SDGsの発明は意外に複雑で弁理士と揉めやすい
大企業の発明はある程度自動化されていますが、中小企業や個人が発明した場合、まずは弁理士を探して特許明細書を作成する必要があります。
最近ではSDGsやESGに積極的に取り組んでおられる方もおり、そうした方の発案を特許化する機会も増えてきました。しかし、実務家目線で、このSDGsなどの発案の特許化は色々と大変に感じます。普通に新しい機械の発明などであると、その分野の知識と文章作成能力があればなんとかなるのですが、SDGsなどの新しい分野では、当事者関係は発明者と弁理士だけでなく、複雑に様々なプレーヤーが登場して思惑が錯綜してしまうため、その交通整理が大変です。
そこで本稿では、SDGs関連の発明を特許化するにあたって問題になりがちなポイントを解説します。
発明は発明者のもので、弁理士が改変すべきではない
特許出願するためには発明がまずあります。この発明は、発明者が不断の努力で発見した新しい領域であり、誰もその内容について権利を有することはできません。
ただ、弁理士のもとに発明が持ち込まれた際、往々にしてそのままでは特許出願はできず、弁理士が特許化するために必要なポイントをいくつか示唆することが多いです。ここで、発明はあくまで発明者のものであるため、弁護士は発明内容の大幅な改良は求めるべきではなく、改善すべきポイントの示唆にとどめるのが一般的なマナーです。すなわち、発明の最終形は発明者自身が決めるべきだというルールは徹底すべきなのですが、だからこそ、発明者は弁理士の示唆の重要性に気が付かずに、「発明にならない」方向へ自身の発見を深化させてしまうこともよくあります。
SDGsでも同様の傾向があり、発明者がマイウェイを突き進むほど、特許化が難しくなることもあります。
SDGsの本質は個々人の行動変容を求めること
SDGs特許で難しいのは、その目的が個々人の行動変容を求めることにある点です。
特許の目的はそれまでの実務の中で社会にある課題を解決して、その課題で困っていた人を助けることです。これにより、その方は特許に対してお金を払おうと思ってくれます。
しかし、SDGsではここが複雑で、行動変容を促すべき個々人は特許にお金を支払う意思はありません。あくまで、便利であれば協力してあげても良い、というスタンスです。
ここで、行動変容の促進に力点を置くならば、個々人の課題解決が必要ですが、そこにお金は発生しません。他方でお金の発生源の課題解決に力点を置くのであれば、行動変容を促すべき個々人が置き去りになるというジレンマが生じがちで、なんとなく発明を作っていたらどっちつかずになり、作りこもうと思うとコンフリクトが生じるややこしい分野です。
お金を出すのは企業や自治体
SDGsにもいろいろありますが、ほとんどのケースは便益を受けるのが一般市民であるか、行動変容すべきなのが一般市民であり、そのためにお金を出すのは企業や自治体です。
企業がSDGsにお金を出すのは、これによりステークホルダーの信頼を勝ち取ることで、一般市民の満足度は関係ありません。
自治体がお金を出すのは地域の利益にどの程度つながるかに依り、やはり一般市民はあまり関係ありません。
こうして、SDGs発明の特許化は、中身がいくら良くても、誰にどのような便益を与えるものか、という特許の本質部分で意見が分かれやすく、発明者や弁理士でも混乱してしまいがちで、うまくまとめきればいケースが多いです。当然、うまくまとまっていない特許は費用だけかけて使えないため、丸損という最悪の結果にもつながりかねません。
その発明で誰にどうしてもらいたいか
こうした発明のジレンマは、ざっくりと分析すると2つの問題に帰着します。
・「自分がこれは良い」と思った内容に社会を従わせたい
・社会の行動変容を促すために相手目線で発明を改良したい
前者の発明の場合、本当に良い内容であれば、範囲はともかく特許はとれるでしょう。しかし、社会の意向を意識せずに作られた特許は使われにくいという実情があります。
後者の発明の場合、一般市民の行動変容は促せるかもしれません。そうすれば、その後のSDGsの発表における題材も豊富になりますが、残る大問題は、費用を誰が負担するの?という問題です。
こうして、SDGs発明は、特許化を意識過ぎると実用性が疎かになりがちで、成果を意識過ぎるとファイナンス面で大変苦労することになりがちです。そのため、この両極端な要素を考慮しながら、両方とも活かす内容に仕上げなければならないため、非常に難しい仕事になりがちです。
まとめ
SDGsやESGなどは今、世界中が注目している内容で、そこで新しい発明を生み出せると、一躍世界中の注目の的になれるかもしれません。しかし、こうした特許は一般的な特許と異なり、解決すべき課題を抱えている人と、出資者が異なり、その一方の意向に沿うだけではせっかくの発明が利用されないため、いかに両者の思惑を調整するかが大切で、非常に難しいポイントとなります。特許化が目標であれば、そう難しくないかもしれませんが、その後の特許活用を目指すのであれば、こうした難しい問題を解決する必要があり、時間をかけて丁寧に作りこむ必要があります。
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