通勤時間が長くなるほど離婚率が高まる
夫婦関係と通勤時間には、一見すると直接的な関係がないように思えます。しかし、通勤時間が長くなるほど、夫婦関係にさまざまな負担が積み重なりやすくなることは否定できません。
スウェーデンで行われた研究では、通勤時間が40分以上の夫婦は、そうでない夫婦と比較して離婚率が40%高かったという統計があります。この数字だけを見ると、通勤時間と離婚にはかなり強い関係があるように感じられます。
通勤事情は、国や地域、交通手段によって大きく異なります。自動車通勤であれば、同じ40分でも自分の空間を確保しながら移動できます。一方、電車通勤では混雑した車内で長時間を過ごさなければならないことがあります。また、乗り換えの回数や徒歩時間などによっても、同じ通勤時間から受ける負担は変わります。そのため、日本の夫婦についても40分を明確な閾値として考えることはできません。
もっとも、通勤時間が長くなるほど、仕事以外に使える時間が減少するという点は共通しています。だからといって、通勤時間がゼロになれば離婚率が下がるわけでもありません。コロナ禍で在宅ワークが広く普及した際にも、夫婦が常に同じ空間で過ごすことによって関係が改善するとは限らず、むしろ家庭内での摩擦が増えたケースもありました。つまり、通勤時間そのものが離婚の直接的な原因なのではなく、通勤によって生じる時間、疲労、生活上の制約などが夫婦関係に影響するものと考える必要があります。そこで本稿では、通勤時間と離婚率との関係について解説します。
通勤のストレス
通勤時間が長くなるほど、日々の生活におけるストレスは蓄積しやすくなります。仕事そのものに対するストレスとは別に、職場へ行くため、そして職場から帰宅するために毎日一定の負担を強いられるからです。片道の通勤時間が少し長いだけであれば大きな問題に感じなくても、それが毎日繰り返されることで、年間では非常に大きな時間と労力になります。
特に日本の電車通勤は、身体的にも精神的にも負担が大きくなりやすいものです。混雑した車内で周囲に気を遣いながら移動し、座れない状態で長時間過ごすことも珍しくありません。乗り換えが必要であれば、そのたびに移動しなければならず、遅延や混雑など、自分ではコントロールできない事情にも左右されます。結果として通勤は「ただ耐えるだけの時間」になりがちです。
こうした負担が蓄積すると、帰宅した時点ですでに精神的な余裕がなくなっていることがあります。本来であれば家庭は仕事から離れて安心できる場所ですが、疲労や苛立ちが強い状態で帰宅すると、些細な出来事にも敏感に反応しやすくなります。普段なら気にならない家族の言葉や行動を負担に感じたり、会話をする余力がなくなったりすることもあります。
夫婦関係では、こうした小さな摩擦が積み重なることが問題になります。一度の口論だけで婚姻関係が壊れるわけではなくても、疲れて帰宅する、会話をしない、相手の言動に苛立つという状態が繰り返されれば、夫婦の心理的な距離は徐々に広がります。
そのため、通勤によるストレスを自分の中だけで処理できる状態を維持することが重要です。通勤時間そのものを短縮できなくても、帰宅前に気持ちを切り替える時間を設けたり、通勤中に精神的な負担を軽減したりすることで、家庭に持ち込むストレスを減らすことはできます。夫婦関係を守るためには、仕事で受けた負担と家庭での感情をできるだけ切り分ける意識が必要です。
家事分担の時間の減少
夫婦が生活をともにする以上、家庭を維持するための家事をどのように分担するかは重要な問題です。共働き世帯では、双方が仕事をしている以上、家事についても一方だけに負担が偏らないようにすることが求められます。また、専業主婦であっても、すべての家庭内作業を一人で担うことを当然と考える必要はありません。家事は毎日の生活を維持するために必要な仕事であり、夫婦がどのような形で分担するかを話し合うことが大切です。
ここで問題になるのが通勤時間です。通勤時間が長くなるほど、当然ながら自宅にいる時間は短くなります。勤務時間そのものが同じであっても、通勤に片道1時間を要する人と、職場まで短時間で移動できる人とでは、家庭に戻ってから使える時間に大きな違いが生じます。その結果、家事を担当する余裕がなくなりやすくなります。
しかし、家事を担う側からすれば、「通勤時間が長いから家事ができない」という事情だけでは納得しにくいものです。自分も仕事やその他の負担を抱えているのであれば、相手の通勤事情だけを理由に家事負担を引き受けることに不公平感を覚える可能性があります。この不公平感が積み重なると、夫婦間の不満につながります。
近年は、家事分担をめぐって夫婦が対立するケースも珍しくありません。家事は一つ一つを見ると小さな作業に見えますが、食事の準備、掃除、洗濯、買い物、片付けなどを継続的に行えば、大きな負担になります。
そのため、通勤時間が長いことを理由として家事分担そのものを断る姿勢は、夫婦関係にとって危険です。通勤時間が長いという事実を無視する必要はありませんが、それを理由に家庭への責任を全面的に免れることは別問題です。夫婦双方の仕事時間や自由時間などを踏まえながら、家庭生活を維持するために必要な負担をどう配分するかを考える必要があります。
重要なのは、家事の量だけでなく、相手が「自分だけが負担している」と感じない状態をつくることです。通勤時間が長い側にも、家庭を維持するために担うべき役割があります。通勤という事情を夫婦関係の外部にある不可抗力として扱うのではなく、家庭生活全体の中の一つの条件として捉えることが大切です。
転勤などで状況が一変するおそれ
会社員として働いている場合、本人の意思だけでは居住地を決められないことがあります。特に転勤のある会社では、勤務地が変更されることで、それまで安定していた夫婦の生活環境が大きく変化する可能性があります。
転居を伴う転勤の場合、家族にとって重要なのは、単純に職場まで近いかどうかだけではありません。地域の交通事情、生活環境、周辺施設など、日常生活全体を考慮して住まいを選ぶ必要があります。家賃の安さなど一つの条件だけを重視した結果、職場から遠く離れた地域を選ぶと、毎日の通勤時間が長くなることがあります。住居費を抑えられたとしても、通勤時間が増えれば、仕事と家庭以外に使える時間が減少します。本人が疲労を抱えた状態で生活する時間が増えれば、家庭内でのコミュニケーションにも影響が及ぶ可能性があります。
また、転勤は夫婦の生活リズムそのものを変えることがあります。それまで無理なくできていたことが、勤務地の変更によって難しくなる場合があります。朝早く家を出なければならなくなったり、帰宅時間が遅くなったりすれば、夫婦が顔を合わせる時間も減少します。生活時間がずれることは、単純な移動時間以上に家庭生活へ影響する場合があります。
家族の生活を第一に考えるのであれば、転居時の住まい選びは慎重に行う必要があります。会社の勤務地だけを基準にするのではなく、家族が日常生活を送る場所として適切かどうかを総合的に考えることが重要です。転勤は本人が望んでいない事情によって生じることもありますが、その影響を家族全体が受ける以上、住まいの選択については夫婦で十分に検討する必要があります。
収入よりもライフスタイルを優先せよ
若い夫婦にとって、まず重要になるのは生活費を確保することです。住居費、食費、教育費など、生活を維持するためには一定の収入が必要です。そのため、少しでも条件の良い仕事を選んだり、住居費を抑えたりすることは合理的な判断といえます。特に結婚当初は、将来に備えて貯蓄を増やすことも重要になります。
しかし、生活が安定し、収入が増えてくると、夫婦が求めるものも変化します。単純に収入を最大化することよりも、自由に使える時間や家族と過ごす時間、住環境など、生活そのものの充実を重視する傾向が強くなります。これは決して贅沢な考え方ではありません。収入は生活を充実させるための手段であり、収入を得ること自体が人生の最終目的ではないからです。
この点で注意したいのが、家賃を抑えるために会社から遠い場所に住むことです。住居費が安くなれば、その分だけ家計には余裕が生まれます。しかし、その代わりに長時間の通勤を毎日続けることになれば、時間と体力を大きく消費します。数字としては家賃が安くなっていても、生活全体として満足度が高くなっているとは限りません。
特に夫婦のどちらか一方だけが長時間通勤をしている場合、その負担が家庭内に波及する可能性があります。帰宅が遅くなれば家族との時間が減り、家事を担う時間も少なくなります。本人にとっても自由時間が減少するため、生活に余裕がなくなります。家賃を抑えることによって得られる経済的メリットと、長時間通勤によって失われる時間や精神的余裕を比較する必要があります。
夫婦にとって理想的な生活は、それぞれ異なります。便利な場所に住みたい夫婦もいれば、自然の多い地域で暮らしたい夫婦もいます。仕事を優先したい時期もあれば、家族との時間を優先したい時期もあります。大切なのは、夫婦それぞれが自分の価値観だけを押し通すのではなく、どのような生活を送りたいのかを共有することです。
最低限の生活を維持できるだけの経済基盤を確保したのであれば、その後は収入額だけに目を向けるのではなく、夫婦が望むライフスタイルを実現することにも目を向けるべきです。夫婦関係を安定させるためには、収入の多寡だけではなく、二人が納得できる生活そのものを大切にする姿勢が必要です。
まとめ
通勤時間と離婚率には一定の関連性が指摘されていますが、通勤時間だけで離婚の可能性が決まるわけではありません。重要なのは、長時間通勤によって生じる負担が、夫婦の日常生活にどのような形で入り込むかという点です。
通勤が長くなれば、それだけ仕事以外に使える時間が減ります。さらに、毎日の移動による疲労やストレスが蓄積すれば、帰宅後に家族と向き合う余裕も失われやすくなります。家庭内での会話が減ったり、相手の言動に苛立ちやすくなったりすれば、夫婦関係に小さな亀裂が生じることがあります。
また、通勤時間の増加は家事分担にも影響します。自宅にいる時間が短ければ、家事を担う時間も減少します。その結果、どちらか一方に負担が集中すれば、不公平感が生じます。夫婦関係では、こうした不公平感を放置しないことが重要です。
転勤などによって勤務地や居住地が変わる場合には、生活環境そのものが大きく変わります。住居を選ぶ際には、家賃や勤務地までの距離だけではなく、家族全体の生活時間や負担を考える必要があります。
最終的には、収入と生活の質のバランスをどう考えるかが重要です。生活を維持するための収入は必要ですが、収入を増やすために長時間通勤を受け入れ、その結果として夫婦で過ごす時間や自由時間を大きく失ってしまえば、本来の目的から外れてしまうことがあります。
夫婦にとって大切なのは、単にどれだけ稼ぐかではなく、どのような生活を二人で送りたいのかを共有することです。通勤時間は、その生活を構成する重要な要素の一つです。住まいや働き方を決める際には、家計だけでなく、時間、疲労、家事、夫婦のコミュニケーションまで含めて考えることが、長く安定した家庭生活につながります。
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