知財管理は使途をふまえて微修正を繰り返す

知財戦略

知的財産権の価値は使途によって変わる

知的財産権を取得した際、その価値をできるだけ早く把握することが必要です。当該知的財産権に関する収支を計算する必要があり、究極的にはこれまで投じた全研究開発費等の費用と、すべての知的財産権の収益の収支がとれているかをチェックする必要がらうからです、

知的財産権の評価には、大きく以下の3つの手法があります。

  • コストアプローチ これまで権利取得に投じた金額を評価額とする
  • マーケットアプローチ 市場での売却価格を評価額とする
  • インカムアプローチ 知的財産権の行使による収益の総額を評価額とする

ここで、取得した知的財産権には使途がいくつかあります。例えば以下のようなケースです。

  • 自社使用する
  • 競合他社を牽制する
  • 他社にライセンスする
  • 他社に売却する
  • とりあえず休眠させる

こうした使途は、研究開発の時点で既に定まっているものもあれば、いつまでたっても確定しないものもあります。複雑に状況が変化する中では、ある時点で最善と思われた使途が、翌日は違う使途に変わっていたということも珍しくありません。そのため、知的財産権の使途は慎重に検討すべきですが、使途の確定が遅れると、評価額の確定も遅れてしまうことは意識しておく必要があります。

自社使用のケース

権利を自社使用するケースの場合、権利の存在によって収益が増えた部分があると思いますので、その部分を権利に基づく収益としてインカムアプローチを採用します。例えば、

  • 知的財産権があることにより付加価値が増し、価格を上乗せすることができた
  • 知的財産権があることにより競合他社からシェアを奪い、売上が増大した
  • 知的財産権を確保したことにより大規模製造投資に踏み切ることができ、コスト削減に成功した

といった数値を集計することになります。

他社にライセンスするケース

自社では使用する意義が小さく、他社にライセンスする場合、その主な収益はライセンス料収入ですので、将来にわたるライセンス料収入を現在価値に割り引いてその総額を知的財産権の評価額とすることが一般的です

ここで注意すべきは、ライセンス契約が何年継続するかという見積もりを誤ると金額に大きな齟齬が出るため、ここを慎重に見極めることと、自社が権利を保持することで、競合他社の牽制効果も期待しているのであれば、次項の算定方法も加味して、評価額を上乗せすることも柔軟に検討すべきということです。

競合他社を牽制する目的の場合

自社で権利を使用する予定はないが、競合他社に使用されると、自社商品のシェアが落ちてしまうため、念のため権利を押さえておく、というケースもよくあります。

この場合、積極的な収入はありません。しかし、権利がない場合と比べて、自社商品の売り上げに違いが生じる見込みがあるのであれば、権利があることで増大した部分の収入を、権利に基づく収入とみなしてインカムアプローチが採用できます

また、権利を有しない場合、競合他社から訴訟提起のリスクがあったり、競合他社が当該権利を取得して、当社が先使用の抗弁の対抗を余儀なくされるケースもあります。権利をあらかじめ保有することで、こうしたコスト発生を防止できるのであれば、この防止できたコストも、権利に基づく収入とみなすことができます。

とりあえず休眠させるケース

権利の使途が確定しない場合、とりあえず権利を休眠させることもあります。この場合、この時点では、コストアプローチにより、これまでに権利取得に要した費用を暫定的に評価額とします。

取得した知的財産権をすぐに売却することは稀ですので、マーケットアプローチはなかなか出番がありませんが、休眠特許を眠らせておくだけではもったいないため、本当に自社に使途がなければ、どこかのタイミングで他社に譲渡し、売却額と評価額との差額を利益とする決断も必要です。

休眠の末に、使途が定まれば、それぞれの使途に従った再評価が必要となります

まとめ

以上のように、知的財産権に関する収支管理は、使途の内容や、これが定まるタイミングによって異なり、使途が定まっても、ライセンス契約の期間や、権利の存在に起因するコストカットの実現可能性など、法的検討を要する部分もあります。

当研究所では、裁判所の公的な知財価値評価人も務める弁護士・弁理士・公認会計士がこうした知財戦略や知財価値評価、収支管理をワンストップで対応いたします。下記よりお気軽にご相談ください。

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました