美容医療市場が急成長も倒産件数も多い
近年、美容医療市場は飛躍的な成長を遂げています。矢野経済研究所によれば、2023年の国内美容医療市場規模は医療施設収入ベースで5,940億円に達し、前年比108.8%と急拡大しました。また、東京商工リサーチ調査では、主要248法人の2024年売上高が3,137億5,900万円(前期比29.9%増)、利益は82億6,500万円(同22.6%増)と、業績は極めて好調です。
しかし、その一方で市場の活発な成長と並行して、休廃業や倒産にも拍車がかかっています。医療機関全般では2024年に医療機関の倒産が64件、休廃業・解散は722件に上り、いずれも過去最多を更新しました。クリニックを含む診療所、歯科医院の休廃業・解散が大部分を占めており、市場の拡大と淘汰の同時進行が鮮明となっています。
特に、美容脱毛サロンでも2023年には少なくとも10社が倒産し、前年の4社から急増したとの報告も上がっています。いくら市場が成長しているといっても、その恩恵を受けられる事業者と、吸収されてしまう事業者の差は大きく、企業規模や経営力によって明暗が分かれている状況です。
以上から、美容医療市場は確かに急成長しているものの、その裏では「勝ち組」と「敗者」の二極化も進んでおり、業界全体の競争と淘汰は一層鋭くなっていると言えます。
そこで本稿では、美容医療市場におけるコストと淘汰の構造を説明します。
サービス品質が肝。設備投資合戦
美容医療は、比較的所得水準の高い富裕層や、一定の出費をいとわない層がメインターゲットです。そのため、市場で成功するためには、安心感・安全性・快適性などのサービス品質を徹底的に高めることが絶対条件となります。この品質を担保するためには、最新機器や設備の導入が欠かせず、各クリニックは激しい設備投資競争を展開しています。
たとえば、レーザー脱毛や高周波治療、皮膚再生をうたう機器など、専門性・機能性の高い医療機器を揃えるには、多額の初期投資が必要です。さらに、院内環境への配慮やデザイン性の追求、滞在中の快適性を意識した内装・空調・照明設備など、トータルな満足度を上げるための投資も見逃せません。これらは、来院前から施術後までの「顧客体験」を高める上で非常に重要な要素です。
こうした設備投資は、新規開業クリニックにとってはハードルが高く、資金力のある既存大手クリニックが有利に立つ構図です。一方で、設備を揃えきれない小規模医院は、差別化できず価格競争に巻き込まれ、経営が苦しくなるケースも散見されます。
このように、設備投資は市場で生き抜くための必須戦略であり、その成否がクリニックの明暗を分けるカギとなっています。
サービス品質が肝。スキル・人材の獲得とモチベーションアップがカギ
美容医療において最も重要なのは施術を行う“人”です。高度な施術技術を持つ医師や看護師・スタッフが揃って初めて、安全かつ満足度の高いサービスを提供できます。そのため、高いスキルを身につけられる人材を確保し続けることは、業界にとって最大の課題です。
高スキルの獲得は容易ではありません。医学的な知識と施術経験の両方が求められるうえ、多数の症例をこなすことでしか体得できないノウハウもあります。また、美容医療は「結果が見える」サービスであると同時に、「安心して任せられる」ことが重要です。対応するスタッフには、医療的判断力と並んで、顧客への細やかな配慮やコミュニケーション能力も求められるため、いわば「二刀流」の人材育成が求められるのです。
その結果、人材争奪戦は熾烈を極めています。報酬を上げて優秀な人材を集めようとするとコストが膨らみ、また、スキル研修やOJTにも時間と投資を割かざるを得ません。一方で、スタッフのモチベーション維持も大切です。施術ストレスや労働負荷の高さ、求められるホスピタリティなどから離職率も高い傾向があり、顧客満足を継続的に実現するには、定期的な研修や福利厚生、キャリアパスの提示によるメンタルケアが不可欠です。
したがって、美容医療においては、設備投資と同等かそれ以上に、スキル向上・人材確保・モチベーション維持のための戦略がクリニックの命運を握る重要な要素となっています。
高成長が故の参入超過
美容医療業界は高収益と認識され、市場規模も拡大基調であるため、多くの企業や個人が参入しています。また、参入に際して特別な免許や許可が不要であり、比較的容易に開業できる点も参入増を後押ししています。
しかし、この自由度の高さこそが、市場の「飽和化」を招いています。新規参入者が増えるほど競合が激化し、どのクリニックも顧客獲得に苦戦する構図が現れています。競合が増えれば価格競争や広告費競争が激化し、さらには差別化のための施術メニュー改良やブランド戦略が必要となり、小規模事業者ほど負担が大きくなります。
実際、美容室業界では、新設店舗が増えた結果、2024年の倒産件数は107件と過去最多に達しました。このように、飽和と淘汰が同時進行する様子は、美容医療市場でも同様に進行しており、競争激化は今後も続く見通しです。
したがって、単に参入するだけでは生き残りが難しく、市場で勝ち抜くためには、明確な差別化戦略と安定した集客手法が求められます。
高い財務リスク
美容医療は設備や人材にかかる初期投資や固定費が高く、収益構造はどうしてもコスト高となります。その一方で、売上は景気動向やトレンド、季節特性に影響されやすいという脆弱さも抱えています。
特に、景気が低迷すると高額施術を控える傾向が強まり、売上減に直結します。季節面では、肌の露出が増える春夏期は施術需要が高まりやすく、冬季には需要が鈍化するなど季節性による売上のブレも大きいです。こうした収益の波が資金繰りに影響し、売上の落ち込みに対してリスクに対応できる体制が整っていないと、資金ショートや赤字転落の危機を招きます。
さらに、医療脱毛サロンでは2023年に倒産件数が急増しているなど、市場の成長によってもたらされるリスクも実証されています。また、医療機関全体での休廃業・解散件数が過去最多となったことは、医療業界全体の構造的リスクを裏付けています。
このように、高い固定費と売上の変動性が組み合わさることで、財務リスクを管理できない事業者は市場から脱落を余儀なくされるのです。
まとめ
美容医療市場は現在、設備投資やトレンド施術の導入などにより、活発な成長期を迎えています。しかし、市場の成熟度が高まるにつれて、設備や人材への投資負担が重くなり、競争と淘汰が同時に進行しています。
生き残るためには、単なる参入ではなく、最新設備の導入、優秀な人材確保・育成、顧客体験の徹底など多面的な戦略が求められます。また、景気変動・季節変動に強い安定的な収益構造を作ることも欠かせません。
今後、業界で生き残るのは、高い品質力とブランド力、人材育成力、そして財務戦略すべてを備えた「選ばれる」クリニックに限られるでしょう。競争環境が厳しさを増す中、各クリニックがいかにして差別化と信頼性を築けるかが、今後の命運を左右すると言えるでしょう。
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