警察を騙る特殊被害はこうして予防せよ【弁護士×ITストラテジストが解説】

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警察を騙る特殊詐欺が増加傾向

近年、警察官や捜査員、あるいは検察庁職員を名乗る犯人による特殊詐欺が全国で急増しています。令和六年に報道された東京都内の被害だけでも、電話やメールを通じて警察を名乗り個人情報を聞き出そうとした件数は六千件を超え、前年同時期と比べて約三割も増加しました。犯人たちは「振り込め詐欺対策のアンケート調査」「金融機関を装った資産保全指導」「サイバー犯罪の被害調査」など、多様な名目を掲げ、真偽を判断しづらいシナリオを作り上げます。特に警察からの「呼び出し」や「協力要請」という言葉は、市民に強い心理的圧力を与え、冷静な思考を遮断してしまいます。さらに、犯行グループは複数人で役割を分担し、別人が「銀行協会」「弁護士」「家電量販店のサポートセンター」などを装い次々に電話を掛け、ストーリーの信憑性を高める“劇場型”手口が主流となっています。詐欺グループ側の数字の裏付けや犯行の巧妙化を踏まえ、「自分は大丈夫」という思い込みを捨てることが、被害を防ぐ最初のステップです
そこで本稿では警察を騙る詐欺をどう回避するかについて整理します。

そもそも知らない番号からの着信を受けない

スマートフォンの普及に伴い、日常生活では見知らぬ番号からの着信が格段に増えています。しかし、その大半は営業電話か詐欺電話です。犯人は同じ番号を長期間使用すると通報・着信拒否で足がつくため、番号を次々と変える「プレペイドSIM」「IP電話サービス」を悪用します。特に国外発信の番号であっても、デフォルトの国番号表示を消して国内番号風に見せかけるサービスが存在し、一目では判断できません。そのため、「知らない番号は原則として出ない」というルールを家庭内で共有し、留守番電話で録音された内容を確認してから折り返すスタイルを定着させましょう。折り返す際も、発信履歴から直接掛け直すのではなく、公式サイトや市販の電話帳で番号を検索し、正式な窓口へ連絡することが重要です。また、iOS や Android には迷惑電話を自動判定する機能やアプリが豊富にあります。これらをオンにするだけで、不審な番号からの呼び出しは強制的にサイレント着信となり、心理的ストレスを大幅に軽減できます。
電話を取ってしまった場合でも、自分からは決して個人情報を口にせず、相手の所属と氏名、用件を紙にメモした上で「確認して折り返します」と落ち着いて伝えることが被害防止の鍵です。さらに、家族で「知らない番号から警察を名乗る電話が来たときは、まず家族ラインに共有してから対応する」というルールを作ると安心です。家庭内での共有が難しい高齢者には、音声フィルター機能付き固定電話や着信前に録音を開始する通話機器を設置することも検討しましょう。

警察の捜査はあくまで任意。いつ退出しても良い

本物の警察の呼び出しは、事件への関与を示す十分な根拠がある場合でも「任意同行」の形をとることが大半です。これは刑事訴訟法第百九十八条に基づいており、取調べにおける身体拘束は令状が必要だからです。したがって、口頭や電話で「今すぐ来ないと逮捕状を請求する」と脅す行為自体が法令違反にあたり、真正の警察官がそのような違法行為を行うことはあり得ません
仮に警察署へ出向いた場合でも、長時間の聴取や録音の拒否など不当な取扱いを受けたなら、「体調が優れない」「弁護士と相談したい」などの合理的理由を示し退室する権利が担保されています。退室を阻止するには現行犯逮捕か令状が必要であり、これらが示されない限り、あなたは自由に移動できます。また、電話やオンライン会議システムによる事情聴取は制度上の位置付けがなく、令和四年の刑事手続デジタル化関連法案でも、取調べの遠隔実施は録音・録画義務と厳格な証拠保全手続きが整うまで導入しない方針です。
現実に「警察が Zoom で事情聴取を行う」と通知を受けた被害者が、リンクをクリックしてウイルスに感染した事例も報告されています。リンクやファイルのダウンロードを誘導された時点で詐欺と判断し、即座に終了してください。さらに、警察手帳の提示を求め、手帳番号と所属部署、担当の刑事課名を控えておき、自分のスマートフォンでその場から検索する習慣をつけると、偽装は簡単に暴けます。正規の警察手帳は光の反射で浮かび上がる透かしがあり、紙質も特殊です。提示を拒む、カメラに手帳を近づけることを渋る時点で詐欺と断定して差し支えありません。

