自社株を取得し、従業員に持たせる企業が増加
自社株を従業員に付与する企業が増加しています。自社株買いにも一定のメリットがありますが、これを従業員に付与することで、さらに効果を増幅させる可能性があることに多くの企業が気づき、実行し始めています。
現行法上、自社株の従業員への無償譲渡は禁止されており、ストックオプションなど工夫を凝らして従業員に株式を移転していますが、会社法の改正が検討されており、早晩、無償譲渡が解禁されそうです。本稿では、このような自社株の従業員への付与のメリットと、実際に運用するうえでの注意点を整理します。
自社株買いの会社のメリット
日本企業は「金余り」と言われています。倒産リスク回避のために過剰に流動資産を保有し、これを運用していれば、さらに増えたはずの利益を取り逃がしている点で投資家の不満を抱えています。
倒産リスク回避の意図での資金繰りは、システムをきちんと構築して担当者が慎重に判断すればそれほど怖がる必要はなく、余剰の流動資産をどんどん活用すべきだという意識は日本企業にも広まっています。ただ、そこで投資効率の良い案件がない場合、投資は見送る必要があり、このような場面で流動資産を寝かせておくなら自社株に変えておこう、という戦略が選択肢としてあがってきます。
余裕のある時に自社株を買い集めておくと、株価は上昇するか安定します。制限はありますが、その後に再度市場に流すこともできますので、「資産が余っているならとりあえず自社株買っとけ」の戦略は成立するのです。
従業員のモチベーション上昇と定着促進
従前、ストックオプションとして従業員に自社株の予約権を付与するケースはありましたが、成長しない企業のストックオプションは紙切れ同然で、あまりもらってありがたいものではなかったケースも多かったです。
しかし、上場目前、あるいは上場企業のストックオプションは値上がりする可能性は期待でき、従業員の注目も高いです。こうした自社株やその予約権を従業員に渡すと、自発的に自社の活動全体を学習し、どのような条件があれば株価は上昇するかを把握しようとします。すなわち、自社への愛着が増し、利益増加により貢献することが期待され、モチベーションの向上効果が期待されますし、この効果があれば、転職も簡単には考えなくなるため、人材の定着効果も期待されます。
モノ言う株主対策
世界的には安定株主構成は、企業の成長にあまり良くないという風潮もありますが、日本の企業は安定株主による安定な意思決定を選好します。
自社株買いを行い、市場に流通する株式を回収して従業員など、自社の味方に移転することで、安定した株主構成はさらに期待され、株主総会において反対株主の提案や反発を緩和できる点にも、ここに主眼があるわけではありませんが、一定のメリットがあります。
譲渡制限と配当がカギ
従業員に自社株を譲渡して、株価があがったとしても、通常は授業員に付与する株式には譲渡制限がかけられるので、すぐに売却して利益を確保することはできません。ここは、自社株を渡された従業員には不満です。
そこで、自社株に十分な配当を出すことで、従業員の不満を緩和することは不可欠です。配当が大きいほど自社の成長への期待も高まり、さらに自社株買いの効果は増します。あくまでメインは従業員の定着とモチベーションにあることをふまえ、適切な配当性向を考えていくべきです。
まとめ
自社株の購入と、その従業員の付与には、近時、多くの企業が注目するメリットがあり、そのメリットの享受のためには法律上の制限を遵守するほか、注意すべき点も何点かあります。
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