相続登記の義務化
相続財産に金融資産があると争奪戦にさえ発展しがちですが、不動産は逆に押し付け合いとなるケースも多いです。相続財産となるような不動産は老朽化が激しく、簡単には売れないほか、管理の費用や手間がかかるためです。ここで、近時は相続登記の義務化の負担が上乗せされました。老朽化して資産価値はないが、当面は物置として活用できる建物を、あえて移転登記せずにそのまま放置するケースは多いですが、これが場合によっては刑事罰の対象となるのです。この相続登記の義務か化は、長年放置し続けたケースではもうどうしようもないケースが多く、だからこそ、これから老朽化する建物が相続財産に含まれる相続案件ではきちんと登記をしなければという考えが強まっています。
そこで本稿では、こうした資産価値の低い建物の処分について形見分けと絡めながら説明します。
空き家は相続放棄が簡便
遠隔地の空き家が相続財産に含まれていて困っている、という相談はよくあります。こうしたケースでは、相続放棄が最も簡便な解決策です。特に先々代から移転登記をしてこなかったというようなケースでは、もはや相続関係をすべて整理して相続人全員で手続きを進めるのは困難であるため、生前に金融資産を少しずつ親族に移転して相続財産を空き家だけ残した状態とし、相続放棄することで、空き家の所有権を放棄できます。この空き家が買い手が付く物件であれば売った方がよいかもしれませんが、遠隔地の物件だと確認に行くにも費用を要し、売却のためにリノベーション費用もかかるというのであれば、相続放棄であっさり手放す方が費用も手間も圧倒的に少なくて済みます。ただ、相続放棄は個別の財産についてだけ行うことはできませんので、計画的に必要な資産は親族に事前に移しておくことが必要です。
形見分けは相続放棄を無効化するおそれ
ここで、古い建物は相続放棄で片付けるとしても、形見分けはしたい、という方はどうしてもいます。しかし、これは要注意で、相続放棄手続を家庭裁判所で有効に行ったとしても、相続財産の一部を費消したり、処分した場合、相続放棄が無効となる可能性があるためです。
このトラブルは意外に形見分けなどで起こりがちです。一方で相続放棄しながら、他方で相続財産であるたんす預金を着服するようなケースでは明確にアウトですが、財産価値の低い形見や、仏壇・位牌などを手元に置き続けるケースがしばしばあります。しかし、いくら財産価値は低くても相続財産の一部を承継すれば、法律に従い、相続放棄は無効となってしまいますので、大切なものは被相続人の生前に移転しておくことが推奨されます。
負債の内容を確認
どうしても、相続発生後に形見分けをしたい場合、負債の内容を確認することが推奨されます。形見分けをしたから自動的に相続放棄の効果が無効となるわけではなく、訴訟で裁判所の判断を仰ぐ必要が生じるのが一般的です。
ここで、相続財産として借金などの負債があり、その債権者が金融機関であるような場合、こうした訴訟も辞さない可能性がありますので、形見分けには相続放棄が無効になるリスクが高いと捉えるべきです。他方で、遠方の空き家を放棄するためだけの相続放棄で特に負債がないようなケースの場合、国がわざわざ個人の相続放棄の効果を覆すために訴訟をするとは考えにくいため、法律上は相続放棄の効果に疑義が生じたとしても事実上、問題が顕在化しない可能性があります。こうした観点から、誰が訴訟提起するおそれがあるかを確認する必要があります。
相続放棄しても保存義務は残る
遠隔地の空き家を相続放棄したとしても、そこでその物件に対する一切の権利義務から免れるわけではなく、その空き家の管理人が選任されるまでの間、保存義務が課されます。具体的には、例えばその空き家が倒壊しそうな場合に、補強工事などを施して倒壊を防止する義務が発生します。そのため、いつ管理人が選任されるかを確認するとともに、少なくとも一度は空き家の現況確認にいった方がよいでしょう。
ここで、空き家の内部を確認した際に、ついつい色気が出て何か持って帰りたいと思ってしまうケースが多いようです。例えばちょっとした小銭や売却価値のありそうな物品、形見などをこっそり持ち帰るケースがあるようですが、これは相続放棄の効果を無効化する可能性があるとともに、刑事上、占有離脱物横領罪にもなりかねませんので、注意が必要です。
まとめ
老朽化した空き家は厄介な相続財産ですが、計画的に準備すれば相続放棄で簡便に片付けることが可能です。しかし、相続放棄は簡便な手続であるがゆえに油断も生じがちで、ちょっとした小銭や形見くらいなら引き取って大丈夫だろう、と考えてしまう方が結構おられます。これをしてしまうと、せっかくの相続放棄が無効になってしまうおそれがあるため、承継したい財産があるのであれば、被相続人の生前に譲渡しておく必要があります。結局、空き家対策は被相続人の生前に相続税や贈与税も考慮して対策を準備しておくことで、余計な問題を残すことなく完全に遂行することができます。
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