損失を最小化する仕入れの最適化【公認会計士×中小企業診断士が解説】

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在庫に頭を抱える企業は多い

在庫の問題は、業種や規模を問わず多くの企業に共通する悩みです。在庫は「ある程度ある」ことが自然ですが、「ありすぎる」状態は企業の収益を圧迫します。適正在庫は企業活動を支える基盤である一方、過剰在庫は資金繰りを悪化させ、保管スペースを圧迫し、さらに管理のための人件費や倉庫費用を増加させます。その負担は決して小さくありません。特に回転率の低い在庫が増え続けてしまうと、倉庫の中は古い商品で埋まり、いざ必要な商品が見つからないといった実務上の支障も生じます。
在庫は、時間が経過すればするほど価値が低下する性質があります。食べ物のように腐敗する商品だけではなく、ほぼすべての商品は時間とともに品質が落ち、商品価値が下がります。流行が変わる業界では、商品が市場の需要に合わなくなることで販売価格を下げざるを得ない状況も生じます。さらに、陳腐化した在庫は最終的に廃棄せざるを得ず、仕入れ代金をそのまま捨てる事態になりかねません。この廃棄処分にはコストがかかるため、明確な損失として企業の財務を圧迫します。
一度膨らんでしまった在庫を減らすのは容易ではありません。売れ筋商品を多めに仕入れたつもりが、予想した需要に届かず在庫を抱え込むケースは多くの企業で見られます。返品や値引きでなんとか減らそうとしても、完全に解決することは困難です。そのため、在庫を増やしてしまった後に対応するのではなく、そもそも在庫が膨らむ前段階で適切な仕入れ数量を決めることが重要になります。
そこで重要となるのが「仕入れの最適化」です。仕入れ数量が多すぎても少なすぎても企業にとって不利に働きます。適切な数量を見極めて仕入れを実施することで、在庫による損失を抑制し、企業の利益体質を強化することができます。そこで本稿では、この仕入れの最適化をどのように考えていくべきか、その基本となる視点と判断軸について紹介していきます。


機会損失と廃棄損失

仕入れの最適化を考える際には、「少なすぎても損、 多すぎても損」という両面のリスクを理解することが不可欠です。この問題をわかりやすく説明するために、祭りの屋台での食べ物販売を例に考えてみます。
屋台では、準備できる数量が限られています。仕入れすぎると売れ残った分が無駄になりますし、仕入れが少なすぎれば、お客さんがもっと来てくれても最後は売り切れてしまいます。このとき発生するのが「機会損失」です。本来であれば売れるはずだったのに、準備不足のために売れず、利益を取り逃がす損失を指します。需要が高まるタイミングに商品がない状態は、目に見える損失ではないものの、企業にとっては極めて大きなダメージとなります。
一方で、過剰に仕入れすぎると「廃棄損失」が生じます。屋台で扱う食べ物は品質保持期間が短いため、売れ残った場合には廃棄せざるを得ません。廃棄された食材の仕入れ代金はそのまま損失となります。廃棄量が増えれば増えるほど、売上の伸び以上に損失が増大します。
このように、仕入れは多すぎても少なすぎても企業の利益を圧迫します。適切な数量を見極めることが難しい理由は、需要の変動が予想しづらい点にあります。天候やイベント規模、地域の人流など、需要を左右する要素は多岐にわたり、どれも完全に予測することはできません。
しかし、だからといって運任せにするわけにはいきません。企業としては、機会損失と廃棄損失の両方を最小化できるよう、一定の根拠を持って仕入れ数量を判断する必要があります。この2つの損失のバランスを考え、どこで最適化すべきかを見極めることこそが仕入れの核心と言えます。


仕入数量の決定は需要予測が9割

仕入れ数量を適切に定めるためには、まず何よりも需要予測の精度を高めることが重要です。どれだけ綿密に仕入れ計画を作ったとしても、需要予測が外れてしまえば、結果として仕入れ数量も誤ることになります。そのため、需要予測は仕入れ最適化の基盤であり、全体の9割を占めるといっても過言ではありません。
需要予測は過去の実績データに基づいて行います。過去の売上数量、天候、曜日、時間帯、イベント情報など、さまざまな要素を組み合わせ、最も可能性の高い需要を算出します。売れ筋商品であれば季節変動の傾向も読み取れますし、トレンド商品であれば短期的な需要の波を把握する必要があります。こうした分析は一朝一夕で身につくものではなく、経験を積み重ねることで少しずつ精度が高まっていきます。
需要予測に費用をかけることをためらう企業もありますが、それは本末転倒です。需要予測の精度が1割でも改善されれば、それだけで機会損失と廃棄損失の両方が大幅に低減され、結果的に利益が増えるからです。外部の専門機関やデータ分析サービスを利用してでも、需要予測に投資する価値は十分にあります
試行錯誤を繰り返すことも大切です。需要予測は必ず誤差が生じるため、実際の売上結果と比較して改善点を見つけていくプロセスが欠かせません。予測精度が高まるほど、仕入れ数量の判断が正確になり、在庫の過不足が解消されていきます。
最終的には、需要予測をいかに正確に行うかが仕入れ数量決定の大部分を占めます。予測精度を高める努力こそが、損失を最小化するための第一歩となります。


