普段真面目な人がリスクマネジメントのために特に注意すべきポイント【弁護士×公認会計士が解説】

リスクマネジメント

何であの人が犯罪を?

ニュースや新聞を見ていると、「あの人がなぜ?」と驚くような犯罪報道に接することがあります。周囲からは真面目で誠実、仕事もきちんとこなす人物として評価されていたにもかかわらず、突然犯罪を犯してしまったというケースは決して珍しくありません。むしろ、一定数、継続的に発生している現象といえます。
このような事例に触れると、「実は本性を隠していたのではないか」「もともと危険な人物だったのではないか」と考えがちです。確かに、普段は良い人間を装いながら、内心では強い野心や欲望を抑え込んでいる人が存在することは否定できません。しかし、実際に多いのは、計画的に悪事を重ねてきた人物ではなく、ほんの一瞬の判断ミスや、ちょっとした悪の誘いに「乗ってしまった」結果として犯罪に至ったケースです
普段真面目な人ほど、「自分は大丈夫」「自分が犯罪に関わるはずがない」という意識を持ちやすい傾向があります。その意識自体は日常生活を安定させる一方で、リスクマネジメントの観点から見ると、盲点になりやすい点でもあります。なぜなら、「まさか自分が」という油断が、判断を甘くし、結果として取り返しのつかない行動につながることがあるからです。
犯罪は、必ずしも強い悪意や計画性だけで起きるものではありません。疲労、感情の揺れ、人間関係、環境要因などが重なった結果、普段なら選ばない選択肢を選んでしまうことがあります。特に、真面目で責任感が強い人ほど、自分の内面の危うさを自覚しにくく、対策を講じないまま日常を過ごしてしまいがちです。
そこで本稿では、普段真面目に生活している人が、意図せずリスクに足を踏み入れないために、特に注意すべきポイントを整理していきます。犯罪に近づかないための心構えは、決して特別な人のためのものではありません。むしろ、「普通に生きている人」こそが意識しておくべき現実的なリスクマネジメントなのです。

感情のコントロール

普段真面目な人であっても、感情を完全にコントロールできているわけではありません。むしろ、真面目であるがゆえに、感情を表に出さず、内側に溜め込んでしまう人は少なくありません。この「溜め込み」が、ある瞬間に一気に噴き出すと、取り返しのつかない行動につながることがあります。
例えば、ほんの些細な一言に強くイライラしてしまい、衝動的に他人に当たってしまうケースがあります。普段なら我慢できるはずの状況でも、疲労やストレスが重なっていると、理性が十分に機能しなくなります。その結果、暴言や威圧的な態度に出てしまい、ハラスメントや暴力行為に発展する可能性も否定できません。
また、疲れているときに「少しくらいなら大丈夫だろう」と考え、やってはいけない手抜きをしてしまうこともあります。業務上のルール違反や不正行為は、多くの場合、最初から悪意をもって始まるわけではありません。むしろ、「今日は忙しいから」「今回は特別だ」という軽い気持ちが積み重なり、いつの間にか重大な問題に発展していきます。
苛立ちや疲れは誰にでも生じる自然な感情です。問題なのは、それを自覚しないまま行動してしまうことです。感情が高ぶっているときほど、人は自分の判断が正しいと錯覚しがちになります。そのため、感情が強く動いていると感じたときには、あえて即断を避ける姿勢が重要です。
感情をコントロールするとは、感情を押し殺すことではありません。自分が今どのような状態にあるのかを客観的に認識し、「今は冷静な判断ができないかもしれない」と一歩引いて考えることが、最大の防御策になります。真面目な人ほど、この自己点検を習慣化することが、リスクマネジメントの第一歩となります。

酒はリミットを定める

お酒による失敗は、古くから繰り返されてきた問題です。それでもなお、多くの人が同じ過ちを繰り返してしまうのは、飲酒が理性に与える影響を過小評価しがちだからです。普段は冷静で理性的な人ほど、「自分は酔っても大丈夫」と考えやすく、その自信が落とし穴になります。
特に注意すべきなのは、普段は理性で抑えている欲求や衝動が、飲酒によって表に出てしまうケースです。例えば、異性に対して興味や関心を持ちながらも、社会的規範や道徳観によって行動を制御している人が、飲酒によって判断力を失い、結果として性犯罪に至ってしまう危険性があります。これは決して特殊な例ではなく、実際の事件でも繰り返し見られる構図です。
お酒の影響は人それぞれ異なります。同じ量を飲んでも、気が大きくなる人、攻撃的になる人、記憶が曖昧になる人など、反応は千差万別です。そのため、「一般的にはこの程度なら大丈夫」という基準は存在せず、自身の傾向を理解し、自分でコントロールするしかありません。
重要なのは、酔ってから判断するのではなく、酔う前にルールを決めておくことです。例えば、飲む量をあらかじめ決めておく、二次会には参加しない、終電を逃さない時間で必ず切り上げるなど、具体的で実行可能なリミットを設定することが求められます。
また、周囲の雰囲気に流されない意識も不可欠です。場が盛り上がると、「もう一杯だけ」「せっかくだから」という言葉が飛び交いますが、その一杯が判断を大きく狂わせることがあります。普段真面目な人ほど、その場の空気を壊したくないという心理が働きやすいため、あらかじめ断り方を用意しておくことも有効です。
酒に関するリスクマネジメントは、自制心だけに頼るものではありません。仕組みとして自分を守るルールを作り、それを淡々と守る姿勢が、結果として自分の人生を守ることにつながります。

