システムダウンで道路を無料開放。そして後日料金請求
先日NEXCO中日本で高速道路のETCに大規模障害が起こりました。まず、道路管理会社のこの件に対する対応が難しかったと推測されます。あくまでETCの障害であり、道路自体に安全管理上の問題はないため、道路を封鎖する理由はありません。しかし、ETCが作動しない以上、係員を配置して現金決済を要求する必要がありますが、急に人を手配することはできず、手配できたとしても各料金所に配置するまで時間がかかってしまいます。
こうした中、NEXCO中日本は道路は利用を認めた上で、その利用料金を後日請求するという決断をいたしました。この決断内容は至極、常識的で合理的なものだと私は思いますが、これが道路利用者の不満を買っています。
そこで本稿ではこのケースを題材に、不測の事態が生じた際の責任を契約当事者のいずれが負うかという問題を解説いたします。
道路を利用した事実がある以上、利用者側が免責される理由を考える必要あり
不測の事態で契約の目的を果たせなかった場合に、代金を支払うべきか否かは大きな問題があります。例えば、世界に1枚しかない絵画を購入する契約を締結した後に、その絵画が火事で焼失したようなケースです。このような典型的なケースでは様々な議論があり、最終的には法律でルールが設定されています。
しかし、この高速道路のケースはこのような典型的なケースではなく、契約の目的は果たされた事案です。すなわち、道路利用者は高速道路を利用できずに代金を払うかどうか求められているのではなく、高速道路を利用済なのです。こうして道路の利用というサービスを受領済である以上は、サービスの対価を支払うのは当然の責務であり、利用者側が、サービスの提供は受けたが、その代金を支払う義務がない、という法的な構成をETCの不具合などに関連付けて考える必要があります。
高速道路の供用約款
高速道路でのトラブルに関する処理は、まずは民法、そして道路法などの個別法を経て最後は約款の規定で判断されます。そこで高速道路の供用約款を見ると、「高速道路の設置又は管理に瑕疵があったために利用者に損害を生じたときは、会社は、これを賠償する」という規定があります。
「損害」と記載があるように、あくまで高速道路を利用した以上は利用料金がかかるのが大前提で、「高速道路」の「設置又は管理」に瑕疵があった場合に例外処理をするという規定となっています。そして、約款上、瑕疵の具体例が挙げられているものの、ETCに関する例は挙げられていませんし、ETCは高速道路自体の設備ではないことや、遅れは発生したものの道路自体は通行できたことを考えると、道路利用料金を0円に、という主張を裏付ける法的構成を考えるのは難しそうです。
約款で想定されない事案。そうなると支払が原則
ETCの故障は利用客の責任ではないので、高速道路側が責任を負担すべきだ、という主張は理解できなくはありません。しかし、ETCが道路それ自体の設備でないのも事実です。ETCが道路それ自体の設備でない以上、約款でETCの不備について規定されなかったのがこのケースの最大の問題で、規定がない以上は原則通りで処理する。すなわち、道路を利用した以上は代金は支払う、とするのが常識的に考えた場合の帰結となりますし、ETCが故障しなかった利用客とのバランスを考えても妥当な結論です。
ただ、現実にすべての利用者から代金を回収するのは難しいでしょうし、NEXCOは今後同様のトラブルで大きな問題とならないよう、きちんとETCやその他付随設備の故障時の対応や処理方針を約款に記載すべきでしょう。
遅延の損害賠償、ETC事業者への損害賠償請求の余地
高速道路の利用料金の免責は難しいですが、それでも納得がいかない方は、道路利用に大幅な遅延が生じた事実はあるため、この遅延に対する損害賠償をする余地はあるのかと思います。上記約款はこうした損害賠償に関する規定デスが、ETCの故障を明確に「瑕疵」の内容から」除外しているわけではありません。そのため、ETCも道路の瑕疵だと主張して損害賠償を請求する場合、勝算がないわけではないと考えられます。
また、ETCの故障が道路の瑕疵ではない場合でも、誰がしかの原因で遅延が生じているため、次にETC事業者に過失があったとして損害賠償請求をする余地はあるのかと考えられます。契約上の代金は比較的明快な結論が出やすい反面で、損害賠償請求は根拠とする法律次第で免責事由なども変わってくるため、弁護士に相談のうえ、構成を検討してみる価値はあるでしょう。
まとめ
契約当事者いずれの責任もない不可抗力で契約の履行にトラブルがあった場合、その法的処理が面倒なのですが、本件では道路は通行した以上その代金の支払いを免れる法的構成を考えるのは難しく、損害賠償による反訴ができるかどうかがカギとなる案件だと思われます。こうした不可抗力の絡む案件では、どの法令をベースに組み立てるかで結論が異なることもあり、弁護士の腕の見せ所でもあります。
当研究所では、法律だけに微視的にならず、広く経営・IT・会計などにも精通した総合的な専門家が、1つ1つのトラブルの根本的な要因に着目し、最適な法的構成を徹底的に突き詰め、お客様の納得のいく解決を目指します。下記よりお気軽にご相談ください。
コメント