示談できる相手とは示談すべき
示談とは、加害者と被害者が刑事事件や民事トラブルにおいて話し合いを行い、金銭賠償や謝罪の方法、今後の対応などについて合意し、紛争の終結を図る制度を指します。特に刑事事件の場面においては、被害者の処罰感情が結果に直接影響を与えるため、示談の有無は加害者にとって極めて重要な意味を持つことが多いです。示談を成立させることで、被害者が加害者を許す意思を示すことになり、これにより検察が起訴を見送り、不起訴処分や起訴猶予処分の可能性が高まります。そうなれば、刑事裁判に進まず、前科がつくことを避けられる可能性も大きくなります。そのため、「示談できる相手とは示談すべき」というのが一般的な考え方になります。
しかし、示談が重要だからといって、焦ったり無理に進めようとしたりするとかえって悪い結果を招くことがあります。示談はあくまで相手の意思が必要であり、相手が応じてくれるときには紛争を円滑に終える大きなチャンスになりますが、その進め方を誤れば相手の怒りを増幅させ、逆効果となってしまいます。また、示談交渉には一定のルールやマナーがあり、それを守らなければ交渉が破綻する恐れがあります。加害者側としては、示談を成立させることで処罰を軽減したいという強い思いが先行しがちですが、その思いの強さが行動や言動に反映され、結果として相手を不快にさせたり、誤解を招いたりするケースも多く見られます。
示談は「許してもらうための行為」であり、一方的に要求したり、条件を押し付けたりできるものではありません。また、示談の場は感情が絡み合うため、慎重な姿勢と相手への敬意が極めて重要です。そこで本稿では、示談交渉を進める際に陥りがちな誤りや注意点を整理し、どのように行動すればより適切に示談を進められるのかを解説します。示談自体は有利な制度であるにもかかわらず、その進め方を誤ることで取り返しのつかない事態を招くこともあります。だからこそ、示談交渉では正しい手順と考え方に基づいて冷静に対応していく必要があるのです。
金額を値切ってはいけない
示談交渉の場面で多くの人が悩むのが、被害者から提示された示談金の金額です。示談金は法律で一律に決まっているものではなく、被害の内容や被害者の精神的苦痛、加害者の反省状況、社会的影響など、さまざまな要素を踏まえて被害者が「これなら納得できる」と思う金額を提示するのが一般的です。そのため、被害者側は相応に高い金額を提示してくることがよくあります。加害者側としては「高すぎる」と感じることも少なくありません。
しかし、示談はあくまで「相手に許してもらうためのお願い」であり、こちらが条件を細かく交渉できる対等な契約とは性質が異なります。もちろん、明らかに不合理な金額である場合には調整を求める余地があるものの、多くの場合は相手の言い値を受け入れる姿勢が重要です。示談交渉の初期段階から金額の値切りを提案してしまうと、被害者は「反省していない」「こちらの痛みを理解していない」と感じ、交渉が一気にこじれてしまう危険性があります。場合によってはその行為自体が示談を拒否する理由として受け取られてしまい、取り返しのつかない状況を招くこともあります。
また、示談が成立することで不起訴になり得るという大きなメリットを考えると、費用対効果としては十分に釣り合う場合が多いです。示談金を支払うことが経済的に苦しいと感じる人もいますが、前科がつくことによる影響や社会的信用の低下、今後の生活への支障などを考えると、示談金で事態の解決を図れるのであれば、それは極めて大きな価値があります。短期的な金銭負担のみで判断するのではなく、長期的なメリットを見据えて冷静に判断することが大切です。
さらに、加害者が被害者を内心で「大した被害ではない」と軽視している場合ほど、示談金を高く感じてしまう傾向があります。しかし、示談金は被害者の感覚に基づいて設定されているため、自分側の基準で金額の妥当性を判断するのは適切ではありません。示談は「許しを得るプロセス」であることを強く意識し、被害者の気持ちに寄り添う姿勢を持つことが交渉成功の第一歩になります。
脅すのは論外
示談を希望して連絡を取ろうとしても、被害者が交渉の場に応じてくれないことがあります。被害者が感情的に落ち着いていなかったり、加害者と話すことに強い抵抗感を持っていたり、あるいは「示談するかどうかを考えること自体が負担」という理由で沈黙を選ぶケースもあります。このような状況に直面したとき、加害者側は焦りや不安を強く抱き、「なんとかして交渉の席に着いてほしい」と思いがちです。しかし、この焦りが悪い行動につながることがあり、それが刑事事件として別の罪を構成する危険もあります。
特に注意すべきは「相手に示談に応じるよう圧力をかける行為」です。たとえば、「示談に応じてくれれば早く解決します」「応じなければ裁判であなたも大変な思いをする」などと伝える行為は、一見すると合理的な説明に見えるかもしれません。しかし、被害者がその言葉を「脅迫」や「強要」と受け取れば、強要罪や脅迫罪に該当する可能性があります。加害者にその意図がなかったとしても、相手が精神的圧力を感じれば問題となります。
また、示談に応じないことで被害者に一定の不利益が生じること自体は事実です。示談がなければ裁判で証言しなければならず、時間的・精神的な負担が発生します。しかし、この現実を指摘して交渉材料にした時点で「困惑させた」と判断され、違法行為ととられるリスクがあります。示談交渉において、被害者を交渉の場に無理に引きずり出すことは絶対にしてはならない行為です。
ここで重要になるのは、示談交渉は「被害者の自由意思が最優先」であるという原則です。被害者が交渉を拒否している以上、加害者側はそれを尊重しなければなりません。特に弁護人が対応する場面では、この点を誤ると被疑者にとって致命的な不利益が生じる可能性があるため、より慎重な対応が求められます。示談は「成立できればありがたい制度」であり、強要してまで成立させるものではありません。焦りがあると判断を誤りやすいため、落ち着いて正しい手順に従って行動することが重要になります。
裏ルートを使ってはいけない
示談交渉を進めようとするとき、本人とは連絡が取れなくても「本人の家族や友人、同僚となら話ができる」というケースが生じることがあります。特に、被害者本人が加害者との直接接触に強い拒否感を示している場合や、接触を避けるために連絡先を変えてしまった場合など、加害者側は「第三者を介せば話が通じるのではないか」と考えがちです。さらに、周囲の人から「自分から話してみようか」と提案されることもあり、これを利用しようとする人もいます。しかし、こうした“裏ルート”を使った示談交渉には大きな危険が伴います。
まず、示談交渉は被害者本人の意思に基づいて行われなければなりません。加害者との接触を断っているという状況自体が、被害者の意思表示の一つです。その意思を迂回して仲介人を通じて連絡を試みることは、その意思を軽視する行動と受け取られる可能性があります。特に、被害者が接触禁止の保護命令や警察の指導を受けているような場合には、仲介人を通した連絡であっても接触行為と判断されることがあり、法的責任を問われる可能性もあります。
さらに、仲介人が強引な行動に出てしまうリスクも無視できません。たとえば、仲介人が「示談に応じたほうが良い」「許してあげてはどうか」などと被害者に過度の説得を行った場合、加害者側がその行動について責任を負う可能性があります。仲介人が善意で行動したとしても、その行動が被害者に心理的圧力を与えれば、加害者側の指示や関与を疑われる危険があります。被害者の周囲の人が介入することで関係が複雑になり、かえって事態を悪化させるケースも少なくありません。
また、裏ルートを使うことによって後から示談が成立したとしても、その過程に問題があると判断されれば、示談の効力が弱まったり、検察の判断に不利に働く可能性もあります。示談は「適切な方法」で行われたものであることが重視されるため、過程が不透明であったり強引であったりすると、処分に与える良い影響が大きく損なわれかねません。
したがって、示談交渉はあくまで正当なルートで、被害者本人の意思を尊重しながら進める必要があります。裏ルートが仮に存在していても、安易に利用せず、適切な手続きを踏んで進める姿勢が求められます。
SNSでの反論は示談成立後に
示談交渉の過程で、加害者本人が「自分は本当は悪くない」と考えているケースは決して珍しくありません。たとえば、事実関係に争いがある場合や、加害者が「誤解によって大きな問題になっているだけだ」と感じている場合など、内心では納得していないものの、示談の必要性から被害者の要求に応じようとする状況はよくあります。そのようなとき、人は「自分の潔白を主張したい」という欲求が生まれやすく、特にSNSを使って自分の立場を説明したくなるものです。しかし、示談交渉の最中にSNSで反論する行為は、極めて危険であり、悪手と言わざるを得ません。
示談は被害者の気持ちに大きく左右されるため、相手の感情を逆なでするような行動は絶対に避けなければなりません。SNSで「自分は悪くない」「相手に落ち度がある」などと投稿すれば、それが被害者に届く可能性は十分にあります。被害者がその投稿を見て怒りを感じれば、示談自体が白紙に戻る危険もあります。さらに、その投稿が証拠として検察に提出されれば、示談を望む姿勢の誠実性が疑われ、不起訴や起訴猶予の可能性が低下することも考えられます。
また、SNSは拡散力が非常に強く、加害者の投稿が想定外の形で第三者に広まり、炎上騒動につながることもあります。そうなれば、被害者の精神的負担はさらに大きくなり、示談どころではなくなるでしょう。示談交渉の途中では、とにかく被害者の気持ちを刺激しないことが最優先であり、不要な情報発信は控えることが鉄則です。
もっとも、示談成立後であればSNSで自分の立場を説明したいと考える人もいます。ただし、示談成立後に態度を急変させ、一方的に自己主張を始める加害者も少なくありません。そのため、近年では示談契約書において「示談成立後にSNSで相手を批判したり、事件に関する情報を発信したりしない」という条項を設けるケースが増えています。誠実に示談を履行するためにも、安易な投稿は慎むべきです。
まとめ
示談は、トラブルを円満に解決し、加害者にとっても被害者にとっても負担を軽減する重要な手続きです。しかし、示談交渉には明確なルールがあり、そのルールを守らなければかえって事態を悪化させる危険があることを理解しておく必要があります。示談は「相手に許してもらうための行為」である以上、常に相手の意思を尊重し、慎重に進める姿勢が求められます。
まず、示談できる相手との間では積極的に示談を進めるべきですが、その過程で金額の値切りを提案したり、被害者を急かしたりする行為は避けるべきです。被害者の提示する条件に誠実に向き合い、誠意を持って対応することが示談成立の鍵となります。また、被害者が交渉に応じない場合でも、強要したり圧力をかけたりしてはいけません。示談はあくまで被害者の自由意思で成立するものであり、無理に進めた時点で本来の目的を失ってしまいます。
さらに、裏ルートを使った交渉は大きなリスクを伴います。仲介人を介したとしても、被害者の意思を尊重しない行動は信頼を損ない、法的責任を問われる可能性もあります。SNSでの発信についても同様で、交渉中の情報発信は極めて危険です。示談成立後であっても慎重な姿勢を保つことが求められます。
示談は正しい手順を踏み、相手の気持ちに寄り添いながら進めていくことで、はじめて本来の効果を発揮します。焦ることなく、ルールに従った行動を心がけることが、最も確実で安全な示談の道です。
当研究所では、示談のこうしたデリケートな面をふまえて慎重に対応し、多数の交渉の成立に成功してきました。刑事事件などでお困りの方は是非、下記よりお気軽にご相談ください。


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