人手不足と後継者不足という二大問題
人手不足は、いまや特定の業種に限られた問題ではなく、日本経済全体に広がる構造的な課題になっています。特に中小企業では、従業員が慢性的に不足し、既存のスタッフに過度な負担がかかってしまうケースが目立ちます。採用活動を強化しようとしても、応募そのものが少なく、やむを得ず人員不足のまま事業を継続せざるを得ない企業が数多く存在します。このような状況では、従業員の疲弊が進むだけでなく、本来提供できるはずのサービス水準を確保することも難しくなってしまいます。
同時に、後継者不足も深刻な問題となっています。中小企業では経営者の高齢化が急速に進んでいますが、後継ぎが見つからないために、本来であれば継続可能な事業であっても廃業を選ばざるを得ないケースが増えています。後継者がいないだけで、長年地域に根ざしてきた企業が姿を消すことは、社会にとっても大きな損失です。特に地方では、1社の廃業が地域経済全体の縮小につながることも珍しくありません。
人手不足と後継者不足は、別個の問題のように見えますが、実際には深く関連しています。人手不足により企業が疲弊すれば、事業の魅力が下がり、後継者候補も現れにくくなります。一方で後継者不足により事業継続の見通しが立たなければ、人材を採用しようにも応募が集まりません。このように双方が悪循環を形成することで、企業力が低下してしまいます。
しかし、企業が社会に必要なサービスを十分に提供できる状態であるにもかかわらず、人手不足や後継者不在が原因で事業を継続できないというのは、あまりに大きな損失です。だからこそ、企業は売上や規模の拡大にこだわるのではなく、限られた人員で持続可能に経営を続けるための仕組みづくりを進める必要があります。そこで本稿では、そのための実践的な方法として、人手不足と後継者不足の双方を一挙に解決する可能性をもつアプローチを紹介していきます。
収益性を確認して適正規模に縮小する
企業が持続的に成長していくためには、まず現在の事業構造を適切に把握することが求められます。しかし多くの企業では、外部環境の変化により、気づかないうちに収益性が悪化している部門が存在します。市場縮小やコスト上昇、競合環境の変化など、様々な要因によってかつての稼ぎ頭の事業が不採算化していることは珍しくありません。にもかかわらず、これまで続けてきた事業であるがゆえに撤退の判断ができず、結果として企業全体の負担となってしまうことがあります。
働いても儲からない部門が残っている状態では、従業員の士気が低下するだけでなく、生産性の低下を招き、人手不足の解消どころか負荷の増大につながります。そこで必要になるのが、事業規模の適正化です。不採算部門を整理し、限られた人材で十分に回せる規模に縮小することで、逆に企業全体の利益率が向上することがあります。人手不足の状況では、むやみに事業を拡大しようとすることはリスクにしかなりません。
とはいえ、多くの経営者にとって、創業以来続けてきた事業を廃止する決断は簡単ではありません。長年のお付き合いのある顧客や取引先を失うことへの心理的抵抗、従来のやり方を変えることへの不安など、感情面の障壁が大きいためです。しかし、不採算部門は企業にとって“見えない重荷”であり、それを放置すればするほど人材不足が深刻化し、他の部門の競争力まで低下させる可能性があります。
持続可能な企業経営とは、売上や仕事を増やすことではなく、いまの人員で無理なくこなせる範囲に業務量を整えることです。適正規模を見極めることは、企業を守るだけでなく、人手不足解消にもつながります。規模を“小さくする”という選択は、一見すると後退に見えますが、実際には“企業力を回復するための前向きな決断”です。
ストックビジネスはどこかで顧客制限が必要になる
ストックビジネスは、毎年安定した売上が見込めるため、企業にとって非常に魅力的なビジネスモデルです。税理士事務所のような士業はその典型例であり、開業当初は顧客が少なく厳しい状況でも、数年間努力を重ねることで継続的な収入を確保できるようになります。しかし、その仕組みの裏には大きな落とし穴が潜んでいます。ストックビジネスは顧客が増えるほど業務量も積み上がるため、気づけば一人では処理しきれないほどの仕事を抱えるようになってしまいます。
本来であれば、この段階で若手人材を採用し、業務を分担することで売上を最大化できます。しかし、特に個人経営の士業事務所の場合、採用活動をしてもなかなか優秀な人材が応募してこないという現実があります。事務所の知名度が低い、給与水準を大幅に上げられない、教育が負担になるなど、採用に踏み切れない理由は様々です。その結果、案件は増えるのに人手は増えず、業務過多に陥ってしまいがちです。
こうした状況では、どこかで仕事を断らなければなりません。しかし、多くの士業は「せっかく依頼してくれたのだから」「収入につながるから」といった理由で業務を断れない傾向があります。特にストックビジネスは、一度契約すれば長期的に収入が得られることが魅力・報酬の安定性に直結することから、断る決断は心理的な負担が大きいといえます。しかし、採用できない以上、仕事量を調整するしかありません。
