長く続いてきた企業の倒産件数が増加
近年、倒産件数が業界を問わず増加しつつありますが、その中でも特に注目されているのが、長年にわたり地域や市場で存在感を示してきた企業の倒産増加です。従来、業歴の長さは信頼性や安定性の象徴と見なされ、取引先からの信用、地域社会からの支持、そして内部的な技術・ノウハウの蓄積が期待されるものでした。経済の浮沈を経験し、幾度もの危機を乗り越えてきた企業は、通常であれば経営基盤が強く、簡単に経営破綻するとは考えづらいとされてきました。それだけに、長く存続してきた企業が倒産に追い込まれることは、市場においても社会においても大きな衝撃を与えます。
こうした企業は従来、規模が小さくとも長く営業してきたことで顧客の信頼を得ており、またローカルコミュニティに根ざした経営が多く、金融機関からの融資も受けやすい傾向がありました。そのため、単純な景気悪化だけで倒産に至るケースは多くありませんでした。しかし、近年はそんな優位性を持つ企業でさえ、市場変化や社会構造の転換に対応できず、経営を継続できない状況が見られます。表面的には同様の「倒産」に見えても、背景にはより深い、構造的で長期的な要因が潜んでいます。
そこで本稿では、業歴の長い企業でも倒産が増加しているという事象について、その本質に迫ります。単なる経済トレンドではなく、経営のあり方や企業文化、事業承継をはじめとした内部要因が大きく関わっていることが推測されます。そこで、これらの根本的要因を整理したうえで、長く続いてきた企業がこれからも存続していくためには何が必要となるのか、回避策や考えるべき視点について解説していきます。
人手不足・物価高・賃上げ
現在、多くの企業に共通する経営課題として、人手不足、物価高、そして賃上げ圧力が挙げられます。社会全体で労働人口が減少し、若年層の確保が難しくなる中、求人を出しても思うように応募が集まらない状況は顕著です。特に地方では顧客はいても従業員が足りず、事業の維持すら困難になる事例も増えています。さらに、最低賃金の引き上げや転職市場の活発化により、従業員確保のための賃上げが避けられない局面が続き、これによって人件費負担が増大する企業が多くなっています。
加えて、原材料や物流費の高騰も企業経営を圧迫しています。仕入れ価格が増加しても販売価格に転嫁しにくい業界では、利益が目減りし、資金繰りが逼迫するリスクが高まります。利益率の低い中小企業にとっては、このような外的要因によるコスト増は非常に大きな負担です。結果として、売上が維持できていても内実は赤字が積み重なり、倒産に至ることもあります。
ただし、業歴の長い企業の場合、長期にわたり築いてきた人間関係や信用力を活かし、安定した顧客基盤や業務効率の蓄積により、これらの問題にある程度対応できるケースもあります。従業員のロイヤルティが高く離職率が低い場合や、仕入れ先との信頼関係に基づき価格交渉力を持っている場合など、短期的な変動要因だけでは倒れない強さが備わっていることも多いのが特徴です。したがって、これらの課題は確かに倒産のきっかけとなり得るものの、業歴のある企業が致命的なダメージを受ける決定的要因とはなりにくいといえます。問題は、内部に潜むより根深い構造的課題をいかに見極め、対応していくかにあります。
後継者不在
業歴の長い企業にとって、後継者不在は極めて深刻な課題です。創業者や現経営者が長年の努力によって築き上げた企業文化、顧客との信頼関係、技術や判断力は、短期間で習得できるものではありません。そのため、経営者が高齢化しても明確な後継者がいない場合、事業の継続が困難となります。特に中小企業では、経営者と会社が一体となっているケースが多く、企業は経営者の存在そのものに支えられていることも珍しくありません。
また、現代では子どもが家業を継がない、親族内に適任者がいないといった事例が増加しています。以前であれば自然な形で親族が後を継ぐことが一般的でしたが、キャリア選択の多様化により、家業を継ぐという選択肢が必ずしも当たり前ではなくなりました。その結果、経営者が替わらないまま長期化し、後継体制の整備が先送りされるケースが多発しています。
もちろん外部から後継者を招聘するという方法もありますが、適任者の確保は難しく、また企業文化に馴染ませるには時間がかかります。経営者の仕事は単なる業務遂行ではなく、判断力と責任を伴う重い役割であり、短期間で置き換え可能なポジションではありません。そのため、後継者育成や事業承継計画は早期から取り組む必要があります。
