BCPのために事業活動には余裕を持たせよ【公認会計士×MBAが解説】

リスクマネジメント

事業を継続するために必要な余裕の確保

企業経営では、収益性や効率性を重視する考え方が広く浸透しています。限られた経営資源を有効活用し、できるだけ少ない人員や設備で大きな成果を生み出すことは、競争が激しい現代において重要な経営課題です。そのため、多くの企業では固定費を削減し、無駄をなくすことを目的として組織のスリム化を進めています。利益率を高めるという観点から見れば、このようなコンパクト経営には十分な合理性があります。

また、経営指標においても、売上高だけではなく利益率や労働生産性、資産効率などが重視される傾向があります。これらの数値を改善するためには、余剰となる人員や設備をできるだけ抱えないことが望ましいと考えられています。その結果、多くの企業では必要最小限の体制を目指すことが当然のようになっています。

しかし、事業活動は常に平常時だけを前提として進むものではありません。社会情勢の変化や自然災害、感染症の流行、設備の故障、取引先のトラブルなど、企業活動には様々な不測の事態が発生する可能性があります。そのような状況では、普段は効率的に見えていた体制が、かえって事業継続の妨げになることがあります。

企業に求められるのは、平常時だけを見据えた経営ではなく、有事にも事業を維持できる経営です。近年はBCP(事業継続計画)の重要性が広く認識されるようになりましたが、その本質は非常時の対応手順を整備することだけではありません。そもそも非常時に対応できるだけの経営資源を日頃から確保しておくことが不可欠です。対応能力が存在しない状態では、どれほど優れた計画を作成しても十分に機能しません。

もちろん、余裕を持たせれば短期的には利益率がやや低下することもあります。しかし、その余裕は単なる無駄ではなく、事業を止めないための重要な保険でもあります。短期的な効率だけを追求するのではなく、長期的な事業継続という視点から経営資源の配分を考えることが重要です。企業が社会的責任を果たし、顧客や取引先からの信頼を維持し続けるためにも、一定の余裕を持った経営体制は欠かすことができません。

そこで本稿では、事業継続のために、多少収益性を悪化させてでも余裕を持たせることの重要性を解説します。

従業員を最小限に抑えることのリスク

企業にとって人件費は固定費の中でも大きな割合を占めることが多く、経営改善を図る際には真っ先に見直しの対象となります。利益率を高めるためには、人員を必要最小限に抑え、できるだけ少人数で業務を回すことが理想であると考えられています。実際に、業務の効率化やデジタル化の進展により、以前より少ない人数で同じ仕事をこなせる場面も増えています。そのため、人員削減は合理的な経営判断として受け止められることが少なくありません。

しかし、仕事の量は企業が自由に調整できるものばかりではありません。受注状況や顧客対応、行政手続、突発的な問い合わせなどは予測どおりに推移するとは限らず、短期間で業務量が大きく変動することもあります。そのような状況において、人員が常に限界まで絞られていると、わずかな業務の増加でも現場は容易に対応能力を超えてしまいます。

また、従業員が常に余裕なく働いている職場では、精神的な負担も蓄積しやすくなります。疲労やストレスが慢性化すれば、集中力や判断力が低下し、業務品質にも影響が及びます。効率を高めるために人員を減らした結果として、生産性そのものが低下するのであれば、本来期待していた経営効果は十分に得られません。

さらに、BCPの観点から見れば、人員に余裕がないことは大きな弱点となります。誰か一人でも急に勤務できなくなった場合、その業務を引き継ぐ人材が存在しなければ、業務全体が停止する可能性があります。また、複数の業務を特定の担当者だけが抱えている状態では、その担当者が不在になった瞬間に企業機能が著しく低下する危険があります。

事業継続を考えるのであれば、人員は単純な人数だけで評価すべきではありません。重要なのは、急な欠員や業務量の増加が生じても、組織全体として対応できる余力を備えているかどうかです。通常時には多少余裕があるように見える配置であっても、有事にはその余裕が企業全体を支える重要な経営資源となります。

