転売対策は人気商品の販売業者の責務【弁護士×MBAが解説】

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転売屋対策が大きな社会問題に

近年、人気商品の販売現場において「転売屋」の存在が大きな社会問題となっています。限定商品や人気コンサートチケット、さらにはキャラクターグッズやゲーム機器などが発売されると、一般の消費者が入手する前に転売屋が大量に買い占め、後に高額で売り抜けるというビジネスモデルが横行しているのです。本来であれば、商品はその価値を認めて正規の価格で購入し、生活や娯楽に活用する消費者の手に届くべきですが、現実にはこうした行為により多くの人々が不利益を被っています。
問題の核心は、単なる価格高騰にとどまりません。転売屋が介入することで、本当に商品を必要としている人が入手できず、やむなく高額転売品を購入せざるを得ない状況が生まれるのです。さらに、マクドナルドのハッピーセットで景品が人気となった際には、転売目的で大量購入した結果、食品を消費せずに廃棄するという事態も報告されています。こうした行為は社会的な資源の浪費にほかならず、食品ロス問題とも深く結びつく深刻な課題を含んでいます。
このように転売屋による弊害が目立つ中で、販売業者がどのような対策を講じるのかは社会全体から注視される点となっています。人気商品を販売する企業は、単に売り上げを確保すればよいのではなく、消費者に正しく商品を届けるという責任を果たさなければなりません。特に昨今はSNSやネット掲示板を通じて転売の様子が瞬時に広がり、企業の姿勢が問われやすくなっています。転売対策を怠る企業は、消費者の信頼を失い、社会的評価の低下を免れません。そのため、いまや転売対策は企業にとって不可避の課題であり、その手法が注目されています。そこで本稿ではこうした転売屋対策の手法を説明します。

購入制限はあまり意味がない

転売屋対策として真っ先に思い浮かぶ方法が「購入制限」です。すなわち、一人当たりの購入可能数を制限し、大量購入を防ごうとする試みです。しかしながら、この施策は実際には大きな効果を発揮していないのが現実です。なぜなら転売屋は、制限を巧みに回避する方法を持ち合わせているからです。
例えば、店舗販売の場合、転売屋は同じ店舗に繰り返し並んで購入を繰り返すことを厭いません。さらに複数の店舗を渡り歩くことで、制限を超える数量を容易に入手します。このように労力を惜しまない転売屋にとって、購入制限はほとんど障害にならないのです。特に都市部では店舗数も多いため、移動して購入することは現実的に可能であり、実効性を欠いてしまいます。
オンライン販売でも同様の問題があります。一人一アカウントと制限を設けても、転売屋は複数のアカウントを用意することで大量購入を実現させます。さらに、近年は住所や電話番号を偽装したり、第三者を巻き込むなどして制限を回避する事例も少なくありません。このため、オンライン上での単純な購入制限は意味を持たないといえるでしょう。
むしろ、購入制限があるからといって一般消費者が安心すると、結果的に転売屋に出し抜かれる構図が固定化する可能性すらあります。実効性の薄い施策は、企業の姿勢としても不十分と見なされやすく、むしろ批判を招く場合もあるのです。したがって、購入制限のような表面的な対応にとどまらず、より本質的な対策を模索することが求められています。

時差購入

購入制限がほとんど効果を発揮しない現実を踏まえると、別の角度からの対策が必要です。その一つとして注目されているのが「時差購入」という方法です。これは消費者が商品やサービスを購入した直後に、人気のある特典や限定グッズを即時に渡すのではなく、一定の時間をおいてから提供する仕組みを指します。
この方式を導入した事例として評価されているのが、吉野家の取り組みです。吉野家では、人気景品がつくキャンペーンを実施する際、景品を食事購入後すぐに渡すのではなく、数か月後に郵送する方式を採用しました。これにより、転売屋が「今すぐ手に入れて高額で売り抜く」という戦略を取りにくくしました。
転売屋にとって、商品価値は「今」人気があることが重要です。しかし、入手から販売までに数か月のタイムラグがあると、その間に市場価値が変動し、必ずしも高値で転売できる保証がなくなります。こうした不確実性が、転売屋にとって大きなリスクとなり、結果として活動が制限されます。さらに、この方法は正規の消費者にとっては待つ手間はあるものの、正規購入で確実に入手できる安心感を与えます。
時差購入の利点は、転売屋にとって「効率が悪い」という状況を作り出す点にあります。転売屋は在庫を長期的に抱えることを避ける傾向にあるため、この仕組みは心理的な抑止力としても機能するのです。このような発想の転換が、転売屋の活動を封じる有効な方法として注目されています。

価格差の設定

転売対策として効果的とされるもう一つの手法に「価格差の設定」があります。これは、同一商品であっても市場や流通先によって価格を差別化し、転売屋が利ざやを得にくい仕組みを作るというものです。
代表的な事例として挙げられるのが、任天堂が新機種「Switch2」を発売した際の戦略です。任天堂は、日本市場向けに「日本語版」を用意し、世界市場向けに「グローバル版」を展開しました。そして、日本語版は価格を抑え、さらに日本語しか表示されない仕様としたのです。この結果、日本語版は海外のユーザーにとって利用価値が低いため、海外転売の対象として成立しませんでした。
転売屋にとって重要なのは「どこでも高く売れる」商品です。しかし、日本語版のように特定市場でしか使えない商品は、転売価値が大幅に下がります。そのため、日本国内の消費者に正しく商品が行き渡る仕組みが整いました。このように、販売業者が製品設計の段階で転売を意識することは、極めて有効なアプローチといえます
この手法は、単なる価格の差を設けるだけでなく、言語仕様や利用環境といった付加的な要素を活用する点で工夫されています。つまり、転売屋が入り込む余地をあらかじめ塞いでしまう発想です。今後、他の業界でも市場特性を考慮した価格差設定や仕様分けが広がる可能性があり、消費者保護の観点からも注目されています。

対面販売を徹底する

現代においては、オンライン販売が主流となっています。しかし、その利便性が転売屋にとっても好都合となり、複数アカウントの利用や住所偽装などにより簡単にルールを潜脱できるのが現実です。そのため、人気商品に限っては「対面販売を徹底する」ことが転売対策として極めて有効です。
対面販売の最大の強みは、人の目による確認が可能な点にあります。例えば同じ人物が繰り返し並んでいる場合、その不自然さを判断して排除することができます。これにより、転売屋が短時間に大量購入することは難しくなります。また、店頭でのやり取りは転売屋にとって心理的な抑止力ともなり、活動自体を控える動機付けになります。
さらに、食品付きの商品キャンペーンでは、受け渡し方法の工夫も欠かせません。マクドナルドの事例に見られるように、景品だけを目当てに商品を受け取り、食品が大量廃棄されるケースは社会的にも批判を招きました。これを防ぐには、吉野家のように「食事を実際に食べた後に景品を渡す」方式を徹底することが有効です。この仕組みにより、食品の無駄を防ぐだけでなく、転売目的での購入を抑止できます。
一見するとアナログな手法に思える対面販売ですが、現状のオンライン中心の販売環境においては、むしろ確実性の高い施策といえます。人間による判断や監視が依然として有効であることは、転売対策における重要な示唆となっています。結局のところ、技術的な工夫と並んで、人の目による管理はまだまだ不可欠なのです。

まとめ

転売屋問題は、単なる「不正な商行為」にとどまらず、社会全体に影響を与える深刻な課題となっています。本来消費者のもとに届くべき商品が届かず、高額な転売価格でしか入手できない現状は、消費者の信頼を損なう大きな要因です。さらに、食品廃棄などの副次的な問題をも引き起こすため、社会的批判も免れません。
こうした状況において、販売業者がどのような責任を果たすかは極めて重要です。購入制限のような表面的な施策に頼るのではなく、時差購入や価格差設定、対面販売といった具体的で実効性のある方法を組み合わせることが求められます。これらの取り組みは、単に転売屋を排除するためだけでなく、正規の消費者が安心して商品を入手できる環境を整えるために不可欠です。
今後、転売屋問題はさらに複雑化する可能性があります。オンラインの進化により、偽装や潜脱の手口も巧妙化するでしょう。その中で企業が消費者に信頼され続けるためには、不断の工夫と責任ある姿勢が欠かせません。人気商品の販売業者にとって、転売対策は避けられない責務であり、それを果たすことこそが長期的なブランド価値の維持につながります。
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