人手不足倒産が増加
近年、企業経営において深刻な課題として浮上しているのが「人手不足倒産」です。これは、売上の減少や資金繰り悪化といった従来の倒産要因とは異なり、需要や仕事は確保できているにもかかわらず、担い手となる人材を十分に確保できないために事業が立ち行かなくなる現象を指します。統計を見ても、建設業、運輸業、飲食業といった典型的な労働集約型産業に限らず、ITや医療、サービス業といった幅広い分野で人手不足を理由とする倒産件数が増加傾向にあります。これは日本経済全体に共通する課題であり、特定業種の特殊事情とは言い切れません。
その背景には、日本社会全体の人口減少があります。特に生産年齢人口(15歳から64歳)の減少は顕著であり、今後も長期的なトレンドとして続くことが確実です。さらに、働き方改革による時間外労働の規制や有給休暇取得義務の導入など、制度的にも従来のように「残業や休日出勤で何とか乗り切る」というやり方は通用しなくなっています。需要を獲得できても、それを処理するだけの人材を抱えられなければ、契約の履行が難しくなり、結果的に顧客の信頼を損ね、倒産へとつながりかねません。
したがって、企業経営者は「人手不足を前提とした経営戦略」を構築することが避けられません。そこで本稿では、人手不足倒産のリスクを最小化し、持続的な経営を実現するための現実的で中長期的な方策を探っていきます。
王道的対策
人材不足に対応するうえで最も基本的かつ王道的な対策は「賃上げ」です。物価高が続く中、実質賃金の目減りに不満を抱く労働者は多く、賃金が上がらない企業は人材確保の競争において不利になります。もちろん、賃上げはコスト増につながるため経営者にとっては悩ましい課題です。しかし、値上げによって利益を確保し、その成果を従業員に還元することで、従業員のモチベーションを高め、結果として生産性の向上につながるという好循環を生み出すことが可能です。「安さ」で勝負するのではなく、「高品質な商品やサービスを適正な価格で提供する」という方向性が必要となります。
また、給与面だけでなく、働き方に対する柔軟性を高めることも重要です。例えば、フレックスタイム制度やリモートワーク、副業容認といった制度は、従業員が自分のライフスタイルに合わせて働けるようにし、満足度を高めます。特に若い世代は「給与よりもワークライフバランスを重視する」傾向が強いため、勤務時間やキャリア形成の自由度を認めることは、採用面でも大きなアピールポイントとなります。
さらに、社内の不満を徹底的に解消することが欠かせません。評価制度の不透明さや、上司との関係悪化、職場の人間関係の不和などが放置されれば、給与が上がっても離職につながります。従業員が安心して働き続けられる環境を整備し、キャリアの見通しを提示することで、従業員の定着率は大きく改善されます。結果として、人材流出を防ぎながら、新たな人材の流入も期待できるようになります。
つまり、「賃上げ」「働き方の柔軟性」「不満の除去」の三本柱を徹底することが、王道的でありながら最も効果的な人材確保の対策といえるでしょう。
外国人やAIの活用
日本人の若年層人口が減少し続ける中、日本人だけを人材源とする発想には限界があります。そこで注目されるのが外国人労働者の登用です。すでに製造業や介護業、農業などでは外国人が不可欠な存在になっており、今後もその傾向は強まると予想されます。外国人を戦力化するためには、まずコミュニケーションの壁をどう克服するかが課題です。翻訳アプリやオンライン通訳の導入だけでなく、多文化共生の研修や外国人社員を支援する体制を整備することで、チームとして力を発揮できるようになります。
もう一つの重要な柱がAIの活用です。AIは単に省人化の手段にとどまらず、業務の質を向上させる役割も果たします。たとえば、AIによる需要予測や在庫管理は、人の勘や経験に頼るよりも精度が高く、効率的な経営判断を可能にします。また、チャットボットによる顧客対応や、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化は、従業員がより付加価値の高い仕事に集中できる環境を作ります。
ただし、AIを導入したからといって即座に成果が出るわけではありません。AIを適切に使いこなすためのスキルを持った人材を育成する必要があります。計画的に教育を行い、実際の業務に組み込むまでのプロセスを丁寧に設計することが、成功のカギを握ります。
このように、人材確保を日本人の採用に依存するのではなく、外国人やAIという代替的なリソースを積極的に活用することが、今後の企業経営において不可欠となります。
事業を縮小する
人材を十分に確保できないのであれば、事業規模を見直すという選択も現実的な対策です。多くの企業は新規案件を断ることに心理的抵抗を感じますが、受注した仕事をこなせないのであれば、顧客の信頼を失い、将来的な取引機会を失うリスクが高まります。むしろ、仕事量を減らしてでも確実に遂行できる範囲に絞ることが、長期的な企業存続には有効です。
従来は「仕事を増やせば会社は成長する」というモデルが一般的でした。人材確保が容易な時代であれば、受注拡大によって規模を広げることは理にかなっていました。しかし、今や人材が最大の制約条件となり、事業拡大の前提が崩れています。この現実を直視し、「獲得できる仕事量」ではなく「確保できる人材」に合わせて事業規模を定める必要があります。
縮小といっても単なる後退ではなく、むしろ選択と集中を通じて強みを高める契機となります。例えば、低利益の業務を減らし、利益率の高い業務にリソースを集中させることで、少人数でも高収益を確保できる体制を築けます。結果的に従業員の負担が減り、離職率も下がる可能性があります。経営者にとっては苦渋の決断ですが、持続可能な企業経営を実現するためには不可欠な選択肢なのです。
昭和の根性論は悪手
人手不足の状況下で最も避けるべき対応が、「昭和的根性論」です。このような状況で多くの企業が陥りがちなのが、既存社員への負担増という対応です。残業を増やし、休日返上で対応することは一時的には効果があるように見えますが、従業員の心身を疲弊させ、離職を招くリスクを高めます。離職が進めばさらに人手不足が深刻化し、負担が残った社員に集中するという悪循環が生まれます。つまり、短期的なつじつま合わせに依存すればするほど、企業の存続可能性は縮んでいきます。
かつては「忙しいのは会社が成長している証拠」とされ、長時間労働を美徳とする風潮が存在しました。しかし現代では、働きやすさやワークライフバランスが重要視され、過労を強いられる環境は従業員の離反を加速させるだけです。
一時的に残業を要請することはあっても、それが常態化すれば従業員の健康を害し、組織全体の士気を低下させます。さらに、優秀な人材ほど他社へ移りやすいため、最も残ってほしい人材が離職するリスクが高まります。経営側は、どこまでが許容できる範囲で、どこからが過剰負担なのかを明確に線引きしなければなりません。
また、拘束や強制ではなく、自律性を尊重する働き方を提供することが求められます。従業員が主体的に働ける環境は、創意工夫や改善提案を生みやすく、結果的に企業全体の競争力を高めます。経営者自身が「この施策は常識的か」「社員の納得感を得られるか」を常に振り返ることで、時代に即した経営を実現できるでしょう。
まとめ
人手不足倒産は、日本経済全体が直面する構造的課題です。人口減少が続く以上、単純に人手を増やして問題を解決することは困難です。だからこそ、賃上げや働き方改革による人材確保の強化、外国人やAIの積極的活用、さらには事業規模の適正化といった多角的な対策を講じることが重要となります。
何よりも避けるべきは、既存の社員に過度な負担を押し付ける短期的な対応です。これはかえって人手不足を悪化させ、企業の持続可能性を損ないます。経営者は中長期的な視点を持ち、社員が安心して働ける環境を整えることで、人材不足という荒波を乗り越えていく必要があります。社会全体が変化する時代にあって、現実的で柔軟な対応こそが企業存続のカギを握ります。
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