離婚代行業は成立するか【弁護士×CFPが解説】

離婚

退職代行業者の活用が普及

近年、退職代行業者を利用して会社を辞める人が急速に増えています。以前は、退職するのであれば自ら上司に申し出て、引継ぎを行い、退職日を調整するという流れが当然と考えられていました。しかし、現在では「会社と一切やり取りをしたくない」「退職を申し出る精神的な負担が大きい」「引き留められることを避けたい」といった理由から、第三者を介して退職の意思を伝えるという選択肢が広く認知されるようになりました。

退職代行サービスが支持される背景には、退職という行為そのものよりも、退職を伝える過程に強いストレスを感じる人が少なくないという事情があります。退職の意思は固まっているにもかかわらず、それを会社へ伝えることができずに退職時期を先延ばしにしてしまう人も珍しくありません。そのような人にとって、第三者が退職意思を伝えてくれるサービスは、大きな心理的負担を軽減する役割を果たしています。

もっとも、退職代行業者であれば何でもできるわけではありません。一般の退職代行業者は弁護士ではないため、退職条件を巡る交渉や未払い残業代の請求、有給休暇取得の交渉など、法律上の権利義務に関する交渉を行うことはできません。あくまで本人の意思を伝達することが基本的な役割であり、会社側と条件交渉を始めた時点で、弁護士法との関係が問題となる可能性があります。

このような「意思を伝えるだけ」という役割に着目すると、離婚にも似た側面があるように思われます。離婚においても、夫婦関係を終了したいという意思は固まっているものの、その意思を相手に直接伝えることに強い抵抗を感じる人は少なくありません。感情的な対立を避けたい、顔を合わせたくない、話し合うこと自体が苦痛であるという事情は、退職場面と共通する部分があります。

もちろん、離婚は退職よりも法律関係が複雑であり、財産分与や親権など様々な問題を伴うことが多いため、単純に同列に論じることはできません。しかし、離婚案件の中には、複雑な交渉を必要としないケースも一定数存在します。そのような場合に、離婚意思だけを第三者が伝えるサービスに社会的な需要が存在するのか、また法的に成立し得るのかは、十分に検討する価値のあるテーマではないでしょうか

そこで本稿では、離婚代行業が成立するかどうか検討します。

離婚を伝えることが億劫な夫婦は多い

離婚事件と聞くと、夫婦が激しく対立し、長期間にわたって交渉や裁判を繰り返す場面を想像する人が多いかもしれません。実際、不倫が原因となっている案件や、DVやモラルハラスメントが問題となっている案件では、責任の所在や慰謝料などについて法的な交渉が不可欠となります。このような案件では、法律上の権利義務に関する交渉を行う必要があるため、弁護士以外が対応することはできません。

一方で、すべての離婚案件がそのような複雑な紛争であるわけではありません。実際には、既に夫婦が別居しており、お互いに婚姻関係を継続する意思もなく、あとは正式に離婚するだけという状態になっている夫婦も少なくありません。子どもがおらず、共有財産もほとんどなく、法律上の争点がほぼ存在しないケースでは、残された課題は離婚意思を伝えることだけという場合もあります。

ところが、その最後の一歩が意外に難しいことがあります。長年生活を共にした相手に改めて離婚を切り出すことに精神的な負担を感じたり、余計な口論になることを避けたいと考えたりする人は決して少なくありません。双方とも離婚を覚悟しているにもかかわらず、「誰か代わりに伝えてくれればよいのに」と感じる場面は十分に考えられます。

このような場面であれば、第三者が単純に「依頼者は離婚を希望しています」という意思を伝えるだけの役割を担うことには、一定の需要があるようにも思われます。ここで重要なのは、あくまで意思を伝達するだけであり、条件交渉には立ち入らないという点です。離婚届をいつ提出するか、財産をどう分けるか、慰謝料をどうするかといった話し合いには関与せず、本人の意思を相手に届けることだけを業務内容とするのであれば、法律上の問題は比較的小さくなる可能性があります。

