外国人起業家が前年比半減
外国人による起業の数が前年比で半減したという統計データがあります。その背景には、起業を取り巻く制度が以前よりも厳格になったことがあります。起業は本来、個人が新しい事業を始め、経済活動に参加するための重要な手段です。新しい企業が生まれれば、雇用や取引が生まれ、国内で消費や投資が行われる機会も増えます。そのため、起業家が減少することは、経済全体から見ても決して軽視できる問題ではありません。
一方で、起業を容易にすることだけを重視すればよいわけでもありません。会社という仕組みは、単に事業を行うための器ではなく、取引先、従業員、金融機関、行政など、多くの関係者との接点になります。そのため、会社を利用した不適切な取引や犯罪行為が増えれば、起業家本人だけではなく、周囲の企業や社会にも影響が及びます。
特に、実際には事業を行う意思がないにもかかわらず、会社という外形だけを整えることや、会社を別の目的に利用することが容易になれば、制度そのものに対する信頼が損なわれます。そうなれば、真面目に事業を始めようとしている人まで、厳しい確認を受けなければならなくなります。
したがって、起業に関する制度が厳格化されることには、経済活動を阻害する側面がある一方で、制度を悪用する行為を抑えるという側面もあります。緩やかな制度によってトラブルが頻発するのであれば、一定の規制強化は避けにくいでしょう。重要なのは、規制を単なる起業の障害として捉えるのではなく、起業家として何に向き合う必要があるのかを考えることです。そこで本稿では、規制強化の内容を踏まえ、起業家が逃げてはならないものと、逆に楽しむべきものについて解説します。
経理
起業するにあたっては、事業そのものだけでなく、経理についても適切に管理することが求められます。会社を設立すると、売上や仕入れ、経費、給与、税金、借入金など、さまざまなお金の動きが発生します。これらを正確に記録し、必要な資料を整理しておかなければ、会社が現在どのような状態にあるのかを把握できなくなります。
経理が杜撰になると、単に帳簿が見づらくなるだけではありません。収益や費用を正しく把握できなければ、税務上の問題につながる可能性があります。意図的な脱税ではなくても、必要な処理が行われていないことで、結果として適切な納税ができなくなることがあります。また、会社間の取引では請求書や領収書、入出金の管理などが重要になるため、経理が乱れていると決済や確認が円滑に進まなくなるおそれもあります。
現在では、経理ソフトやクラウドサービスなどが発達し、以前と比べて経理作業そのものの負担は軽減されています。銀行口座やクレジットカードなどの情報を取り込み、取引を整理する仕組みも整っています。もちろん、ソフトを導入すればすべてが自動的に正しく処理されるわけではありませんが、経理に必要な作業を効率化する環境は以前より整っています。
こうした状況を考えると、起業家が経理を避け続けることは難しくなっています。経理は専門家だけが扱う特殊な業務ではなく、経営者自身が会社のお金の流れを理解するための基本的な活動でもあります。経理を他人任せにして数字を見ない経営では、事業上の判断にも必要な情報が不足します。起業する以上、経理に向き合うことは避けて通れない仕事の一つだと考える必要があります。
事業の実態
会社を設立する際には、会社が実際にどのような事業を行っているのかを明確にし、その実態を把握できる状態にしておくことが重要です。会社という法人格には、個人とは異なる法律上の権利や義務が認められています。そのため、法人がどのような目的で活動しているのかが不明確になると、取引をする側から見ても、その会社をどのように評価すればよいのか分からなくなります。
特に外国人起業家については、会社を設立したという形式だけを整え、実際には事業を行っていないペーパー会社が犯罪などに利用されることを防ぐ必要があります。会社が実際に活動しているのか、何を目的として設立されたのかを確認できる仕組みは、制度の信頼性を維持するためにも重要です。
そのため、会社の事業目的については、単に定款などに記載しておけば十分というものではありません。実際にどのような事業を行い、その事業をどのような方法で進めているのかについて、会社自身が整理しておくことが必要です。事業内容、取引関係、業務の進め方などについて、必要なときに説明できる状態を維持しておくことが求められます。
これは外国人起業家だけに限られた問題ではありません。法人を設立する以上、その法人が何をしているのかを明確にすることは、事業活動の基本でもあります。事業目的と実際の活動が大きく乖離していれば、会社そのものに対する信用にも影響します。
法人格は、単なる名前や看板ではありません。社会の中で事業を行うために認められた仕組みである以上、その仕組みに対応した実態を備えることが必要です。法人格を悪用することを目的とする人に対して起業を認めにくくする方向へ制度が変化することは、法人制度を維持する観点からも理解できます。起業家には、会社を作ったという形式だけで満足せず、実際に何をしている会社なのかを常に明確にしておく姿勢が求められます。
会社運営は自由ではない
会社を設立すると、自分の考えで事業を進められる範囲が大きく広がります。しかし、会社を作ったからといって、何をしてもよいわけではありません。法人も社会を構成する一つの要素であり、他の企業や個人、行政、金融機関などとの関係の中で活動する存在だからです。
会社は、一つの組織だけで完結しているわけではありません。商品やサービスを提供すれば顧客との関係が生まれ、仕入れを行えば取引先との関係が生まれます。従業員を雇えば労働関係が発生し、金融機関から資金を調達すれば返済などの義務が発生します。このように、会社は社会のさまざまな主体との間で、継続的に権利や義務を発生させながら活動しています。
そのため、会社の行為が他者に与える影響を無視することはできません。会社が法令に反する活動を行えば、その影響は会社内部だけにとどまらず、取引先や従業員、顧客などに及ぶ可能性があります。さらに、会社を利用した不適切な活動が広がれば、企業社会全体に対する信頼にも影響します。
会社法をはじめとする各種法令によって会社の活動に一定のルールが設けられているのも、そのためです。起業家からすれば、自分で資金を投入し、自分でリスクを負って始めた会社なのだから、自由に運営したいと考えるのは自然です。しかし、法人という制度を利用する以上、その制度によって保護されるだけではなく、制度に伴うルールにも従わなければなりません。
会社運営には、個人の自由とは異なる制約があります。契約、税務、労務、会社法など、さまざまな法律や社会的ルールとの関係を考えながら意思決定をする必要があります。起業家に求められるのは、制約を無視して自由を追求することではありません。社会の中で法人を運営する以上、一定の規制に服することを前提として経営を行うという認識です。
責任の中で楽しむ
起業するということは、自分で事業を決め、自分で意思決定を行い、自分でその結果を引き受ける立場になることです。そこには大きな自由がある一方で、社会の一員として果たすべき責任も生じます。会社を設立した以上、単に自分が楽しめる事業を行えばよいというわけではなく、法律や契約を守り、取引先や従業員などとの関係を適切に維持することが必要です。
そのため、起業には一定の不自由が伴います。経営者が自由に判断できる範囲にも限界があり、会社として守らなければならないルールがあります。事業活動を続けるためには、必要な手続を行い、適切な管理を行い、社会から求められる責任を果たさなければなりません。こうした負担を嫌って責任から逃れようとすれば、起業そのものを安定して続けることが難しくなります。
しかし、起業に伴う不自由だけを見ていると、起業の本質を見失います。会社員など雇われる立場では、組織の方針や上司の判断、勤務先の制度など、自分だけでは変更できない事柄が数多くあります。それに対して起業家は、一定のルールを守る必要があるとしても、そのルールの範囲内で事業の方向性を決める余地が大きくあります。
つまり、起業家にとって重要なのは、不自由が存在しない状態を目指すことではありません。社会の一員として必要な責任を引き受けたうえで、その範囲内に残された自由を積極的に活用することです。責任を負うからこそ、自分で決められることの価値も大きくなります。
起業家は、規制や責任を単なる障害として捉えるのではなく、事業を継続するための前提として受け入れる必要があります。そのうえで、自分自身が決定権を持てる部分については、会社員とは異なる自由を存分に楽しめばよいのです。責任から逃げないことと、自由を楽しむことは両立します。むしろ、その両方を受け入れることが、起業家として事業を続けるうえで重要な姿勢になります。
まとめ
起業には自由がある一方で、社会の中で法人を運営する以上、一定の責任と規制から逃れることはできません。経理を適切に管理し、会社の事業実態を明確にし、法令や契約などのルールに従って事業を行うことは、起業家が避けてはならない基本的な責任です。起業の自由とは、何をしてもよいという意味ではありません。
むしろ重要なのは、守るべきものを守ったうえで、自分で決められる範囲を最大限に活用することです。会社を運営する以上、一定の不自由が生じるのは当然です。しかし、雇われる立場と比較すれば、事業の方向性や仕事の進め方などについて、自分自身で決定できる余地は大きくなります。
したがって、起業家は規制や責任そのものから逃げようとするのではなく、それらを事業活動の前提として受け入れることが重要です。そして、責任を果たしたうえで残されている自由については、積極的に楽しむべきです。起業の魅力は、制約がないことではなく、責任を負いながら自分の意思で事業を動かせることにあります。
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