季節変動の大きい商品の売り込み方【公認会計士×MBAが解説】

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スポーツ用品の小売が4年連続増加

日本の小売市場において、スポーツ用品の動向が注目を集めています。かつて新型コロナウイルスの感染拡大に伴う行動制限や外出自粛により、スポーツ用品業界は深刻な打撃を受けました。部活動の停止、市民マラソンの中止、スポーツ施設の閉鎖といった事態が相次ぎ、一時的に市場は冷え込みを見せました。しかし、そうした苦境を乗り越え、驚くべきことにスポーツ用品の小売額はその後、4年連続で増加という力強い回復基調を見せています。
この増加の背景には、健康意識の高まりや、屋外でのレジャーとしてのスポーツ再評価など、消費者のライフスタイルの変化が大きく関わっています。しかし、そもそもスポーツ用品というカテゴリーは、食料品や日用品のような「生活必需品」ではありません。ウェア、シューズ、ギアの多くは、趣味や娯楽、自己研鑽のために購入されるものであり、景気動向だけでなく、季節や特定のイベントによって需要が激しく上下する「季節変動の大きい商品」の代表格です。
それにもかかわらず、近年の売上が安定して伸び続けている背景には、単なる外部環境の好転だけではなく、大手小売業者を中心に販売戦略が極めて高度に洗練されてきたことが挙げられます。彼らは変動の波に翻弄されるのではなく、その波を予測し、巧みに利用することで、確実に利益を積み上げる手法を確立してきました
そこで本稿では、こうしたスポーツ用品の事例をモデルケースとし、季節変動の大きい商品をいかにして戦略的に売り込んでいくべきか、その具体的な手法とマインドセットを解説していきます。

少子化、天候に左右される

スポーツ用品特有の悩みとして、天候という不確定要素への依存度が極めて高いことが挙げられます。特に屋外スポーツに関連する商品は、天候にその売り上げを完全に左右されます。長引く梅雨や予期せぬ長雨は、ゴルフやテニスといった屋外競技の機会を奪い、関連商品の購入を先送りさせます。加えて、近年の記録的な猛暑は、スポーツ業界にとって大きな逆風となっています。あまりの暑さに屋外での活動が制限され、本来であれば活発に動くはずの夏の需要が、命の危険を感じるレベルの気温によって抑制されてしまう事態が頻発しています。
確かに、経済的な余裕がある富裕層や、健康維持を目的とする高齢者層に向けた高価格帯の用品には一定の需要が存在します。しかし、社会全体を俯瞰してみれば、少子化という構造的不安と、異常気象という制御不能なリスクがもたらす不利な事情の方が圧倒的に大きいのが現状です。
このような状況下では、かつてのような「店頭に並べておけば時期が来れば売れる」という楽観的な姿勢は通用しません。何も対策を講じず、ただ漫然と普通に販売しているだけでは、減少する若年層と不安定な天候によって売上は漸減していく一方です。需要が縮小し、変動が激しくなる中で、いかにして消費者の財布を開かせるかという課題は、かつてないほど難易度を増しています。
こうした逆境があるからこそ、販売側には緻密なマーケティングと、既存の枠組みに捉われない新しいアプローチが求められるようになっています。外的要因に振り回されるだけではなく、それらを前提とした上で、いかにして「売れない理由」を「買う理由」へと転換していくかが、現在のスポーツ用品販売における死活問題となっているのです。

大会や選手の活躍が追い風

スポーツ用品の販売において、最大の起爆剤となるのは、大規模な国際大会やスター選手の活躍です。これらは「季節」という自然現象を超越した、強力な消費の波を作り出します。特定のアスリートが世界を舞台に目覚ましい成果を挙げれば、その瞬間にその競技への注目度は急上昇し、彼らが使用している道具や着用しているウェアに対する需要が爆発的に高まります。スポーツ用品販売の最前線において、こうした「追い風」をいかに捉えるかは、年間の売上目標を達成するための最大の鍵となります。
特に2026年は、スポーツ界にとって稀に見る「特異な一年」と言えます。冬季オリンピックが開催され、さらには世界中の野球ファンが熱狂するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、そしてサッカー界最大の祭典であるワールドカップと、世界レベルのビッグイベントが目白押しです。これほどまでに大きな大会が重なる年は珍しく、スポーツ用品業界にとっては、過去最大級の売り上げを伸ばす千載一遇のチャンスが到来していると言っても過言ではありません。
こうした「大会景気」は、一時的なブームに終わらせることなく、いかに持続的な売上に繋げるかが重要です。スポーツ用品の販売戦略において、こうした大きな大会や選手の活躍を予測し、あらかじめ準備しておくことは不可欠な要素です。大会期間中の在庫管理はもちろんのこと、優勝や劇的なシーンに合わせたプロモーション、関連グッズの展開など、メディアの盛り上がりと完全に同期した動きが求められます。
消費者の「自分もあんな風になりたい」「あの熱狂の一部になりたい」という感情的な高まりに訴求することで、普段は購買に慎重な層をも動かすことができます。スポーツ用品という、季節や天候に左右されやすい商材を扱うからこそ、こうした社会的な盛り上がりを最大限に活用し、逆境を跳ね返すエネルギーに変えていく姿勢こそが、現代の販売戦略における王道と言えるでしょう。