人件費だけを見て最小人数を追求することは、事業継続という観点では必ずしも合理的とはいえません。企業は利益を生み出すことが目的ですが、その利益は事業が継続して初めて実現できるものです。短期的なコスト削減だけに目を向けるのではなく、継続的な経営を支えるための人的余力を確保することが、結果として企業価値の維持にもつながります

設備を最小限に抑えることのリスク

設備投資についても、人件費と同様にできるだけ抑えたいと考える企業は少なくありません。設備には多額の導入費用だけでなく、維持管理費や更新費用も発生するため、必要最小限にとどめることが経営効率の向上につながると考えられています。設備の稼働率を高め、遊休設備を持たないことは、資産効率を改善するうえで重要な考え方でもあります。

しかし、設備は常に正常に稼働し続けることを前提にすることはできません。どれほど適切に保守管理を行っていても、経年劣化や部品の不具合などによって突然停止する可能性があります。また、外部要因によって設備が利用できなくなることもあり、完全に故障リスクを排除することは現実的ではありません。

設備を極限まで減らしている企業では、一台の設備が停止しただけでも業務全体に大きな影響が及びます。本来であれば稼働できる従業員がいても、必要な設備が動かなければ仕事を進めることはできません。その結果、人件費だけが発生し、生産活動は停止したままとなります。設備停止の影響は設備そのものにとどまらず、企業全体へと波及していくことになります。

また、設備の復旧には時間がかかる場合があります。修理や部品調達がすぐに行えるとは限らず、その間は事業活動が制限され続ける可能性があります。設備を一台しか保有していない場合には、その設備が復旧するまで業務を再開できないという事態も十分に想定されます。このような状況は、BCPの観点から見れば大きな経営リスクといえます。

そのため、設備は「壊れたら修理すればよい」という発想だけでは不十分です。重要なのは、設備が停止したとしても事業全体が止まらない体制を整えておくことです。多少設備投資が増えたとしても、事業継続に必要な余裕を確保しておくことは、企業経営の安定性を高める重要な投資になります。

設備の稼働率だけを重視すると、余裕を持たせた設備は非効率に見えるかもしれません。しかし、その余裕は平常時のためではなく、有事に事業を継続するための備えです。設備を経営効率だけで評価するのではなく、企業の継続性を支える基盤として捉えることが、これからのBCPを重視する経営には不可欠といえるでしょう。

データは必ずバックアップせよ

現代の企業経営では、業種や企業規模を問わず、データは極めて重要な経営資産となっています。顧客情報や契約書、会計データ、設計資料、業務マニュアル、営業記録など、多くの情報が電子データとして管理されており、日常業務はこれらのデータを前提として成り立っています。以前のように紙媒体だけで事業を運営する企業は少なくなり、データにアクセスできること自体が事業継続の前提条件となっています。

しかし、データは無形資産であるため、その重要性が見えにくいという特徴があります。設備であれば故障や劣化が目に見えますが、データは普段問題なく利用できていると、その価値や危険性を意識する機会は多くありません。その結果、十分な保護対策を講じないまま業務を続けてしまう企業も少なくありません。

ところが、データには様々なリスクがあります。サイバー攻撃によってデータにアクセスできなくなる場合もあれば、保存装置の故障や操作ミスによって重要な情報が失われる可能性もあります。また、停電や機器の障害などによって、一時的にデータが利用できなくなるだけでも業務は大きく停滞します。データが失われなくても、必要なときに利用できないだけで企業活動には深刻な影響が生じます。

このような事態を防ぐためには、データのバックアップを確実に実施することが不可欠です。バックアップは単なる情報の複製ではなく、事業継続を支える重要な安全対策です。万が一、元のデータが利用できなくなったとしても、バックアップがあれば業務を比較的早期に再開できる可能性が高まります。BCPの観点から見ても、バックアップ体制の整備は欠かすことのできない基本事項です。