人付き合い

犯罪に関わるきっかけは、自分一人の判断だけで生じるとは限りません。むしろ、自分では犯罪を犯すつもりがなくても、他人に誘われた結果、巻き込まれてしまうケースは非常に多く見られます。この点において、人付き合いは重要なリスク要因となります。
特に注意すべきなのは、人間的に信頼している相手からの依頼や誘いです。長年の付き合いがある友人や、仕事上で世話になっている先輩などから頼まれると、「この人が言うなら大丈夫だろう」と深く考えずに応じてしまいがちです。しかし、その判断が後に大きな問題となることも少なくありません。
人との関係性が近いほど、客観的な視点を失いやすくなります。本来であれば、「それは法的に問題がないか」「倫理的に許される行為か」を冷静に検討すべき場面でも、関係性が判断を曇らせてしまうのです。その結果、名義貸し、不正な手続き、ハラスメント行為への加担など、本人の意図しない形で犯罪に関与してしまうことがあります。
重要なのは、「誰から頼まれたか」ではなく、「何を求められているか」で判断する姿勢です。相手との関係性にかかわらず、その行為が許されるものかどうかを自分自身で吟味する責任があります。この姿勢を持つことは、決して冷たい態度ではなく、むしろ自分と相手の双方を守る行為です。
また、犯罪やハラスメントの傾向が見られる人物とは、できる限り距離を置くことも大切です。「付き合いが長いから」「悪い人ではないから」と関係を続けているうちに、徐々に感覚が麻痺し、不適切な行為を容認してしまう危険性があります。距離を置くことは勇気のいる選択ですが、長期的に見れば最も合理的なリスク回避策といえます。

SNSには依存してはならない

近年、SNSを介した犯罪は大きな社会問題となっています。SNSは手軽で便利な一方、その特性を十分に理解しないまま利用すると、深刻なリスクを抱え込むことになります。普段真面目な人ほど、「文字として残るから安全だ」「証拠があるから大丈夫だ」と考えがちですが、現実はそれほど単純ではありません。
SNS上のやり取りは、一見するとすべて記録に残っているように見えます。しかし、犯罪を唆す側は、自身が責任を負わないよう巧妙に行動します。直接的な指示を避け、曖昧な表現を用いたり、第三者を介したりすることで、事後的に自己の正当性を立証できない状況に追い込まれるケースが多発しています。
また、SNSは心理的な距離を縮める力が強く、短期間で親密な関係が築かれたように錯覚しやすい点も危険です。実際には相手の素性をほとんど知らないにもかかわらず、信頼してしまい、結果として不適切な依頼や誘いに応じてしまうことがあります。
SNSは本来、「ゆるいつきあい」と割り切って楽しむべきものです。過度に依存し、承認欲求や孤独感を埋める手段として使い始めると、判断力が低下しやすくなります。その状態では、「自分にとって不利な状況」に気づきにくくなり、気づいたときには深く巻き込まれているという事態になりかねません。
便利であるがゆえに、SNSは生活の中心に入り込みやすいツールです。しかし、基本となるのはあくまで実社会での人間関係であり、SNSは補助的な存在にとどめるべきです。SNSに依存し過ぎないという姿勢は、現代における重要なリスクマネジメントの一つといえます。

まとめ

普段真面目に生きている人が犯罪に巻き込まれる背景には、特別な悪意よりも、日常に潜む小さな判断の積み重ねがあります。「自分は大丈夫」という意識は安心感をもたらす一方で、リスクへの感度を鈍らせる危険性も孕んでいます。
感情の揺れ、疲労、飲酒、人間関係、SNSといった要素は、どれも日常生活に深く根付いています。そのため、完全に避けることは現実的ではありません。重要なのは、それらが判断に与える影響を理解し、あらかじめ自分を守るためのルールや姿勢を整えておくことです。
リスクマネジメントとは、「危険な人になることを防ぐ」ためのものではなく、「危険な状況に近づかない」ための知恵です。真面目な人ほど、自分の弱さや限界を過小評価しがちですが、それを認めたうえで対策を講じることこそが、本当の意味での誠実さといえるでしょう。
日々の小さな選択を丁寧に積み重ねることが、結果として自分の人生を守ります。犯罪は特別な世界の出来事ではなく、日常の延長線上にあるという現実を意識し、冷静な判断を保ち続けることが、最も確実なリスクマネジメントです。
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