基本的にはぜいたく品

スポーツ用品の本質的な特徴として理解しておかなければならないのは、これらが日常生活を営む上で最低限必要な「生活必需品」ではなく、基本的には「ぜいたく品(嗜好品)」のカテゴリーに属するということです。
それでは、資金力のある高所得層をターゲットにすれば安泰かというと、事態はそれほど単純ではありません。高所得層は購買力こそ高いものの、商品に対する「ブランド選好」や「品質への要求」が極めて厳格です。彼らは単に高いものを買うのではなく、そのブランドが持つ歴史、ステータス、そして自身のライフスタイルに合致するかどうかを厳しく吟味します。そのため、安易な高級路線や有名人の起用だけでは、本質を見抜く彼らの心に響くことはありません。
スポーツ用品が持つ最も基本的な価値は、その「機能性」にあります。軽量であること、耐久性が高いこと、衝撃を吸収することなど、競技パフォーマンスを向上させるためのスペックは、購入の最低条件です。しかし、現代の消費者は、機能だけでは満足しません。特に、スポーツをライフスタイルの一部として楽しむ層は、機能性に加えて「ファッション性」を重視します。ジムで着るウェアが自分をいかに魅力的に見せてくれるか、そのシューズが日常のコーディネートにも馴染むかどうか、といった視点が極めて重要になっています。
このように、スポーツ用品を販売するためには、機能という土台の上に、洗練されたデザイン(ファッション性)と、ユーザーのストレスを極限まで減らす使い心地(使いやすさ)という要素を、高い次元で融合させなければなりません。これらを徹底して作り込み、消費者の感性と理性の両方に訴えかけることで初めて、彼らは「ぜいたく品」であるスポーツ用品に対して対価を支払う決断を下すのです。販売者は、単に「モノ」を売るのではなく、それを持つことでもたらされる「体験」や「充足感」を設計しなければなりません。

波に乗る

季節変動が激しく、外部環境にも左右されやすい商品は、単純な手法では売上を安定して伸ばすことは困難です。特にスポーツ用品のように、特定の時期に需要が集中する商材は、年間の販売サイクルを一定にするような「販売方法のマニュアル化」が非常に難しいという側面を持っています。しかし、そうした変動性の中にも、必ず「波」は存在します。この波とは、景気動向、気象パターンの変化、そして社会的なトレンドやブームのことです。季節変動の大きい商品を攻略する最大の秘訣は、この波に抗うのではなく、いかにして「波に乗るか」に集約されます。
まず重要なのは、どのような波が、いつ、どの程度の規模でやってくるのかを正確に察知することです。これは単なる予測ではなく、過去の膨大なデータと最新の社会情勢を組み合わせた「分析」による予兆の把握です。
先手を取るためには、商品そのものの作り込みから、プロモーションの計画、店頭での演出に至るまで、すべてのプロセスを波の到来に合わせて逆算して構築する必要があります。スポーツ用品の場合、この波は「季節」や「国際大会」という形で比較的読みやすい部類に入ります。冬の訪れはカレンダーを見れば分かりますし、4年周期の大会スケジュールも確定しています。だからこそ、その予測可能な波に対して、どれだけ精緻な準備ができるかが勝負の分かれ目となります。
そして、この「波を読み、波に乗る」という考え方は、スポーツ用品以外のあらゆる季節変動商品、あるいはトレンド商品においても極めて有効な戦略となります。ファッション、飲料、レジャー、家電など、世の中の多くの商材は何らかの外部要因に左右されます。まずは自社の商品がどのような外的要因(気温、イベント、法改正、文化的ブームなど)に反応するのかを徹底的に分析してみることです。
その波の性質を理解すれば、一見コントロール不能に見える季節変動も、予測可能なチャンスへと変わります。波が引いている時期に体力を蓄え、次の波が来る瞬間に向けてすべてのリソースを集中させる。このダイナミックな販売戦略こそが、不透明な現代市場において持続的な成長を遂げるための唯一無二の方法なのです。

まとめ

かつてのコロナ禍による停滞から一転、4年連続で小売額が増加している背景には、変動の激しさを「リスク」として捉えるのではなく、むしろ「機会」として活用する洗練された戦略が存在します。少子化という深刻な構造的問題や、近年の過酷な猛暑といった天候不順など、外部環境には依然として厳しいものがあります。しかし、そうした逆風を跳ね返す力は、緻密な分析と柔軟な対応から生まれます。
2026年に控える冬季五輪やWBC、ワールドカップといった国際的なビッグイベントは、単なる季節の移ろいを超えた強力な「追い風」となります。こうした機会にスター選手の活躍が重なることで、人々の消費意欲は爆発的に高まります。また、スポーツ用品が本来持つ「ぜいたく品」としての側面を理解し、機能性・ファッション性・使いやすさを高次元で融合させる製品開発も欠かせません。消費者が納得して対価を支払うだけの価値を、細部まで徹底して作り込むことが求められています。季節性の高い商品であっても、計画的に準備することで高い売上を維持していくことが可能です。
当研究所では、こうした複雑な市場を読み解くお手伝いもしております。下記よりお気軽にご相談ください。

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