しかし、多くの企業では「忙しい」「まだ大丈夫」という意識から、これらの準備が先送りにされがちです。その結果、気づけば経営者が年齢や健康の問題で事業を続けられず、しかし後継者がいないという状況に陥り、倒産や事業停止という選択を余儀なくされることがあります。業績が安定していても、後継者が確保できなければ企業は存続できません。後継者不在は、長く続いた企業ほど表面化しにくく、しかし気づいたときには取り返しがつかない問題として顕在化するのです。
シフトチェンジのタイミング
企業経営において、環境変化に応じたビジネスモデルの見直しは不可欠です。しかし、業歴のある企業ほど、過去の成功体験が強固な自信となり、変革を遅らせる要因になることがあります。顧客のニーズが変わり、技術革新が進み、働き方や消費行動が変化するにもかかわらず、「これまでこのやり方で成功してきた」という意識が変化を阻む壁となります。
また、企業文化として保守的な体質が根付いている場合、現場からは改善提案や新規挑戦の声が上がりにくくなります。結果として、変化が必要なタイミングで適切な意思決定ができず、収益性が徐々に低下し、市場から取り残されていきます。とりわけ、デジタル化や自動化といった現代の変革はスピードが速く、対応の遅れが致命傷となりやすい状況です。
経営者自身が「変えるべき時期」を見誤ることもあります。市場の動きを把握しながら、どの方向へ進むべきか明確なビジョンを描けず、判断が先送りされると、組織全体が惰性に流されます。新規投資に踏み切れず、古い設備や非効率な業務を抱え続けることで、競争力が低下していきます。こうした問題は、時間とともに蓄積し、やがて企業体力が尽きた時に危機として表面化します。
変化を恐れること自体は自然な心理ですが、「変わらないこと」が最大のリスクになる時代です。変革のタイミングを逃すと、いかに歴史があっても生き残れない企業が増えています。シフトチェンジの決断と実行は、今や企業が存続するための最重要課題の一つといえるでしょう。
M&Aに勝機を見出せ
後継者不在や変革の遅れに直面する企業にとって、M&Aは単なる売却手段ではなく「事業存続のための戦略的選択肢」となっています。親族や社内に後継者がいない企業でも、経営者候補や経営ノウハウを持つ企業に買収されることで、事業を継続し、従業員の雇用を守ることができます。また、買い手企業の経営資源や販売ネットワークを活用することで、停滞していた事業が再成長する可能性もあります。
特に、時代の変化に対応しづらい企業にとって、M&Aは外部からの視点と改革力を取り込む貴重な機会となります。自社単独では踏み切れなかった事業モデルの転換やDX化への対応を、買い手企業のノウハウで加速できることがあります。いわば、M&Aによって「半強制的に未来へ進む」ことができるとも言えます。
さらに、M&A市場は活発化しており、中小企業でも積極的にM&Aを活用する事例が増えています。近年は後継者探しの延長線としてM&Aを検討する経営者も増えつつあり、伝統ある企業ほど「内部後継→外部後継→M&A」という流れが一般化しつつあります。むしろ、計画的な承継よりも、適切なタイミングでM&A相手を探し、企業価値を維持しながらバトンを渡す方が合理的な選択肢となるケースも多いといえます。
もちろん、M&Aには準備と判断が必要です。しかし、事業を守りたいという意志があるならば、M&Aは十分検討に値する解決手段です。時代が変わる中で、企業の形を維持することに固執するよりも、価値と雇用を未来につなぐという視点が重要です。M&Aを前向きに捉える姿勢が、今後ますます求められていくでしょう。
まとめ
業歴の長い企業が倒産する背景には、一見外部要因に見える課題だけでなく、事業承継の遅れや変革対応力の不足といった内部課題が大きく関与しています。長い歴史と信頼は大きな強みですが、それに安心し改革を怠ると、市場変化のスピードに追いつけなくなります。後継者不在や変革のタイミングを逃すことは、事業の未来を失うことにつながります。
こうした中、M&Aをはじめとする柔軟な承継戦略は、企業を次の世代へつなぐ重要な選択肢です。企業は自らの強みと課題を正しく認識し、早めの準備と変化への意識を持つことが求められます。長く続いてきた企業だからこそ、未来へつなぐための判断力と行動力が不可欠です。
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