売上でも利益でもない
企業経営では、「売上を追求すべきか、それとも利益を追求すべきか」という議論がよく行われます。売上が増えなければ事業規模は拡大しませんし、利益が残らなければ企業活動を継続することもできません。そのため、経営者にとって売上と利益のどちらを重視するかは、非常に重要な経営判断になります。
しかし、企業の成長段階によって、重視すべき指標は変わります。すでに事業基盤が確立している大企業であれば、単純に売上を増やすことよりも、どれだけ効率よく利益を生み出しているかという収益性が重視される傾向があります。
一方、設立して間もない若い企業については、大企業と同じ基準で経営を考えることは適切ではありません。若い企業には、まだ十分な信用力も事業基盤もなく、顧客や取引先との関係も安定していない場合が多いからです。したがって、短期的な売上や利益だけを見て経営判断を行うと、本来優先すべき課題を見失う可能性があります。
また、若い企業の場合、事業そのものが市場に受け入れられるかどうかを確認している段階でもあります。どれほど優れた商品やサービスを用意しても、それが継続的に選ばれるとは限りません。顧客からの評価、取引先からの信用、社内の事業運営能力など、企業として存続するための基盤を一つずつ整えていく必要があります。
つまり、若い企業にとっては、売上と利益のどちらか一方を最大化すれば経営が安定するという単純な問題ではありません。企業が置かれている段階を踏まえ、現在の経営資源を何に振り向けるべきかを考えることが重要です。そこで本稿では、若い企業がまず何を求めるべきかについて、企業の成長段階と経営基盤という観点から解説します。
大企業が利益率を追求する理由
大企業の経営では、単純な売上規模よりも利益率や資本効率が重視されることがあります。これは、大企業がすでに一定の事業基盤を持ち、継続的に事業を運営できる状態にあることと関係しています。企業活動には株主からの出資などによって調達した資本が投入されており、その資本を使ってどれだけ効率よく収益を生み出せるかが重要になるからです。
資本主義のもとでは、株主は企業に資本を提供し、その資本がどのように活用されているかを見ています。もちろん企業には従業員、顧客、取引先、地域社会など多くのステークホルダーが存在しますが、株主から資本を預かっている以上、その資本に対して適切な収益を生み出すことは企業経営における重要な責任です。投資家の立場から考えても、資本を投じる対象を選ぶ際には、その企業がどれだけ安定して収益を生み出せるかが重要になります。
また、大企業は一般に、若い企業と比較して信用力や事業基盤が確立されています。長年の取引実績や顧客基盤、組織体制などを有しているため、短期間で事業そのものが消滅することを前提として経営する必要性は相対的に低くなります。そのため、無理に売上規模を拡大することよりも、既存の経営資源を効率よく活用することに重点を置くことが合理的になります。
この段階では、売上を増やすことそのものより、売上からどれだけ利益を生み出せるか、さらに投入した資本に対してどれだけの成果を得られるかが重要です。したがって、大企業には、安定した事業基盤を前提として、収益性の高い事業展開を行い、限られた資本を効率よく運用することが求められます。これは株主だけでなく、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーから見ても重要な経営課題となります。
若い企業はまず生き残ることが使命
若い企業の経営において最も重要なのは、まず企業として存続することです。設立直後の企業は、長年にわたって蓄積された信用や取引実績を持っていません。顧客から見ても取引先から見ても、その企業が今後も安定して事業を続けられるのかを判断するための材料が少ない状態です。
企業には、事業を行っているだけでさまざまな固定的な負担が発生します。若い企業では、一時的な業績の悪化がそのまま資金繰りの問題につながることがあります。また、事業が順調に見えている場合でも、取引先との条件変更、顧客数の変動、予想外の支出などによって経営環境が大きく変わることがあります。企業としての体力が十分でなければ、こうした変化に対応できず、事業そのものを継続できなくなる可能性があります。
だからこそ、若い企業には、目先の数字だけではなく、企業を存続させるための戦略が必要です。場合によっては、収益性が十分に高くない段階でも、一定の売上を確保し、顧客との接点を維持することが必要になります。
ただし、ここには難しさがあります。生き残ることを重視するからといって、売上さえ増えればよいわけではありません。若い企業では、売上を確保する必要性と、経営資源を消耗しすぎないことの両方を考える必要があります。経営者は、単年度の業績だけではなく、企業が継続して活動できる状態にあるかを常に確認しなければなりません。
若い企業にとっての経営は、完成された企業が効率性を高める経営とは性質が異なります。まず企業そのものを存続させ、事業を継続できる状態を維持することが、経営判断の大前提になります。
利益はしばらく猶予される