もちろん、現実には相手方から様々な質問や条件提示がなされることも十分考えられます。その際に代行業者が返答したり調整を始めたりすれば、交渉行為と評価される余地が生じます。そのため、業務範囲を厳格に限定し、単なる伝達行為に徹することが前提となるでしょう。

離婚代行業という名称だけを見ると、弁護士業務との境界が曖昧に思われます。しかし、法律上の交渉を一切行わず、本人の離婚意思を伝えることだけを業務内容とするのであれば、事業として成立する可能性は決して否定できないように思われます。

親権・養育費・面接交流・慰謝料

もっとも、離婚案件の大半は、単に離婚意思を伝えるだけで終わるものではありません。特に子どもがいる家庭では、親権をどちらが取得するのか、養育費をどの程度支払うのか、面接交流をどのような頻度で実施するのかといった重要事項を決めなければ離婚は成立しません。これらはいずれも法律上の権利義務に関わる事項であり、双方の利害が真正面から対立する場面でもあります。

また、離婚原因が一方にある場合には、慰謝料の問題も生じます。不貞行為や悪意の遺棄などが問題となる場合には、責任の有無や慰謝料額について協議しなければならず、単純な意思伝達だけでは到底解決できません。財産分与についても、対象財産の範囲や評価方法について双方の認識が一致しないことは珍しくなく、交渉が必要となるケースが多く存在します。

このような場面で代行業者が依頼者の代わりに相手方と条件調整を行えば、それは法律上の交渉に当たる可能性が高くなります。一般の代行業者にはそのような権限は認められておらず、対応できるのは弁護士だけです。その意味では、離婚代行業が活動できる場面はかなり限定されると言わざるを得ません。

もっとも、すべての事項が高度な交渉を必要とするとは限りません。例えば養育費については、現在では算定表など一定の基準が広く利用されており、収入状況から概ねの金額を導きやすくなっています。また、面接交流についても、一定の標準的な取り決め方が蓄積されています。そのため、双方があらかじめ定型的な内容を受け入れる意思を有しているのであれば、個別の交渉をほとんど行わずに合意へ至る余地も考えられます

もちろん、そのような場合であっても、どの内容を選択するかは本人の判断でなければなりません。代行業者が依頼者に代わって条件を決定したり、相手方との間で妥協案を提示したりすることは許されません。しかし、交渉そのものを避けながら定型的な処理を支援する仕組みを工夫する余地は残されているようにも思われます。

したがって、離婚代行業が成立するとしても、その対象となる案件は極めて限定され、法律上の交渉を伴う場面では弁護士による対応が不可欠であるという基本的な構図は変わらないでしょう。

付加価値をつける

離婚事件を取り扱っていると、「相手に離婚したいと伝えてほしい」という相談を受けることは決して珍しくありません。依頼者としては、直接連絡を取ること自体が精神的な負担となっており、まずはその役割だけでも誰かに担ってほしいという思いがあります。その気持ちは十分に理解できますし、専門家が間に入ることで安心感が生まれることも事実です。

もっとも、私自身は、単に離婚意思を代わりに伝えるだけでは、弁護士報酬をいただくに値する仕事とは考えていません。もちろん、正式な代理人として通知を行うこと自体に意味はありますが、それだけでは依頼者に提供できる価値が限定的だからです。専門家として対価をいただく以上、依頼者が自分一人では得られない利益や安心を提供することが重要であると考えています。

そのため、私は離婚案件を受任する際には、法律問題だけを見るのではなく、その後の人生設計まで視野に入れて対応するよう心掛けています。例えば、FPとしての知見を活かし、離婚後の収支バランスをどのように考えるべきか、住居費や教育費をどのように見込むべきか、将来必要となる資金をどのように準備していくべきかといった観点からも助言を行っています。離婚が成立することだけを目標とするのではなく、その後の生活が安定することまで支援する姿勢が重要だと考えています。

このように考えると、仮に離婚代行業というサービスが存在するとしても、「離婚したいという意思を伝える」という一点だけでは、長期的に高い評価を得ることは容易ではないでしょう。利用者が本当に求めているものは、単なる伝言役ではなく、自分の人生を前向きに再出発させるための支援です。だからこそ、専門家であれば専門知識を生かし、代弁という機能を超えた付加価値を提供して初めて、その報酬に見合うサービスになるのではないかと考えています。

お金の話は自分で判断して決める

離婚代行業について検討すると、その活用場面はかなり限定されることが分かります。特に子どものいる家庭では、親権、養育費、面接交流など、必ず話し合わなければならない事項が存在します。これらは夫婦の今後だけではなく、子どもの将来にも大きな影響を及ぼす重要事項であり、単なる意思伝達だけで済ませることはできません。

さらに、財産分与や慰謝料、年金分割など、お金に関する問題も離婚では避けて通れません。金額の大小にかかわらず、どのような条件で合意するかによって、その後の生活は大きく変わります。こうした事項について第三者が代わりに判断したり、依頼者の代理として交渉したりすることは、一般の代行業者には認められていません。

したがって、離婚代行業者が活躍できるとしても、それは離婚意思を相手に伝えるという極めて限定的な役割にとどまるでしょう。一方で、お金に関する話し合いは、最終的には本人自身が判断しなければならない問題です。相手方から提示された条件を受け入れるのか、それとも別の条件を求めるのかは、自分自身の人生設計と価値観に基づいて決める必要があります。

もちろん、その判断をするために専門家の助言を受けることは非常に有益です。しかし、助言を受けることと、判断そのものを他人に委ねることは全く異なります。離婚後の生活を送るのは本人であり、その結果を引き受けるのも本人だからです。だからこそ、お金の問題については十分な情報を集め、自ら納得した上で結論を出すことが重要になります。

この点から弁護士選びを考えると、単に「相手と連絡を取ってくれる人」という観点ではなく、「適切なお金の交渉を行ってくれる人」という観点を重視することが望ましいといえます。離婚意思を伝えることだけであれば、その役割自体は比較的限定的です。しかし、財産分与や慰謝料、養育費などについて依頼者の利益を適切に実現することは、高度な法律知識と交渉力を必要とします。

そのため、離婚事件を依頼する際には、連絡役としての機能ではなく、依頼者が不利益を受けないよう法的な交渉を行い、適切な条件で離婚を成立させる能力に着目して専門家を選ぶことが重要です。その視点で考えれば、離婚代行業と弁護士業務は競合するものではなく、それぞれ担う役割が大きく異なるものとして整理できるでしょう。

まとめ

退職代行サービスが広く利用されるようになった現在、離婚についても同じような代行サービスが成立するのではないかという発想は、決して不自然なものではありません。実際、離婚意思を相手に伝えること自体に大きな精神的負担を感じる人は少なくなく、その役割だけを第三者に任せたいという需要は一定程度存在すると考えられます。

もっとも、離婚は退職とは異なり、多くの場合で法律上の権利義務に関する調整が必要になります。親権、養育費、面接交流、財産分与、慰謝料などについて交渉が必要となる場面では、一般の代行業者が活動できる余地はほとんどありません。離婚代行業が成立するとしても、その対象は法律上の争点がほとんど存在しない、ごく限られた案件にとどまるでしょう。

また、専門家が依頼を受ける場合にも、単なる伝言役で終わるのではなく、依頼者にどのような付加価値を提供できるかが重要になります。離婚後の生活設計や経済的な見通しまで含めて支援することによって、依頼者は安心して新たな人生を歩み始めることができます。専門家の価値は、単に言葉を伝えることではなく、その人の将来を見据えた助言を行うことにあるといえるでしょう。

そして、お金に関する条件については、最終的には本人が納得して判断することが不可欠です。専門家はその判断を支援する存在であり、本人に代わって人生を決める存在ではありません。離婚代行業が一定の役割を果たす可能性はありますが、その役割は限定的であり、法律上の交渉や経済的条件の調整については、弁護士などの専門家による支援が引き続き重要であると考えられます。

当研究所では、双方の離婚意思が明らかな案件でも、少しでも依頼者がより良い人生を歩めるよう多角的な支援を行っております。下記よりお気軽にご相談ください。

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