103万円の壁が緩和されたら、どのような人事戦略が考えられるか

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「103万円の壁」の緩和が検討中

所得税法等において様々な壁があると言われていますが、一番有名なのは103万円の壁です。例えば夫の扶養に入っている妻が働く際、年間103万円までであれば、給与所得控除と、所得税の個人の控除額を合わせて、収入から103万円まで控除することができ、税金を納めずに済む(すなわち、働いた対価のすべてを得ることができる)という壁があります。
年間103万円というと、1月8万円ちょっと。ベースも上がっている中で中途半端な数字です。そこで、法律改正でこの金額をアップ、すなわち非課税の範囲を拡大することが検討されています
現時点でその成否は不明ですが、本稿では、仮にこの法改正が成立した場合、どのような人事戦略が考えられるかを説明します。

パート従業員に長く働いてもらえる

上記の通り、103万円の壁は月8万円ちょっとで、時給1100円とすると、月に70時間ちょっとしか働けないことになります。
パート従業員の一番の主力は、小学生の子どもを抱える母親で、働こうと思えば9時から15時くらいまで、休憩を抜いて1日5時間は働けます。まだまだ若いこの層は、コミュニケーション能力も責任感も高く、体力的にも平日すべて働ける人も多いのですが、この壁が理由で勤務時間を意図的に減らしていた面もあります。
これが、壁が緩和されれば勤務時間を増やすことができ、人手不足を解消できます

賃上げできる

パート従業員が貴重な戦力であることから長く働いてもらいたいために、パートの時給を上げられない、という企業も多いです。
しかし、組織への貢献度が高いにも関わらず賃上げされないと、働く側は不満であり、ちょっとした正社員や顧客との間のいざこざで辞めてしまう可能性が高まります。
103万円の壁が緩和されると、賃上げを実行しやすくなり、賃上げするとパート従業員の定着率もよくなって組織の活性化につながります

優秀な人材に活躍してもらえる社会

本稿ではパートを題材にしましたが、訳ありで長時間働けなくとも、優秀な人材は長く働いてもらう方が社会には有益です。人手不足が深刻化する社会では、求められた仕事をこなせる人材は老若男女問わず引く手あまたで、この制度改正は、訳ありで長時間働けないけれども貢献度の高い人材が少しでも長く働けるようサポートすることに主眼があります。

労働生産性が改善されれば法人税が増える

この改正のネックは、所得税・住民税の非課税範囲を増やすことによる税収減少です。その影響は数兆円とも試算されています。しかし、優秀な人材が長く働けば企業の生産性が改善され、法人税の増収が期待されます。最終的にこの改正の成否や新しい線引きラインは、所得税・住民税の減少と法人税の増収のバランスにあると言えそうです。

まとめ

子育て世代の母親が働ける時間が増えれば非常に大きな戦力になります。103万円の壁は決してこの層だけを対象とするものではありませんが、優秀なのに長時間働けない方の賃上げをして長く働いてもらうことは双方にウィンウィンになるでしょう。
当研究所では、人事戦略の知見豊富な弁護士・MBAが御社の人事戦略全般をサポートします。下記よりお気軽にご相談ください。

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