若い企業が設立直後から十分な利益を確保することは、必ずしも容易ではありません。商品やサービスを提供するための費用に加え、企業として認知されるための活動や事業体制の整備にも経営資源が必要になります。売上が発生しても、それまでに投入した費用を回収するまでには一定の時間がかかります。
特に、新しく市場に参入した企業には、既存企業と比べて信用や認知の面で不利な部分があります。顧客は商品やサービスの内容だけでなく、企業そのものが信頼できるかどうかも見ています。取引先にとっても、長期間安定して事業を継続している企業のほうが取引上の安心感を持ちやすくなります。
そのため、企業が市場に定着するまでには時間が必要です。こうした事情から、若い企業では、起業当初から高い利益を求めすぎない経営判断が必要になる場合があります。利益を出すことを軽視するという意味ではありません。むしろ、利益を確保できる企業になるために必要な時間を適切に確保するという考え方です。
その間の資金をどのように確保するかは重要な問題です。自己資金だけでなく、金融機関からの借入れなどを活用しながら、事業を継続するための資金を確保する方法があります。将来の事業基盤を形成するために、一定期間の資金負担を受け入れることには意味があります。
重要なのは、利益が出ない期間を許容するのであれば、その期間に何を蓄積するのかを明確にする必要があります。顧客との関係、取引実績、社内の業務体制、商品やサービスの改善など、将来的に企業の収益力につながる基盤を形成していかなければなりません。
若い企業にとって利益は重要ですが、それを短期間で達成することだけが経営の目的ではありません。一定期間の利益を犠牲にしてでも、将来にわたって利益を生み出せる企業へ近づくための時間を確保することも、経営上の選択肢になります。
強みの作りこみとPR
開業したばかりの企業は、商品やサービスそのものが知られていないだけでなく、その企業が存在していること自体を知られていない場合があります。この段階では、まず顧客との接点をつくり、市場に存在を認識してもらうことが必要です。開店時の販売促進などによって顧客を集めることは、そのための手段の一つになります。
しかし、短期的な集客策をそのまま中長期的な経営戦略にしてはいけません。値引きなどによって顧客を集める方法は、購入のきっかけをつくるという意味では有効ですが、価格を下げ続けなければ顧客を維持できない状態になれば、売上が増えても企業に残る収益は限られてしまいます。
若い企業が中長期的に成長するためには、価格以外の理由で選ばれる状態をつくる必要があります。そのためには、自社が何を強みとしているのかを明確にし、その強みを事業の中で継続的に磨き込んでいくことが重要です。商品やサービスの品質、専門性、対応力、独自性など、顧客が価値を感じる要素を明確にする必要があります。
強みは、単に「自社には優れたところがある」と考えるだけでは形成されません。顧客が何を評価するのかを把握し、その評価につながる部分に経営資源を継続的に投入することが必要です。企業自身が重要だと考える特徴と、顧客が実際に価値を感じる特徴が一致しているかを確認することも欠かせません。
さらに、強みを作り込むだけでは十分ではありません。どれほど価値のある商品やサービスを持っていても、それが市場に伝わらなければ選ばれる機会を得られません。企業の強みを言語化し、適切な相手に継続して発信することが必要です。PRは単なる宣伝ではなく、企業がどのような価値を提供する存在なのかを市場に理解してもらう活動でもあります。
若い企業ほど、目先の売上や利益だけを追いかけるのではなく、将来の売上と利益を生み出す源泉を育てる視点が重要です。強みを作り、その強みを市場に伝え、企業としての存在価値を徐々に確立していくことが、持続的な成長につながります。
まとめ
若い企業の経営では、売上と利益のどちらを優先するかという二者択一だけで考えると、判断を誤る可能性があります。大企業の場合には、すでに構築された事業基盤を前提として、利益率や資本効率を高め、投入した資本から効率よく収益を生み出すことが重要になります。一方、若い企業には、そもそも安定した事業基盤や信用が十分に形成されていないという違いがあります。
そのため、若い企業ではまず企業そのものを存続させることが重要です。一定の売上を確保する必要がある一方、売上だけを追求して採算を度外視すれば、かえって経営を不安定にすることがあります。また、設立当初から十分な利益を確保することは容易ではないため、必要に応じて外部資金なども活用しながら、事業が定着するまでの時間を確保するという考え方も必要です。
その間に重要になるのが、将来の収益につながる事業基盤を築くことです。自社ならではの強みを明確にし、それを継続的に磨き込むことで、価格だけを理由として選ばれる企業から脱却できます。そして、その強みを適切にPRし、市場に企業の価値を認識してもらうことも欠かせません。
若い企業にとって本当に重要なのは、企業が存続し、信用を蓄積し、強みを確立し、将来的に安定した収益を生み出せる状態へ近づいているかを確認することです。売上や利益は、その過程を測る重要な指標ではありますが、経営の目的そのものと捉えるべきではありません。
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