警察が捜査への便宜を図ったり、金銭要求することはない

警察官には地方公務員法および警察法で守秘義務が課されています。進行中の捜査情報を一般市民に漏らすことは懲戒処分の対象であり、公務員としてのキャリアを失うリスクを伴います。従って、電話越しに捜査線上の人物名や詳細な日時、押収予定の証拠などを伝えることはありません。また、犯人がしばしば口にする「証拠品の一時保管料」「犯罪組織の資金洗浄を防ぐための調査協力金」などの要求も、公的機関の枠組みには存在しません。資金移動を伴う行為は、必ず金融機関を通じた正式な差押え・供託手続きか、裁判所の決定を経て行われます。
過去の事例では、警察を名乗る犯人が「口座を凍結する前に仮に資産を預かる必要がある」と言い、被害者に金庫から現金を宅配便で送らせたケースが報じられました。宅配便で現金を送るよう指示するのは犯罪以外の何物でもありません。加えて、「個人情報保護の観点から自宅へ向かわせる警察官に直接手渡してほしい」と言い、スーツ姿の“運び屋”を派遣するケースもあります。警察官が現金を個人から直接受け取ることは制度上あり得ず、領収書のない金銭授受を求める時点で詐欺です。
少しでも金銭絡みの提案が出た時点で会話を終了し、通話録音を保存して警察相談専用電話「♯9110」または最寄りの警察署へ通報しましょう。これは、自分を守るだけでなく、次の被害を食い止める社会的責任にもつながります。また、最寄りの金融機関に直接相談し、警察を名乗る電話の内容を報告することで、行内での注意喚起チラシの作成や口座モニタリング強化につながる例もあります。店頭窓口の行員や警備員は地域の警察と連携しており、疑わしい取引を阻止した実績が多数あります。

後ろめたさを日ごろからなくせ

心理学には「罪悪感は服従を強める」という実験結果があります。人は自分に非があると感じると、権威を名乗る相手に従いやすくなるのです。詐欺グループはこの性質を逆手に取り、「もしや違反歴がバレたのでは」「副業の確定申告を忘れたせいかも」といった被害者自身の潜在的不安を喚起し、思考停止に追い込みます。たとえば、軽微な交通違反の反則金を払わずに放置している、ネットオークションでグレーな転売をしている、あるいは趣味の海外サイトで軽い著作権侵害をしている──そのような“小さな後ろめたさ”は誰にでもあります。だからこそ、日頃からルールに沿った生活を送り、違反があれば速やかに正規の手続きで解決する姿勢が重要です
さらに、家庭や職場で「警察を名乗る電話が来た場合の行動手順」を共有し、緊急連絡網や専門家相談先をリスト化しておくと、いざという時に冷静に対処できます。詐欺の根底にあるのは「相手を心理的に孤立させ、迅速な判断をさせない」戦略です。後ろめたさを減らす生活習慣と、支援ネットワークを事前に構築することで、犯人の揺さぶりは効果を失います。なお、本物の警察であれば、あなたが弁護士同席を求めても拒むことはありません。もし「弁護士は不要です」と断言された場合は、詐欺を疑いましょう。日ごろから後ろめたいことのないよう過ごすことで冷静さは格段に増し、詐欺師のプレッシャーに屈しなくなります。

まとめ

警察を装う特殊詐欺は、権威への信頼と自責の念という二つの心理的弱点を狙う極めて巧妙な犯罪です。しかし、知らない番号には出ない、任意聴取の権利を理解し主導権を渡さない、そして金銭要求があれば即断で通報するという三つの行動指針を徹底すれば、ほとんどの被害は防げます。さらに、日頃から法令順守を意識し、家族や友人と対応手順を共有することで、犯罪者の“孤立させる作戦”を打ち破れます。電話サポート機器や迷惑電話フィルターといったハード面の備えに加え、専門家相談の窓口情報を常に手近に置くことで、いざという時の不安は一掃されます。被害を未然に防ぐ備えは、思ったその瞬間から誰でも始められます。
当研究所では、刑事事件の経験豊富な弁護士・ITストラテジストが貴方の特殊詐欺の「予防」について様々な観点でサポートいたします。下記よりお気軽にご相談ください。

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