取引先は分散一択ではない【MBA×中小企業診断士が解説】

コンサルティング

大口取引先を持つべきか取引先は分散すべきか教科書的には分散すべきと言われるが・・

企業経営において「どのような取引先構成をとるべきか」という点は、非常に本質的な経営課題の一つです。とりわけ起業直後や新規事業立ち上げ時には、この点の判断が後々の経営の安定性に大きな影響を与えるため、軽視できません。教科書的な立場から言えば、「取引先はなるべく分散させるべき」とされることが多く、ひとつの取引先に依存するリスクを避けることが推奨されます。たしかに、特定の企業に依存していた場合、その企業の都合で取引が打ち切られると、たちまち収益の柱を失い、経営の根幹が揺らぐというのはよくあるリスクです。
一方で、実際のビジネスの現場では、必ずしも分散だけが正解とは限りません。ときには、大口の取引先と強固な関係を築くことが、短期的にも中長期的にも自社に大きな利益をもたらすケースもあります。特に起業初期のように、経営資源が限られているフェーズにおいては、少数の信頼できる取引先に注力し、深く関係を築いていく戦略が功を奏することも少なくありません。
そこで本稿では、取引先の分散と集中、双方のメリット・デメリットを丁寧に掘り下げ、それぞれの選択がどのような場面で適切かを解説してまいります。

取引先分散のメリット

取引先を分散させることの最大の利点は、何といっても「リスクの分散」にあります。いかに信頼性の高い企業であっても、経済情勢の変化や内部事情によって突然取引が打ち切られることはあります。たとえば、相手先の業績悪化や経営方針の転換、さらには担当者の異動など、外部要因によって取引が不安定になるケースは多々存在します。そうした状況に備えるうえで、複数の取引先を確保しておくことは、企業としてのレジリエンスを高める有効な手段となります
また、複数の業界や業種の取引先を持つことで、自社の事業が一つの市場に偏らず、より多様なニーズに対応できるようになります。これは製品やサービスの柔軟性を高めるだけでなく、市場の動向に応じた素早い方向転換も可能にします。さらに、複数の取引先との接点は、人脈の拡大や情報収集力の向上にも直結します。新たな顧客やパートナーの紹介、業界内での評価の向上といった副次的な効果も期待できるでしょう。
もちろん、取引先が増えればその分、関係の維持・管理のコストや手間も増えるのは事実です。しかし、それを上回るだけのメリットがあるのもまた確かであり、特に安定的かつ持続可能な経営を志向する企業にとっては、分散戦略は非常に有効な手段といえます。

大口取引先のメリット

一方で、大口取引先との関係に集中する戦略にも、明確なメリットが存在します。まず、収益面でのインパクトが大きいという点は見逃せません。ひとつの契約で多額の売上が見込めるため、資金繰りの安定に直結しやすく、他の業務や投資への余力も生まれます。これは特に起業初期において、経営基盤を整えるうえで非常に重要な要素となります。
さらに、大口取引先のニーズに応える過程で、特定分野におけるノウハウや専門性を集中的に蓄積することができます。たとえば、毎回要求の厳しい仕様や高い品質基準に応えることで、自然とその分野の知識や技術が洗練されていくのです。その結果として、同業他社や新規顧客に対しても、「あの会社としっかり取引しているのなら安心だ」という信頼感を与えることができ、営業面でも優位に立つことが可能となります。
また、大手企業との取引は社会的信用を高める効果も大きく、銀行や投資家からの評価にも好影響を及ぼします。さらに、その大手企業のサプライチェーンやネットワークを通じて、新たな販路やパートナーを紹介されることもあり、取引先以上の資産となる可能性すらあります。したがって、単なる依存ではなく、戦略的な関係構築として捉えることで、大口取引先との関係は企業成長の強力な原動力となるのです。

起業当初や新規事業立ち上げ当初は大口取引先を獲得してノウハウを蓄積するのも一策

起業直後や新規事業の立ち上げ段階では、自社の信用力や認知度が低く、多くの企業とすぐに取引関係を築くことは難しいのが実情です。営業リソースや人材、製造・提供能力も限られている中で、無理に分散を図るよりも、まずは信頼できる大口取引先を一社でも確保し、集中的にリソースを投下することが、効率的かつ効果的な戦略となります。
このような集中型の取り組みにより、取引先の要望に真摯に応えることで実践的なスキルや知識が蓄積され、それが将来的なサービス品質の向上や商品力の強化へとつながっていきます。また、大口取引先が持つビジネスルールや品質管理、納期厳守の文化に触れることで、企業としての「型」が自然と形成され、信頼を得るうえで不可欠な体制整備が進んでいきます。
さらに、そのような経験を経た上で、「あの取引先と継続的に仕事をしている」という事実は、新たな営業先に対する大きなアピール材料となります。つまり、初期においては大口取引先に全力を傾けることが、次なる分散戦略や新規開拓を成功させるための“踏み台”になります。

蓄積したノウハウを分散し、さらに新規事業化

一定の取引経験や業務ノウハウが蓄積された段階では、取引先を徐々に分散させることで、企業のリスク耐性を高めるフェーズに入ることが望まれます。最初に得た経験をもとに、他業種や異なる規模の取引先と関係を構築することで、より広範な市場ニーズに対応できる企業体質へと進化させることができます。
また、大口取引先から得たノウハウを横展開することで、同様の業種や業界への新規参入も現実的になります。たとえば、ある製造業で培った技術や品質管理手法を、別業界に応用した新商品開発へとつなげることも可能です。こうして、既存事業の安定とともに、新規事業への挑戦を同時に進めることで、企業としての持続可能性が飛躍的に向上します。
特に中小企業においては、ひとつの事業が行き詰まった際に他の事業が支えるという構造を意識的に築くことが、長期的な経営において極めて重要です。そのためにも、集中と分散、新旧事業のバランスを柔軟に取りながら、成長と安定の両輪を回していくことが経営の鍵となります。

まとめ

「取引先は分散一択」というのは、確かに教科書的な正論ではありますが、実際のビジネス現場では、すべての状況に当てはまるものではありません。起業直後や新規事業の初期段階では、むしろ大口取引先と深く関わることで、実践的なノウハウや信用を獲得する方が現実的かつ有効な戦略となる場合も多々あります。
そして、その過程で得た知見やスキルを武器にして、徐々に取引先を広げ、リスクの分散と安定的な経営体制を構築していく。このように、フェーズに応じて集中と分散をバランスよく活用することが、事業の持続的成長を実現するためには必要不可欠です。
ビジネスは常に変化に富んでおり、固定的なルールだけでは対応しきれません。だからこそ、「今、何が自社にとって最適か」を見極め、柔軟に戦略を調整する経営感覚が求められます
当研究所では経営を中心に法律・会計税務・技術とバランスの良い知見を有する専門家が御社の経営課題解決を全方位でサポートいたします。下記よりお気軽にご相談ください。

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました