リスク移転・回避策の賢い構築法

リスクマネジメント

リスクの移転・回避策は様々な要素と複雑に絡み合っている

対応すべきリスクを特定した後、その移転や回避策を考える場合、存在する策を単純にそれだけ眺めて検討しがちです。
しかし、実際はそのような単純の話ではなく、この検討は非常に複雑になりがちです。たとえば、大手保険会社の提供する保険商品などは、当然、当該保険会社の顧問弁護士を通じてリーガルチェックがなされていると考えられるため、法的に問題ないものと考えてもよいかもしれませんが、新種の保険や、零細企業の提供する保険などは、その商品自体が、購入可能なものなのか、法的検討を要する場面もあります。
また、リスクマネジメントの本質的な目的は企業の維持・存続であるため、当該移転・回避策の採用により、新たな別のリスクを生じたり、風評被害を生じるようでは全く意味がありません。
リスクマネジメントの目標を達成できるか、様々な観点から検討すべきことは意外に多いのです。

損害保険加入の検討

想定される損害に対し、保険の対抗しようと考える場合、費用対効果の検証が不可欠です。
一般に、保険会社の提供する保険は「大数の法則」により、リスクの発現確率を算定し、当該確率で保険金を支払っても保険会社に利益が残るよう計算されています。すなわち、損害保険は確率上は、加入者が損をするようになっている商品です。
それでも損害保険に入るのは、損害発生時に保険が入っていない場合に、現金が大量に出ていくことに伴う資金繰りのショートに備えることが第一目的かと思います。そのため、想定される損害発生時のキャッシュアウトフローが、内部留保でカバーできるのであれば、保険に加入しないという選択肢も考えられるでしょう。

次に、資金繰りの延長として、当該保険料が損金算入されることも含めた損益管理も重要です。損害保険は基本、損金算入されますが、役員や従業員向けの損害保険などは、給与扱いとなり、この原則が若干変わる場合があります。そうした税制もふまえ、損害保険加入の前後でどのように損益が変わるかを算定し、その変化が経営判断に及ぼす影響を検討しておく必要があります。

さらに、保険会社が採用するリスク発現確率の検証をした方が良いでしょう。近時新しくあらわれた、コロナに伴う旅行キャンセル保険のような新商品は、十分な基礎データがないことから、実態と乖離した確率となっている可能性があります。保険会社が確率を低く見積もるのであれば、顧客には有利になり、高く見積もるのであれば顧客には割高な商品となる可能性があります。自社で基礎データを収集できるような場合、データサイエンスを活用して、自社なりの発現確率を算定することも重要です。

防護柵設置の検討

鉄道事業では、ホームからの利用客の転落等による列車遅延が大きな事業リスクであり、おそらくほとんどの鉄道会社の有価証券報告書で、その旨が記載されているはずです。
このホームからの転落というリスクの防止策として、ホームに防護柵を設置することが考えられます。
しかし、この防護柵、損害保険加入と異なり、初期費用で相当額の出費が発生し、その後も定期的なメンテナンスなど、ランニングコストも膨らみがちです。

そこで、まずは、損害保険のケースとして、防護柵の設置によるキャッシュフローと損益への影響度を分析します。防護柵は1つ設けるかどうかという判断ではなく、いくつ設けるかという判断になると考えられるため、例えば10個単位で複数の見積もりをしていくことになると考えられます。

防護柵の設置件数が定まると、次はどの駅にこれを設置するかの検討が必要です。直感的には利用客の多い順が思い浮かびますが、その他にも、

  • 通勤ピーク時の利用客数
  • ホームの幅
  • 駅周辺の飲食店の数
  • 終電間際の利用客数
  • 子どもの利用客数
  • 過去の自殺発生件数

といった数字も看過できません。ここも、様々なデータを収集したうえで、データサイエンスで、列車遅延リスクが高いと見込まれる駅から順に設置していくこととなるでしょう。

まとめ

以上のように、リスクの移転や回避策があるとしても、その採否は様々な要素を検討して慎重に行う必要があります。
当研究所では、弁護士・公認会計士・データサイエンティストが、こうした意思決定における、法務上・会計税務上・データ分析上のサポートをワンストップで行っております。下記よりお気軽にご相談ください。

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