また、バックアップは担当者の負担を増やさない仕組みにすることも重要です。そのため、従業員が通常業務を終え、データへのアクセスが少なくなる深夜などの時間帯に、自動的にバックアップを実施する仕組みを導入することが望ましいといえます。自動化することで人的負担を軽減しながら、継続的かつ安定したバックアップ体制を維持できます。

データは一度失われると、設備のように修理して元に戻せるものではありません。だからこそ、日頃から確実なバックアップを実施し、万一の事態でも事業を止めない体制を構築することが、現代企業に求められる重要な経営判断といえるでしょう。

ネットやシステムは保守まで含めた外注を検討

現在の企業活動では、インターネットや各種システムの活用は欠かすことができません。業務管理、会計処理、受発注、情報共有、顧客管理など、多くの業務がネットワークやコンピュータシステムによって支えられています。そのため、ネットやシステムが正常に稼働していることは、事業継続の重要な前提条件となっています。

しかし、ネットワークやシステムは決して常に安定して動き続けるものではありません。通信障害や機器の故障、ソフトウェアの不具合、更新作業に伴うトラブルなどによって、突然利用できなくなることがあります。また、近年はサイバー攻撃の高度化によって、外部からの攻撃によりシステム障害が発生する危険性も以前より高まっています。このような障害は、企業の努力だけで完全に防ぐことが難しい面もあります。

問題は、こうしたトラブルが発生した際の対応です。社内にITに精通した担当者がいれば一定の対応は期待できますが、そのような人材を十分に確保できている企業ばかりではありません。操作マニュアルが整備されていたとしても、実際の障害対応では状況を正確に判断し、原因を特定し、適切な復旧作業を行うことが求められます。専門知識がない状態では、かえって状況を悪化させてしまうおそれもあります。

そのため、社内に十分なIT人材がいないのであれば、ネットワークやシステムについては保守まで含めた外部委託を積極的に検討すべきです。単にシステムを導入するだけではなく、障害発生時に迅速な対応を受けられる体制を契約の中に組み込んでおくことが重要です。平常時には保守サービスの必要性を感じにくいかもしれませんが、有事にはその価値が大きく表れます。システム停止による営業機会の喪失や業務停止、信用低下などを考えれば、迅速な復旧体制を確保することによる利益は決して小さくありません。保守費用は単なる経費ではなく、事業継続を支えるための必要な投資として考えるべきです。

ネットやシステムは、導入した時点で終わるものではありません。安定して利用し続けるためには、継続的な点検や更新、障害対応まで含めた体制整備が必要です。BCPを実効性あるものとするためには、技術的な問題が発生しても迅速に復旧できる仕組みを平常時から準備しておくことが重要なのです。

まとめ

BCPを考える際には、災害時の避難方法や緊急時の対応手順だけに目を向けがちですが、それだけでは十分とはいえません。真に重要なのは、平常時から事業を止めないための経営体制を構築しておくことです。どれほど優れた計画を策定しても、それを実行できる人員や設備、情報管理体制が備わっていなければ、計画は実際には機能しません。

近年は収益性や効率性が重視されるあまり、人員や設備を極限まで削減する経営が評価される傾向があります。しかし、そのような体制は平常時には高い利益率を実現できても、有事には非常に脆弱となる危険があります。BCPの本来の目的は、利益率を最大化することではなく、企業活動を継続することにあります。そのためには、多少のコスト増加を受け入れてでも、一定の余裕を持たせた経営が必要になります。

また、現代ではデータやネットワークといった無形の経営資源も事業継続の生命線となっています。バックアップや保守体制を整えることは、利益を直接生み出す活動ではないかもしれませんが、企業が継続的に活動するためには欠かすことができません。これらを単なるコストと考えるのではなく、企業を守るための重要な投資として位置付けることが重要です。

経営において余裕は無駄ではありません。非常時に企業を支える力となり、取引先や従業員からの信頼を維持する基盤となります。BCPを実効性あるものにするためには、平常時の効率だけではなく、有事への備えという視点を常に持ち続けることが求められます

当研究所では、技術発展の中でいかに効率的に持続可能な組織体制を構築するかについて支援を行っております。下記よりお気軽にご相談ください。

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