需要予測に少し上乗せしたチャレンジングな売上目標

需要予測が100であった場合、実際の仕入れ数量を100にする企業はあまり多くありません。多くの現場では、105〜110程度へと少し上乗せして仕入れることが一般的です。この上乗せには複数の理由があります。
第一に、機会損失を避けるためです。需要予測はあくまで予測であり、実際の需要が予測を超えるケースは珍しくありません。少し上乗せしておくことで突発的な需要増にも対応でき、売上の取りこぼしを防ぐことができます。
第二に、やや高めの売上目標を設定することで現場に適度な緊張感とやりがいを生み出す効果があります。高すぎる目標は逆効果ですが、達成可能でありながら努力の必要な水準であれば、従業員の士気を高めることができます。チャレンジングな目標を達成した場合、その成果を従業員に還元すれば、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
もちろん、上乗せしすぎれば廃棄損失が増えます。そのため、上乗せの幅はあくまで適度であることが前提です。105〜110という数字は、このバランスを考慮した現場の知恵ともいえます。
このように、需要予測に少し上乗せすることで、リスクを抑えながら利益を最大化する戦略が機能します。強気すぎず弱気すぎず、適度に挑戦する姿勢が企業の健全な成長につながります。


損失を最小にする公式

仕入れ数量の設定というと、利益を最大化するために考える人が多いですが、実務的には損失を最小化することが重要です。利益は需要が伸びれば自然とついてきますが、損失は放置すれば積み重なり、企業体力を一気に奪っていきます。
損失には大きく分けて「機会損失」と「廃棄損失」があります。この2つの合計を最小化できる点こそが、企業にとっての最適仕入れ量となります。しかし、実務では在庫保管が可能だからという理由で廃棄を先送りにする企業が多く、結果として過剰在庫に陥る傾向が見られます。すぐに廃棄しないゆえに損失が見えにくく、問題が顕在化するまで気付きにくいです。
一方で、機会損失をゼロにしようとする姿勢は望ましいものの、これにこだわりすぎると仕入れ数量が過剰になります。そのため、「機会損失ゼロ」だけではなく「廃棄損失とのバランスを取りながら限りなくゼロに近づける」ことが合理的な判断となります。
儲かる企業は総じて倉庫がコンパクトです。無駄な在庫が少なく、必要な商品がすぐに取り出せる状況が整っています。在庫の鮮度が高いため、値下げ販売も少なく、キャッシュフローの悪化も防げます。
仕入れ数量を決める際には、利益額だけでなく、損失発生の可能性と規模を冷静に見積もる姿勢が必要です。これこそが損失最小化の原則であり、在庫の圧縮と企業の健全化につながる公式といえます。


まとめ

仕入れの最適化は、単なる数量調整の問題ではなく、企業の利益体質を左右する重要な経営課題です。在庫は必要不可欠である一方、過剰に持てば資金繰りを圧迫し、管理コストや廃棄損失を増大させます。また、仕入れが少なすぎれば機会損失が発生し、売れるタイミングで売れないという致命的なダメージを負います。
これらの損失を最小化するためには、需要予測の精度を高める努力が不可欠です。需要予測が正確であれば、仕入れすぎることも仕入れ不足に陥ることもなくなり、在庫のバランスが整います。需要予測には経験が必要であり、外部機関やデータ分析ツールを活用する投資も有効です。
また、需要予測と現場運営の観点から、少し上乗せしたチャレンジングな仕入れ数量設定も合理的です。適度な挑戦は機会損失の防止につながり、従業員のモチベーションを引き上げる効果もあります。
最終的には、機会損失と廃棄損失の合計を最小化できるポイントを見極めることが、仕入れ最適化の核心となります。無駄のない在庫運営を実現し、倉庫をコンパクトに保ちながら利益を生み出せる体制を整えることが、企業の競争力向上につながります。
仕入れの最適化は、日々のデータ分析と現場の経験を積み重ねることで、確実に改善していきます。継続的に見直し、改善を繰り返すことで損失を最小化し、利益を最大化する企業運営が実現します。
当研究所では会計的見地から御社の在庫削減と仕入れの最適化を支援させていただきます。下記よりお気軽にご相談ください。

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