令和の米騒動は米の卸売業者による自作自演
日本人の主食である米は、かつては価格が安定しており、日常生活において不安なく手に入る存在でした。これは需要に対して十分な供給が確保されていたためであり、農家の生産量、流通量、そして消費者の購入量が大きく崩れることなくバランスしていたからです。しかし近年、米の価格が急激に高騰する現象が見られています。その背景には単純な不作や需要の急増といった自然な要因だけでなく、卸売業者による流通制限という「人為的な仕掛け」があると指摘されています。卸売業者は、米が保存性の高い商品であることを利用し、流通を一時的に止めたり、供給時期をずらすことで市場に一時的な不足感を演出し、価格を吊り上げるのです。社会全体としては十分な生産量が確保されているにもかかわらず、流通を絞ることで「不足しているように見せる」行為は、いわば令和版の米騒動とも言えるでしょう。
需要と供給は経済活動の根本をなす要素であり、両者が均衡しているときには価格も安定します。しかし、保存が利く商品や市場構造が偏在する場合には、供給側の意図によって価格が大きく揺さぶられる可能性があります。この点を理解せずに「市場原理に任せれば自然に落ち着く」と考えるのは危険です。むしろ、供給者が戦略的に時期をずらすだけで、表面的には需給バランスが崩れたかのように見えてしまいます。したがって、現代の消費者や事業者は、需要と供給が必ずしも純粋に自然な動きで決まっているわけではないことを前提に、戦略を組み立てる必要があります。そこで本稿では、この「ミスマッチを利用した行為」を踏まえ、どのような対応や考え方が求められるのかを考えていきます。
転売ヤーの策略
米の卸売業者による流通制限と同様の発想を、より身近に実感できるのが「転売ヤー」の存在です。人気ゲーム機や限定スニーカー、さらにはライブチケットまで、需要が供給を大きく上回る場面を狙って商品を大量に押さえ込み、消費者に高額で売りつけるという手口は、すでに社会問題となっています。転売ヤーは市場で「不足感」を演出することに長けており、特に需要の予測がしやすい限定商品や新製品の発売直後にその力を発揮します。需要に対して供給が足りないという状況を、自らの利益のために拡大させるやり口です。
この手口は違法ではない場合が多く、法的に取り締まるのは難しい現実があります。しかし、倫理的には広く批判され、社会的に歓迎されるものではありません。なぜなら、本来であれば適正価格で多くの消費者に行き渡るべき商品が、転売ヤーの介在によって価格が跳ね上がり、欲しい人が適正な価格で入手できなくなるからです。米の卸売業者のように大規模かつ業界構造に基づいた操作とは異なりますが、根本的な構造は同じであり、「供給の一時的な抑制や独占」を利用した利益追求だと言えます。
このような状況を是正するには、消費者一人ひとりの行動が重要です。すなわち、転売ヤーから商品を購入しないという選択を徹底することです。需要に見合わない価格での購入が減れば、転売ヤーの活動は自然と採算が取れなくなります。供給と需要のギャップを利用した行為を封じるには、需要側が自ら冷静な行動を取ることが不可欠です。
ダイナミックプライシングはどんな業種も考えるべき
需要と供給が常に揺れ動く以上、同じ商品やサービスに通年で同じ価格をつけることが必ずしも合理的とは言えません。実際、多くの業種では仕入れ価格が変動し、売れ行きも季節やイベントに応じて大きく変わります。例えば観光地のホテルは、繁忙期と閑散期で宿泊料金を変動させるのが当然のビジネスモデルですし、航空券も需要の高い時期には高く、オフシーズンには割安になります。こうした「ダイナミックプライシング」は、需要と供給のミスマッチを自然に吸収する仕組みとして機能しています。
一方で、消費者の中には「同じ商品はいつでも同じ価格であるべきだ」という固定観念を持つ人も少なくありません。しかし、現代の市場ではこの考え方は必ずしも現実的ではなく、むしろ柔軟に価格を変動させることが企業の生存戦略になります。仕入れ価格が上がっているにもかかわらず値上げをしない業者は、利益を圧迫され、最終的には淘汰されてしまいます。逆に、需要の低い時期には価格を下げてでも在庫を回転させることで、全体としての経営を安定させることが可能です。
ここで重要なのは、ダイナミックプライシングは転売ヤーのように不自然に供給を抑制して価格を釣り上げるものではなく、あくまでも需要と供給の自然な変動を前提とした適正な価格設定であるという点です。経済活動において、価格を柔軟に変動させる仕組みを取り入れることは、今後あらゆる業種にとって不可欠になると言えるでしょう。
価格変動のリスクを背負う者は
価格の安定は、最終消費者にとって大きな恩恵です。いつでも同じ価格で購入できるという安心感は、家計の計画性を支え、生活の安定を生み出します。しかし、この安定の裏側には、卸売業者や小売業者が負担するリスクの存在があります。仕入れ価格が変動しても、販売価格を一定に保つことで、その差額分を業者が背負うことになります。
自然な需給変動による価格の上下は、誰にとっても避けられない現象です。不作による農産物価格の高騰や、原油高による輸送コストの増大などは、どれほど努力しても防ぎようのない事態です。にもかかわらず、小売価格を固定化してしまえば、そのリスクは流通業者に集中し、結果として市場から退出せざるを得ない業者が増える恐れがあります。これでは長期的に見て消費者にとっても不利益となります。
したがって、自然な需給ギャップによる価格変動のリスクは、最終的には消費者が負担すべきだと考えることもできます。消費者が柔軟に価格変動を受け入れることこそが、市場を持続的に成立させる前提なのです。安定価格を求める心理は理解できますが、それは業者の犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいけません。
政府の役割
需要と供給のギャップが自然に生じるのは、経済の宿命とも言えるものです。したがって、政府が一から十まで生産や価格を統制するべきではありません。過度な統制は市場の活力を奪い、イノベーションや効率性を阻害するからです。では、政府はどのような役割を果たすべきなのでしょうか。
重要なのは、不自然な供給制限による価格操作を規制することです。米のように生産量が十分にあるにもかかわらず、流通を意図的に止めて価格を操作するような行為は、市場原理の健全性を損ないます。こうした操作を防ぐための監視や規制を設けることが、政府に求められる役割です。
さらに、供給量がそもそも限られている商品については、公平な分配の仕組みを整える必要があります。希少資源や限定商品の場合は、抽選や入札といった制度を導入することで、不公平感を減らすことができます。供給が限られていること自体は仕方のないことですが、その分配方法が公正であることは、社会全体の信頼につながります。
政府の役割は、自然な需給変動には手を出さず、不自然な市場操作を防ぎ、公平性を確保する制度設計を行うことにあります。これにより、需要と供給のミスマッチが必然的に存在する経済においても、健全で持続可能な市場が維持されます。
まとめ
需要と供給の関係は常に変動し、その過程で必ずミスマッチが生じます。米の価格高騰のように、供給が十分であっても人為的な操作で不足が演出される場合もあれば、転売ヤーのように希少性を利用して価格をつり上げる行為も存在します。一方で、自然な需給変動を前提に柔軟な価格設定を行うダイナミックプライシングは、健全な市場適応策です。安定価格を求めるあまり業者に過度のリスクを押しつければ、長期的に市場そのものが弱体化しかねません。したがって、消費者は価格変動を柔軟に受け入れ、政府は不自然な供給操作を規制する制度設計を行うべきです。市場の持続可能性を考える上で、需要と供給が常に揺れ動くことを前提にした戦略が欠かせないでしょう。
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