースと人員の中で、どの機能を採用し、どれを切り捨てるのか。その判断は、短期的な話題性だけでなく、長期的な運営の持続可能性を見据えて行う必要があります。クレーンゲームも、その一要素として冷静に位置づけなければなりません。

まとめ

コンビニにクレーンゲームを設置する動きは、過当競争の中で差別化を模索する現場の工夫として理解できます。限られたスペースの中で、直接的な売上だけでなく、来店体験の質を高める要素を取り入れようとする姿勢は合理的です。特に、買物の合間に短時間楽しめるという特性は、コンビニという業態と相性が良いと言えます。
一方で、ゲームセンターの衰退が示すように、娯楽そのものの価値は大きく変化しています。人々の時間の使い方が多様化する中で、クレーンゲームが担える役割は限定的です。万能な集客装置ではなく、あくまで補助的な存在であることを忘れてはなりません。
さらに、コンビニ機能の膨張は無視できない課題です。業務の複雑化や人手不足、スペース制約といった現実的な問題の中で、クレーンゲームをどう位置づけるかは慎重な判断が求められます。導入すること自体が目的化してしまえば、本来の利便性が損なわれる可能性もあります。
コンビニのゲームセンター化には確かに意義がありますが、それは限定的であり、明確な線引きが必要です。楽しさを提供しつつ、過度に機能を詰め込みすぎないこと。そのバランス感覚こそが、今後のコンビニ経営において重要な視点になると言えるでしょう。
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