ストックビジネスでは、業務量が雪だるま式に増えていくため、どこかで意識的に上限を設ける必要があります。業容拡大の魅力に引きずられるのではなく、処理可能な仕事量を見極め、あえて顧客制限を設けることが重要です。それこそが、持続可能な経営を実現し、人手不足による疲弊を防ぐ最も効果的な手段になります。
仕事を絞る目的
業務量を制限する際には、まず収益性の低い業務から減らすことが重要です。限られた人員で仕事をこなしている場合、単価が低い、時間がかかる、トラブルが多いなどの業務は、企業にとって実質的な負担にしかなりません。こうした業務を残したまま事業を続ければ、従業員の疲労感が増し、やりがいの低下を招き、さらには離職につながることもあります。
業務を絞る目的は、単に不採算業務を切り捨てることにとどまりません。全社的な収益性を改善し、限られた人材で最大の成果を出すための体制を作ることにあります。仕事を選別する際には、額面上の収益性だけでなく、タイムパフォーマンスや従業員の心理的負担、顧客とのコミュニケーションにかかる時間など、多角的な視点から検討することが欠かせません。
また、業務量を抑えることで、従業員一人ひとりが丁寧な仕事をこなせるようになり、品質向上にもつながります。仕事の質が上がれば顧客からの信頼も高まり、結果的に収益性の高い業務の受注につながることがあります。これは、単に業務を減らすだけでは得られない効果であり、仕事を絞ることの大きな意義だといえます。
さらに、従業員の生産性が高まれば、企業全体の雰囲気も改善します。余裕が生まれることで新しい挑戦ができるようになり、職場に活気が戻ります。結果として従業員の士気も上がり、離職率の低下や定着率の向上が期待できます。これは企業の成長にとって非常に重要な要素です。
仕事を絞るとは、企業の体力を守りながら、より価値の高い活動に集中するための戦略です。人手不足が深刻化する中、この考え方は今後ますます不可欠になっていくでしょう。
副次的効果
業務を絞り、収益性と生産性を高めることで、企業にとって大きな副次的効果が生まれます。その第一は、働きやすい職場環境が形成されることです。業務過多の状態では従業員は疲弊し、精神的にも肉体的にも余裕がなくなりますが、適正な業務量を維持できれば、従業員の負荷は軽減されます。その結果、企業として賃上げの余裕が生まれ、働く人にとって魅力的な職場へと変化します。
働きやすく賃金水準が高い職場には、自然と応募者も増えます。これにより人手不足の解消が期待でき、企業に良い循環が生まれます。人が集まれば業務分担が可能になり、さらに職場環境が改善するという好循環が形成されていきます。これは、無理に売上を伸ばすよりもはるかに効果的な成長戦略です。
また、収益性の高い企業は外部からの評価も高まります。特に後継者不在の企業の場合、M&Aによる事業承継が現実的な選択肢になりますが、財務体質が健全で収益性の高い企業は、買い手から見ても魅力的です。人手不足と後継者不足の課題を一挙に解決する手段としても、企業価値を高めておくことは極めて重要です。
しかし、事業規模を適正水準に縮小するという判断は、経営者にとって非常に難しいものです。自社の強みや歴史、顧客との関係性を踏まえると、何を残し何を切り捨てるべきかを冷静に判断することは容易ではありません。だからこそ、外部コンサルタントの役割が重要になります。第三者の視点で企業の現状を分析し、収益性や業務量のバランスをもとに最適な判断を促すことで、企業を持続可能な状態へと導くことができます。
まとめ
人手不足と後継者不足は、日本企業にとって避けて通れない構造的課題です。しかし、これらの問題は単純に「人を増やせば解決する」というものではありません。限られた人員で持続可能に事業を継続するためには、収益性の低い業務を見直し、適正規模に事業を調整することが欠かせません。
ストックビジネスのように業務量が積み重なっていくビジネスモデルでは、特に意識的な顧客制限が必要になります。採用が難しい状況で業務を増やし続ければ、やがて処理能力を超えてしまい、従業員が疲弊し、企業全体の質が低下してしまいます。だからこそ仕事の選別が重要であり、価値の低い業務から切り捨て、限られた人員で最大の成果を生む体制を整える必要があります。
業務量を絞ることにより企業の収益性や生産性が高まれば、従業員の負担は軽減され、賃上げの余地が生まれます。結果として応募者が増え、人手不足の解消につながります。また、企業価値が高まれば、後継者不在でもM&Aをはじめとした事業承継が可能になります。
コンサルタントの仕事は、単に売上を増やすことではなく、企業が持続可能な規模で安定して運営できる状態をつくることです。事業の適正規模化を提案し、人手不足と後継者不足の課題を同時に解決する道筋を示すことこそ、現代におけるコンサルタントの最も重要な役割だといえます。
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