5000円飲み放題つきの店は生き残れるか【公認会計士×中小企業診断士が解説】

事業再生

居酒屋の倒産が過去最高

東京商工リサーチの調査によれば、今年上半期の居酒屋の倒産件数は過去最高となりました。コロナ禍を乗り越え、客足が戻りつつあるにもかかわらず倒産が増えているという事実は、多くの人にとって意外に映るかもしれません。しかし、売上が回復することと利益が確保できることは全く別の問題です。来店客が増えても利益が残らなければ、経営を続けることはできません。

現在の居酒屋経営を圧迫している最大の要因は、原材料価格やエネルギー価格の高騰です。円安の影響も加わり、肉類、魚介類、野菜、調味料、酒類など幅広い食材の仕入価格が上昇しています。さらに電気代やガス代、人件費も上昇しており、店舗を営業するために必要なあらゆる費用が増加しています。

一方で、これらのコスト上昇分を販売価格へ十分に転嫁することは容易ではありません。外食は生活必需品ではなく、価格が上がれば利用頻度を減らす人も少なくありません。そのため、競争の激しい居酒屋業界では値上げに慎重にならざるを得ず、利益率だけが低下してしまう状況が続いています。

こうした状況の中で、特に大きな影響を受けているのが「飲み放題付き税込5000円」という宴会コースです。この価格帯は長年にわたり宴会市場の定番として定着してきました。会社の歓送迎会や忘年会、同窓会など、多くの幹事が安心して選べる価格帯であり、居酒屋側にとっても団体客を獲得する重要な商品となってきました。

しかし、現在では仕入価格や人件費が大きく上昇しているため、従来と同じ内容を税込5000円で提供し続けることは以前よりもはるかに難しくなっています。無理に価格を維持すれば利益が減少し、値上げをすれば集客力が落ちるという板挟みの状況に置かれている店舗も少なくありません。

宴会需要そのものが消えたわけではありませんが、「飲み放題付き税込5000円」という従来の定番価格が経営面でも維持可能なのかという問題は、多くの居酒屋に共通する重要な経営課題になっています。そこで本稿では、飲み放題付き税込5000円の店が今後も生き残ることができるのかについて考えていきます。

税込5000円は利用者目線で最もわかりやすい指標

宴会の幹事が店を探す際、多くの場合は最初に予算を決めます。その際の代表的な目安となるのが税込5000円です。この価格帯は長年にわたり利用者に浸透しており、「飲み放題付きで5000円程度」という条件で店を検索する人も少なくありません。

税込価格であることも重要です。税抜価格では最終的な支払額が分かりにくくなりますが、税込5000円であれば一人当たりの負担額が明確です。幹事にとっては参加者への案内もしやすく、会費の設定や集金も非常に簡単になります。この金額であれば計算がしやすく、参加者も会費を理解しやすいため、宴会全体の運営が円滑になります。この分かりやすさは、利用者にとって大きな魅力となっています。

また、利用者の心理としても、税込5000円という価格は高すぎず安すぎない絶妙な水準として受け止められています。宴会で料理と飲み放題を楽しむ費用として違和感が少なく、多くの人が納得しやすい価格帯です。

このような市場の認識がある以上、居酒屋側としては団体予約を獲得するために税込5000円の飲み放題コースを検討する価値は依然として高いといえます。価格だけで候補から外されてしまえば、料理やサービスを評価してもらう機会そのものを失う可能性があるからです。多くの利用者がまず最初に比較対象とする価格帯であることを踏まえると、この価格を意識した商品設計を行うことは営業戦略上重要な意味を持ちます。

団体予約は一定の売上を一度に確保できる反面、価格競争にも巻き込まれやすい分野です。その中で利用者が求める価格帯を理解した上で商品を構成することは、集客力を維持するための基本的な考え方になるでしょう。

品質が悪ければ逆効果

税込5000円という価格を維持するために最も避けなければならないのは、品質を大きく犠牲にすることです。価格だけを優先して満足度を下げてしまえば、一時的に集客できても長期的な経営にはつながりません。

現在では口コミサイトやSNSを通じて利用者の評価が短期間で広く共有されます。一度悪い評価が定着すると、新たな予約の獲得にも大きな影響を及ぼします。価格が安くても満足できない店という印象が広まれば、価格競争力そのものも失われてしまいます。

特に飲み放題では、飲み物の提供速度が重要になります。注文してもなかなか飲み物が届かない状態では、利用者は飲み放題であることに不満を抱きます。料理が良くてもサービス全体の印象が悪化し、宴会全体の満足度が低下する原因になります。

料理についても同様です。食材の品質が極端に低かったり、量があまりにも少なかったりすると、利用者は価格以上の不満を感じます。飲み放題が付いているからといって料理への期待がなくなるわけではなく、むしろ宴会全体のバランスとして評価されます。

さらに、メニュー構成に工夫が感じられない場合も満足度は下がります。同じような料理ばかりが並んだり、食べ応えに欠けたりすると、利用者はコスト削減だけを目的にした内容だと受け止めやすくなります。

重要なのは、税込5000円という価格を守ることではなく、その価格に見合う満足感を提供することです。利用者は価格そのものではなく、支払った金額に対して納得できる体験が得られたかどうかを評価しています。

したがって、利益を確保するためだけに品質を下げる発想では持続的な経営は難しくなります。価格設定と品質の均衡を維持しながら、利用者が満足できる内容を提供することが不可欠です。単純に5000円で利益が出るメニューを作ればよいという問題ではありません。

多様な飲み方への対応

飲み放題付き税込5000円といっても、利用者全員が同じ価値観で利用しているわけではありません。宴会に参加する人々の年齢や生活スタイル、飲酒習慣は年々多様化しており、それぞれが求める満足の内容も変化しています。

従来は飲み放題という言葉から「できるだけ多く飲みたい」という需要が中心と考えられていました。しかし現在では、お酒を大量に飲むことよりも、料理との相性や落ち着いた時間を重視する人も増えています。

比較的金銭的に余裕のある利用者は、お酒の量よりも品質を重視する傾向があります。料理との組み合わせを楽しめる飲み物や、食事全体の満足感を高める構成を期待することも少なくありません。そのため、単純に種類を増やしたり提供速度を上げるだけでは十分とはいえません。

また、健康志向の高まりやソバーキュリアスという考え方の広がりにより、お酒を積極的に飲まない人も増加しています。そのような利用者にとっては、ノンアルコール飲料やソフトドリンクの充実も重要な評価項目になります。

団体予約では、このような多様な利用者が同じテーブルを囲みます。一人一人の嗜好は異なっていても、全体として満足できる内容であれば高い評価につながります。

そのため、飲み物の提供方法やメニュー構成を工夫することで、必ずしも原価を大幅に増やさなくても利用者満足度を高める余地があります。飲酒量だけを基準に飲み放題を考える時代ではなく、多様な利用者の期待に応える発想が重要になっています。

飲み放題という仕組み自体は変わらなくても、その中身を時代に合わせて見直していくことで、費用対効果の高い商品設計を実現できる可能性があります。

付加価値を作りこむ

税込5000円という価格を維持すると、どうしても料理だけで他店との差別化を図ることが難しい場面があります。そのような場合には、料理以外の付加価値を高める発想が重要になります。

利用者が宴会で評価するのは料理だけではありません。店舗の雰囲気、接客の丁寧さ、料理や飲み物の提供タイミング、店内の清潔感なども総合的な満足度を左右します。これらは価格以上の価値を感じてもらうための重要な要素です。

特に団体予約では、幹事が「この店を選んでよかった」と感じられることが大切です。参加者全体の満足度が高ければ、次回の宴会でも同じ店舗が候補になりやすく、継続的な集客につながります。

また、価格競争だけに巻き込まれないためにも、自店ならではの魅力を育てることが必要です。利用者が価格だけで比較しない状況を作ることができれば、厳しい市場環境でも安定した営業が期待できます。

もっとも、あらゆる工夫を重ねても税込5000円では十分な利益を確保できない店舗もあるでしょう。その場合には、無理に価格を維持し続けることだけが正解ではありません。

団体予約は一度に大きな売上が期待できる反面、長時間テーブルを使用するため、予約前後の時間帯に新たな利用者を受け入れにくくなるという側面があります。その結果、一日全体で見た収益性が低下する可能性もあります

そのため、団体客を積極的に受け入れる戦略が本当に自店に適しているのか、一日単位、あるいは一週間単位で収益全体を見直す視点も重要です。宴会市場に参加すること自体を当然視するのではなく、自店の経営資源を最も効率的に活用できる営業形態を検討することも経営判断の一つといえるでしょう。

まとめ

飲み放題付き税込5000円の宴会コースは、長年にわたり利用者から支持されてきた定番商品です。しかし、物価高や人件費上昇が続く現在では、その価格を維持すること自体が大きな経営課題となっています。

だからといって、直ちに5000円のコースが市場から消えるとは限りません。利用者にとって分かりやすく利用しやすい価格帯であることは現在でも変わらず、宴会需要を取り込むための重要な商品であり続けています。

重要なのは、価格だけを守ることではなく、その価格に見合った価値を提供することです。料理や飲み物だけでなく、サービスや店舗全体の満足度を高めることで、価格以上の魅力を感じてもらうことが可能になります。

一方で、収益性を冷静に分析し、自店にとって最適な営業方針を選択することも欠かせません。市場の慣習だけに従うのではなく、利益を確保できる経営モデルを構築することこそが、今後の居酒屋経営ではますます重要になるでしょう。

当研究所では、収益性の観点を徹底的に追求したメニュー設計のお手伝いも行っております。下記よりお気軽にご相談ください。

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