米は買い占めたら儲かるのか?会計的側面から検証

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備蓄米放出でもコメの価格は下がらないとの報道

米の価格の高騰に対して、政府が備蓄米の放出を発表しました。その量はかなり大きいもので、政府の対策の本気が見えるものの、それでも米の価格はあまり下がらないと言われています。その背景には卸売企業や外国人による買い占めや大量購買があると言われています。値上がりする金融商品は安いタイミングで買い占めるのがセオリーですが、生ものである植物を買い占めるのにはもう少し策略が必要です。その是非はともかくとして、同様に安く仕入れられる米を買い占めてストックすれば儲かるのでは?と考える意見も散見されますが、それは容易ではありません
本稿では、会計的な側面から買い占めができるのは潤沢な資金のある大手業者だけであることを解説します。

考慮すべきコスト①:保管費用

米は比較的長持ちする食料ではあるものの、政府が減反政策を打ち出してまで生産を減らす背景には、保管中の劣化がどうしても切り離せません。
政府は5年サイクルで約100億トンの備蓄米を有すると報道されていますがその保管費は年間約500億円に上ります。冷凍保存も必要で、大量にストックすればするほど保管費用は跳ね上がる仕組みです。
十分に広い倉庫が確保できていたとしても、湿気の問題や、ネズミなどにかじられる危険は100%防止は難しいです。そのため、米を大量に買い占めできたとしても、これを値があがるまでそのまま保管することは困難で、保管費用が保管時間に応じて発生することを忘れてはなりません。
保管費用は時間に応じて発生するため、当然、値上がりするまで長期間待つと、それだけ保管費用も大きくなります。保管費用と品質管理コストをいかに最適にマッチさせるかはどの業界でも共通の課題です。

考慮すべきコスト②:盗難リスク

近時、野菜価格も高騰しており、野菜の大量窃盗事件も発生しています。農作物の被害件数は令和になって以降、減少傾向にありますが、被害額は右肩上がりに上昇しており、200億円に上ろうという勢いです。その対象は無防備な畑野菜だけでなくハウス野菜や家畜にまで、とにっかう盗みやすいものは徹底的に狙われる傾向があるようです。
畑で育てている野菜の防衛は難しいですが、倉庫で保管している米の防衛は確実・・と考えるのは浅はかで窃盗団は儲かるものはすべて狙いに来ます
当然のことながら、値上がり目的で保管している商品を奪われたら致命的な損失になりかねません。米を貯めこむという戦略を講じる際は、盗まれて大損する危険性まで考えなければ収支見合った案にはなかなかなりません。

考慮すべきコスト③:品質劣化による評価損

①とも関連しますが、保管期間が長期化すると、どうしても商品の品質は劣化し、価格は落ちていくのが通常です。米の成分には酸素がないために虫がわくリスクは低いものの、特に夏場にカビが発生して品質価値が一気に0に落ちてしまうリスクには注意を欠かせません。
値上がりを期待して買い占めたのに価格が下落していくのでは全く戦略として成立していません。そのため、品質が劣化する前に売りさばこうとするとさらに足元を見られて安値で買い取られてしまいがちです。そこで、商品の劣化具合を見ながら、どのタイミングで最終的に売りさばくかを考え、そのタイミングの時価が思わしくなければ前倒しで戦略を立て直す必要があります。
食べ物である以上、あまり長期間の保存も保管も困難です。これをふまえてどのタイミングで売り払うのかまで考えなければ買い占めによる利益獲得はどんな商品でも難しいでしょう。

大量リリースの懸念

今回、政府は21トンもの大量の備蓄米を放出しました。報道によれば、これは買い占め業者にはそれほど影響は与えないようなのですが、買い占め業者も、大量に仕入れたものは売りさばかなければただの費用倒れになるため、どこかで大量リリースする可能性は否定できません。そのため、政府ばかりではなく、買い占めた業者や外国人が市場に大量に米を流通させると、価格は一気に変化してしまいます
そうした価格乱降下のリスクまでふまえて、米を買い占めるならいつ入荷していつ売りさばくかを会計的に数字で判断する必要が必ずあります。これまでは消費者ニーズだけみていればよかったのですが、最近ではこうした買い占めが増えた関係で、買い占め業者の動向への注意の必要性が高まっています。

まとめ

米は保存が利くので買い占めてどこかで売りさばけばよいと簡単に考えがちかもしれませんが、その保管過程で大きなコストやリスクを背負っていることを見落としてはなりません。そのコストを考慮して、自社に最適な戦略を練り直す必要も生じるでしょう。
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