御社の商品の5年後の価格は見えていますか?【公認会計士×MBAが解説】

事業再生

物価高+人手不足がほぼ全業界における倒産要因に

近年の経済環境を振り返ると、ほとんどの業界に共通する深刻な課題が「物価高」と「人手不足」です。仕入価格の高騰は企業努力だけでは抑えられず、原材料や物流コストが上昇することで粗利益は圧迫され続けています。これまでのように仕入先との交渉や効率化だけで吸収できる範囲は限られており、商品やサービスを提供する企業の体力をじわじわと削いでいます。
さらに人手不足も大きな壁です。求人を出しても応募が集まらず、既存社員の残業でカバーせざるを得ない状況が続くと、労務負担は増大し、働く人の離職率も高まります。仕事はあるのに人手が足りず処理できないという事態が増加し、結果として売上やサービス提供力に直結する深刻な経営リスクとなっています。
このような背景から、本来であれば企業は商品価格を値上げし、同時に従業員の賃金も上げてモチベーションや定着率を高める必要があります。しかし現実には、値上げに踏み切れずに市場競争の中で立ち行かなくなる企業が増えています。特に中小企業にとって、価格転嫁が難しい構造的な問題が重くのしかかっています。
つまり、物価高と人手不足という二重の要因は、業種を問わず多くの企業の倒産リスクを押し上げています。いまや「どのように耐えるか」ではなく「どのように価格戦略を設計するか」が問われる段階に来ています。そこで本稿では、中長期的な目線で、自社商品の価格をどこまで上げなければならないのかを冷静に見極める重要性を解説していきます。

物価高+人手不足の傾向は続くと想定される

一部の経営者や現場担当者は、「物価高や人手不足は一時的なものだから、いまを乗り切れば改善する」と考えることがあります。しかしながら、現実的にはこの傾向はそう簡単に解消されるものではありません。国際的なエネルギー需要の変動、為替相場の不安定さ、世界的な物流網の混乱など、外部要因は短期的に落ち着いたとしても再び繰り返される可能性があります。
また、人手不足についても構造的な問題です。日本では少子高齢化が急速に進行しており、労働人口そのものが減少しています。新しい労働力の供給が追いつかない以上、慢性的な人手不足は中長期的に続くと考えられます。移民労働や自動化技術の導入が進むとしても、その効果が十分に出るまでには時間がかかるのが実情です。
このように、物価高と人手不足は一時的なショックではなく、ある程度の期間持続する「時代の前提条件」と捉える必要があります。だからこそ、「いまは値上げせずに我慢すれば良い」という戦略には持続可能性がありません。むしろ、どこかの段階で必ず値上げに踏み切ることが前提となります。
問題は「値上げのタイミング」と「その準備をどう進めるか」です。市場環境に押されて追い込まれるように値上げするのではなく、自社の計画に基づいて合理的に実行する姿勢がなければ、企業体力を削り続け、最後には経営を立て直す余力すらなくなる危険性があります。経営者が冷静に現実を直視し、先を見据えて戦略設計を行うことが強く求められています。

5年後の自社商品の価格を想定しよう

物価高と人手不足が中長期的に続く以上、企業は「近い将来、何度かに分けて小刻みに値上げせざるを得ない」という前提を受け入れなければなりません。では具体的に、5年後の自社商品の価格はいくらになっているべきでしょうか。
これは単なる想像ではなく、戦略的なシミュレーションとして考える価値があります。現在のコスト増加率や賃上げの必要幅を勘案すれば、現時点で市場が受け入れてくれる価格よりもはるかに高い水準を、将来的には設定せざるを得ないかもしれません。その「未来の価格」に対して、経営者はまず覚悟を持つことが不可欠です。
たとえば現在1000円で販売している商品が、5年後には1200円、あるいは1500円でなければ採算が取れないと予測されるケースは十分にあり得ます。現状でその価格では「売れない」と思われるかもしれませんが、未来においてはそれが最低限の存続ラインである可能性があります。
このとき、重要なのは「市場がその価格を受け入れるかどうか」を冷静に見極めることです。もしどう考えても消費者が受け入れられない水準に達するのであれば、その商品を中長期的に扱い続けること自体が難しくなります。つまり、5年後を想定することで、撤退や事業転換の判断も含めた現実的な戦略を描くことができます
価格の未来像を具体的に想定することは、不確実な時代を生き抜くための指針となります。これは単に「値上げを考える」というレベルを超え、「自社の商品が5年後も生き残れるかどうか」を判断する核心に直結しています。

5年後の価格に向けて付加価値を作りこむ

もし5年後には今よりも大幅に値上げせざるを得ないのであれば、その価格に見合う付加価値を提供できるよう準備を進める必要があります。単に「高くなったから仕方なく買ってください」では顧客の納得は得られません。消費者が喜んでその価格を支払うだけの理由を作りこむことが欠かせません。
サービスを提供する企業であれば、サービス品質の向上が最も直接的な付加価値となります。接客態度の改善、スピード感のある対応、カスタマイズ性の高い提案など、顧客が「この価格なら納得できる」と思える要素を積み重ねることが重要です
一方、商品の販売においては付加価値を生み出すのは容易ではありません。しかし、工夫の余地はあります。商品のストーリー性を強調して「買う理由」を訴求したり、他社とのコラボによって新しい魅力を作り出す方法があります。デザイン刷新や限定企画も効果的であり、消費者の心理に響く工夫が求められます。
付加価値の作りこみは一朝一夕でできるものではなく、時間をかけて磨き上げる必要があります。したがって、5年後の価格を見据えるのであれば、今から少しずつ取り組むべきです。将来の値上げは避けられなくても、その値上げをポジティブに受け止めてもらう準備をしておくことで、顧客の離反を防ぎ、むしろブランド力を高めるチャンスに変えることができます。

回避できない値上げを計画的に行う

現代において値上げはもはや避けられない現実ですが、それをどのように行うかで企業の命運は大きく変わります。行き当たりばったりで追い込まれてから値上げするのではなく、計画的に実施することが極めて重要です。
まず短期的な値上げについては、売上が落ち込みやすい時期に合わせて行う方法があります。その際には広告や販促キャンペーンを組み合わせ、値上げによるマイナスを補う工夫が有効です。また、他の商品群やサービスの販売強化で一時的な減収を緩和することも可能です。
中長期的には、やはり価格に見合った商品価値を作り込むことが不可欠です。顧客が納得して支払える価格であると同時に、企業が持続的に利益を確保できるラインを見極める必要があります。そのためには、コスト構造や顧客満足度を常に検証しながら、複数年単位で値上げ計画を立てるべきです
計画的な値上げは、単なる価格改定ではなく「企業を存続させるための投資」とも言えます。追いつめられて「やむなく値上げ」する状況に陥れば、顧客の信頼を損ない、売上が急落するリスクがあります。しかし、段階的かつ戦略的に行えば、企業は倒産を回避し、長期的な安定経営を実現できます。
結局のところ、値上げは悪ではなく「企業の持続可能性を確保するための手段」です。計画的に実行できる企業だけが、5年後も競争力を保ち、顧客に選ばれ続ける存在となります。

まとめ

本稿では、物価高と人手不足という現代的な経営課題を背景に、企業がどのように価格戦略を描くべきかを考察しました。仕入価格の上昇や労働力不足は一過性ではなく、少なくとも中長期的に続く傾向であり、「我慢してやり過ごす」戦略には限界があります。
だからこそ、自社商品の5年後の価格を冷静に想定することが不可欠です。その価格が現状では売れない水準であっても、将来的には避けて通れない現実かもしれません。もし市場がその価格を受け入れられないのであれば、撤退や事業転換を含めた判断が必要になります。
しかし、悲観する必要はありません。付加価値を積み上げ、顧客に納得してもらえる理由を作り上げることで、値上げは単なる負担ではなくブランド力強化の機会となります。そして値上げを計画的に進めることで、倒産リスクを避け、持続可能な経営を実現することができるのです。
結論として、経営者がいま問われているのは「5年後の自社商品の価格を見据えているかどうか」です。その未来像を明確に描き、逆算して準備を進める企業こそが、不確実な時代を生き抜いていけるでしょう。
当研究所では人財を守りながら段階的に値上げしていくための戦略設計を具体的な数値ベースでサポートいたします。下記よりお気軽にご相談ください。

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました