都心は飽和。だから過疎地へ?
近年、都市部ではコンビニエンスストアの店舗数が急増し、どのチェーンも都心の一等地にはすでに多くの店舗を構えています。その結果、同じチェーン同士で顧客を奪い合う、いわゆる「カニバリゼーション(共食い)」が問題となってきました。例えば、同じ道路沿いに同一ブランドの店舗が数百メートルおきに立地している光景も珍しくありません。こうした都心部の飽和状態により、各社は新たな成長の柱を模索する必要に迫られています。その一つの答えとして注目されているのが、過疎地への進出です。
例えば、最近ではローソンが北海道の稚内市に新たに3店舗を開業するというニュースも話題になりました。稚内市といえば日本の最北端に位置する市であり、人口は多くないものの広大な面積を有している地域です。このような地域に複数店舗を出店する動きは、従来の都心ドミナントとは異なる新たな出店戦略として注目されています。もちろん、都心部の飽和と地方進出の因果関係がすべて明らかになっているわけではありませんが、競争が激化した都心から需要が埋もれている地方へと視点を移す流れが強まっているのは確かです。今後も各チェーンの動向が注目されます。
そこで本稿では、コンビニ各社が地方に出店を強める目的とその注意点を整理します。
目的は買物難民の保護。顧客単価は高い
コンビニ各社が過疎地へ進出する最大の目的は、いわゆる「買物難民」と呼ばれる人々を支えることにあります。過疎地ではスーパーや小売店が撤退してしまい、高齢者を中心に日常の買い物に困る人が増えています。こうした地域でコンビニが店舗を構えることにより、近隣住民にとっては生活必需品を手に入れる大切な拠点となります。
実は、こうした過疎地における顧客単価は都心部よりも高いというデータもあります。都心のコンビニでは「ちょっとした買い物」や「ついで買い」が多く、購入金額が低い傾向にありますが、過疎地ではまとめ買いのニーズが強く、一度に多くの商品を購入する方が増えます。また、地域にとってコンビニがほぼ唯一の小売店という場合、日用品だけでなく、生活全般をカバーする拠点として利用されるため、客数は少なくても売上は安定しやすいのです。
もちろん、過疎地で店舗を維持するためには地域住民の支持が不可欠です。地域に根ざした品揃えや、利便性の向上に向けたサービス展開が求められます。顧客単価が高いとはいえ、人口が少ない分、地域に合わせた最適化がなされなければ採算を取ることは難しいでしょう。その意味でも、買物難民対策とビジネスの両立は、各社の腕の見せ所といえます。
金融や行政サービスなど地域の拠点に
近年のコンビニは単なる小売店としてだけではなく、地域の「多機能拠点」としての役割を強化しています。例えば、ATMの設置により金融サービスを提供したり、各種公共料金の支払いや宅配便の受け取り・発送、さらには行政サービスの一部を代行する窓口業務など、多様な機能を担うケースが増えています。
こうしたサービスは特に過疎地では大きな価値を持ちます。銀行の支店や行政機関の出張所が統廃合され、遠方まで足を運ばなければならない地域では、コンビニに立ち寄ることで一度に複数の用事を済ませられる利便性は住民にとって非常にありがたいものです。特に高齢者や交通手段に制約がある人にとって、生活の負担を減らす重要な役割を果たします。
このように、地域の拠点として集客機能が高まることで、単純な物販だけではなくサービス利用を目的とした来店が増えます。結果として、来店頻度が高まり、ついで買いの機会も増えるため、売上増加に繋がる好循環が生まれます。コンビニ各社も自治体や地域金融機関と連携し、地域密着型サービスの拡充を図っており、こうした取り組みが過疎地における持続可能なビジネスモデルとして確立されつつあるのです。
物流コストの課題とドミナント戦略
過疎地進出において最大の課題の一つが、やはり物流コストです。都市部では物流拠点が近く、配送効率が高い一方で、過疎地では広大なエリアに点在する数少ない店舗に商品を届ける必要があります。このため、輸送距離や配送回数が増え、コストがかさむのです。
そこで注目されるのが、複数店舗を集中的に出店する「ドミナント戦略」です。これは、特定の地域に複数店舗を設けることで、配送ルートを効率化し、一店舗あたりの物流コストを抑える方法です。先述のローソンが稚内市に3店舗同時開業したのも、この戦略の典型例といえるでしょう。ドミナント戦略は、物流コストの軽減だけでなく、地域住民への認知度向上や、地元企業との連携強化といったPR効果もあります。
ただし、ドミナント戦略は適切に計画しなければ、逆に同一チェーン内での顧客の奪い合いが生じるリスクも伴います。都市部で起こっているカニバリゼーションを地方でも繰り返さないためには、地域の人口動態や住民の買い物動向を正確に把握し、需要に見合った適切な店舗数を維持することが求められます。過疎地での出店は、単に店舗を増やすだけでは成り立たない複雑さがあるのです。
「陣取り合戦」の様相
このように、各コンビニチェーンは過疎地においても無計画に出店するわけではなく、特定地域に集中して複数店舗を展開することで、効率と地域密着を両立させようとしています。その結果として、過疎地における出店は今や一種の「陣取り合戦」ともいえる状況になっています。
一つのチェーンが特定の町やエリアに先んじて複数店舗を開設すれば、その地域における利便性やブランド認知は他社よりも優位に立つことができます。逆に後発のチェーンはシェアを獲得するのが難しくなるため、競争は一段と激しくなっていくでしょう。ただし、ドミナント戦略による陣取りは一歩間違えれば都心部と同様のカニバリゼーションを地方でも生む可能性があります。人口が少ない地域での共食いは経営リスクが大きく、十分な市場調査と地域ニーズの把握が欠かせません。
結果として、過疎地進出は各社の競争戦略において重要な一手であると同時に、持続可能性を維持するための緻密な経営判断が必要不可欠です。今後の「地方陣取り合戦」が地域経済にどのような影響を与えるか、注視していく必要があります。
まとめ
コンビニ各社が過疎地へ出店を増やす動きは、単に新規出店エリアの拡大に留まらず、地域住民の生活を支える社会的役割を果たす大きな意義があります。都心部の飽和と競争激化を背景に、地方の買物難民を支援しつつ、顧客単価の高さや多機能拠点化による集客力を活かして持続可能なビジネスモデルを模索しているのです。
一方で、物流コストという大きな課題を克服するために、ドミナント戦略を駆使して効率化を図りながら、地域内での存在感を高めていく動きは、ある意味で新たな「陣取り合戦」を生んでいます。都心のようなカニバリゼーションの再現を避けるためにも、地域特性に合わせた慎重な経営判断が求められるでしょう。
過疎地出店は、単なるビジネス拡大ではなく、地域社会に根ざした共生の形でもあります。これからもコンビニが地域住民の生活インフラとしてどのように進化し続けるのか、私たちも注目していきたいものです。
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