儲かるビジネスモデルこそ慎重に事業計画を策定せよ【公認会計士×MBAが解説】

事業再生

人気の業種でも倒産増加

近年、社会的に人気が高いとされる業種であっても倒産件数が増えているという実情があります。たとえば、医療分野における歯科医院、美容分野における美容院は典型例です。これらは「資格が必要」「一定の技能があれば開業できる」といった要素があるため、他業種に比べると比較的高い収入を得られる可能性があると考えられています。そのため、医師や美容師として経験を積んだ人々が「自分で独立すれば安定した報酬を得られる」と考え、積極的に参入する傾向が強まっています。
しかし、人気が高い業種はその分参入者も多くなり、必然的に競争は激化します。歯科医院が都市部の一角に密集している光景や、美容院が同じ商店街に複数並んでいるのは珍しくありません。利用者から見れば選択肢が増えることは歓迎すべきことですが、事業者の側からすれば顧客獲得の難易度が上がり、収益確保が一層難しくなります。需要の総量が急激に増えるわけではないため、供給過多の状況に陥りやすいです。
つまり、「儲かる」とされる業種であっても、自動的に安定した経営が約束されるわけではありません。むしろ「儲かる」と認識されるほどに参入障壁が低下し、競合が増加することによって経営環境は厳しくなる傾向すらあります。人気がある業種で倒産が増加しているのは、この競争激化という現実の裏返しにほかなりません。そこで本稿では、そのような業種において事業を成功させるために必要な留意点について考えていきます。

価格でしか差別化できないのは終わりの始まり

人気業種に共通する特徴として、事業のモデルがすでに整理・単純化されている点が挙げられます。歯科医院であれば診療スペースや受付体制、美容院であればカット台やシャンプー台といった設備がほぼ定型化されています。加えて、開業支援のフランチャイズやコンサルタントも多く存在しており、誰が始めても似通った店舗設計やサービス内容になることが一般的です。
このように事業構造が標準化されていると、事業者間の差別化は非常に難しくなります。患者や顧客から見ても「どの歯科医院も同じように虫歯を治療してくれる」「どの美容院も同じように髪を切ってくれる」と認識されやすいため、選択基準が限られてしまいます。その結果として、「料金が安いかどうか」が最もわかりやすい判断材料になってしまいがちです。
しかし、価格だけで競争することは長期的には持続不可能です。安売りは一時的に顧客を引き寄せる効果がありますが、その分利益率は低下し、資金繰りが苦しくなります。さらに、安売りを始めれば競合他社も追随し、価格競争は加速度的に進みます。最終的には、顧客にとって魅力的な価格水準を維持しながら事業者自身の生活を支えるだけの利益を確保することが困難になります。
価格でしか差別化できない状況に陥るのは「終わりの始まり」といっても過言ではありません。事業を長く継続するためには、顧客が単純な金額比較だけではなく「この店舗だから選びたい」と思える理由を提供することが不可欠です。そうでなければ、いかに一時的に人気業種で開業しても、競争の荒波に飲み込まれてしまうでしょう。

自社の強みを明確に持ってから事業展開する

差別化の必要性が高いとはいえ、事業を始めてからそれを実現するのは容易ではありません。開業直後は資金繰りや集客に追われ、冷静に自社の強みを築き上げる余裕がなくなるからです。したがって、事業計画を策定する段階で「自社の強み」をしっかりと見極め、事業の基盤に据えておくことが求められます。
たとえば歯科医院の場合、単に虫歯治療ができるというスキルは同業者にとっても共通です。しかし、矯正やインプラント、予防歯科といった分野に特化した経験や知識を有していれば、それが差別化の一助となり得ます。美容院であれば、カットだけでなくカラーやヘアケアに関する専門的知見を持つこと、あるいはメンズ特化や子供向けに強みを持つことが可能でしょう。
このように「同業者に比べてここが優れている」と言える部分を、事業開始前に明確にしておくことが重要です。強みを持たずに流行に乗って開業すれば、一見成功しそうでも結局は競争の渦に埋もれてしまいます。逆に強みを明確にしておけば、顧客は「自分に合ったサービスを提供してくれる場所」と認識し、リピートにつながります。
人気業種に参入する際は「儲かるからこそ急いで飛びつきたい」と考えがちです。しかし、本当に儲かる可能性を現実のものにするためには、慎重に勝ち筋を見極め、自社の強みを磨いてから事業を展開する姿勢が欠かせません。

顧客のニーズには敏感に

差別化を考えるうえで最も基本的な要素は、顧客のニーズを的確に把握することです。どれほどビジネスモデルが標準化されていても、利用者が全員同じ満足度を得ているわけではありません。むしろ「ここが不便だ」「この部分は改善してほしい」と感じる点が必ず存在し、それを見逃さないことが事業成功の鍵となります。
たとえば美容院において、多くの顧客が「予約しても待たされる」「美容師との会話が苦手」といった不満を抱いています。これに対して、カット時間を大幅に短縮し、会話も最小限に抑えることで人気を得たのがQBハウスのビジネスモデルでした。標準化された枠組みの中でも、顧客の不満を的確に解消することで新しい需要を生み出すことができる好例といえるでしょう。
また、顧客ニーズは時代や生活スタイルの変化に伴って移り変わります。かつては当たり前とされていたサービスが今では敬遠されることもあり得ます。事業者が「現状が最善」と思い込むことは危険であり、常に利用者の声に耳を傾け、少しでも満足度を高める工夫を積み重ねることが大切です
顧客の声に敏感であることは、大規模な設備投資や大胆な改革を意味するものではありません。ちょっとした改善、例えば待合スペースの工夫や予約システムの改善といった小さな取り組みでも、利用者にとっては大きな価値となり得ます。事業者自身の思い込みではなく、顧客視点でサービスを点検し続ける姿勢が、競争の中で生き残る強力な武器になります。

組み合わせ

事業をさらに発展させる手法のひとつに、異なる分野との「組み合わせ」があります。意外なサービスや商品を同時に提供することで新しい需要が喚起され、結果として他社との差別化につながる場合があります。もちろん、何でもかんでも組み合わせれば良いというわけではありません。しかし、うまく噛み合ったときには予想以上の効果を生むことがあります。
例えば、美容院とカフェを組み合わせた店舗では、髪を整えながらドリンクや軽食を楽しめるという新しい体験が提供されます。利用者にとっては待ち時間が有意義になり、店舗にとっては付随収益の確保や来店動機の強化が可能となります。このように異分野を掛け合わせることで、従来の枠を超えた魅力を提供できます。
もっとも、組み合わせ戦略を取る場合は慎重さも必要です。いきなり全面的に導入するのではなく、まずは期間限定や試験的な導入を行い、顧客アンケートや利用状況を分析することが不可欠です。そのうえで勝算があると判断できれば、通年サービスとして展開すればよいでしょう。試行錯誤を通じて軌道修正しながら最適解を探る姿勢が求められます。
ただし、組み合わせ戦略が成功したからといって、主たるビジネスモデルの追求をおろそかにしてはなりません。美容院であればカットやスタイリングの技術、歯科医院であれば診療の質といった本業が顧客に信頼されてこそ、組み合わせの付加価値が生きてきます。あくまで基盤を大切にしつつ、新しい挑戦を柔軟に取り入れることが健全な成長につながります

まとめ

本稿では、儲かるとされるビジネスモデルに参入する際の注意点を検討してきました。歯科医院や美容院といった人気業種でさえ倒産が増加している現実が示すように、単に「人気があるから」「報酬が高いから」という理由だけで成功できるわけではありません。事業モデルが標準化されるほど、差別化は難しくなり、価格競争に巻き込まれるリスクが高まります。
そのため、事業計画の段階から「自社の強み」を明確に持ち、顧客ニーズに敏感であり続ける姿勢が必要です。さらに、異分野との組み合わせなど柔軟な発想を取り入れることで新たな可能性を開くこともできます。ただし、いかなる場合でも本業の質を犠牲にしてはならず、基盤を守りながら改善や挑戦を重ねていくことが長期的成功の鍵となります。
儲かるといわれるビジネスモデルこそ慎重な事業計画が不可欠です。競争の厳しい市場で生き残り、持続的に発展するためには、拙速ではなく計画的かつ戦略的な姿勢が求められます。
当研究所では、御社の強みを分析し、これを活かす計画策定をサポートさせていただきます。下記よりお気軽にご相談ください。

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