相続財産に山林がある場合の対処法

相続・事業承継

田舎の古い家屋よりも厄介な山林

相続登記が義務化されたことに伴い、遠方にある古い家屋を相続の際にどうすべきかが課題とされています。古い家屋なので売れないですし、解体して更地を売るにしても費用や手間が上回ってしまう可能性が生じがちです。そのため、相続放棄が最も簡明なのですが、相続したい財産がある場合、古い家屋も相続しなければならないため、対処が大変です。
しかし、そんな厄介な古い家屋よりももっと大変な相続財産があります。山林です。「土地は相続しておいて損はない」という方もいますがそんな単純な話ではなく、古い家屋以上にとんでもなく重い負担を被ってしまう可能性があります。そこで本稿では、こうした山林の相続がどのように難解で、どう対応すれば良いかを説明します。

境界を明確にする必要

「広い土地」といえば魅力的に見えますが、山林は往々にして隣地との境界が不明確なことが多く、そのままでは移転登記できないケースが散見されます。ここで、膨大な山林の境界を確定していくためには、逐一、隣地の所有者の協力を求める必要がありますが、この所有者を探し当てるのも一苦労で、所有者を見つけても協力してもらえない可能性もあります。
民有林に関しては行政も一定の情報管理をしているため、その情報開示を求めて調査の足がかりとすることも考えられますが、ここで管理される情報は所有者などの基本情報のみで、しかも、最新情報にアップデートされていない可能性もあります。そのため、結局隣地の情報を自身で集めなければならないケースも多く、多大な手間がかかってしまいがちです。

売れないか費用超過

境界を画定するためには測量などが必要なケースも多くなります。町中の住宅地の測量と異なり、田舎に出向いて広大な土地の測量が必要であり、また、平坦な土地ではなく勾配や障害物もたくさん存する土地の測量をするとなると多額の費用がかかります。
そして、こうして多額の費用をかけて移転登記できたとして、山林はなかなか買い手がつきにくいうえ、買い手が見つかっても二束三文で買い叩かれてしまい、登記にかかる費用倒れとなりがちです。山林によっては若干の果実は発生するかもしれませんが、それも収穫に過分な費用がかかるようでは、やはりマイナスです。こうして山林の相続は広大な土地の相続で潤うのではなく、逆に「負」動産である可能性も高く、相続が発生してから対応を考えても遅い可能性があるため、被相続人の財産に山林がある場合は、早めに対策を講じ始めた方がようでしょう。

管理義務

山林はただ保有していればよいというわけではなく、管理義務が生じます。管理不十分で火災などの災害を生じると、自身が起こした災害でなくても法的責任を負う可能性がありますし、害獣が発生したら対処が必要となったり、犯罪の現場となる可能性などにも対応が必要です。こうして山林の管理義務の範囲は広いため、現地を確認の上で個別に管理方針を定める必要がありますが、そもそも山林自体が広すぎたり、歩行の困難な地区を含んだりするなどの事情により、山林の概要さえ把握することが困難なケースも多いです。そして、山林保有者の高齢化が進んでいることから、この管理義務を果たすことが難しくなっているのが大きな負担となっており、先代が管理義務を果たしていないため相続人の管理の負担も累積的に大きくなっていることも大きな問題です。

国庫帰属制度も費用が高い

田舎の古い家屋は、建物を解体して更地にしなければ国庫帰属制度が使えないことが大きな課題となっています。これに対し、山林は土地なので国庫帰属制度を活用することができます。管理義務の負担が大きい場合、国に土地を返還することも1つの手段です。
しかし、国庫帰属制度を活用するやめには1筆あたり1万4000円の審査料に加え、10年分の土地管理費相当額を国に支払う必要があり、この費用負担が大きな障害となっています。その結果、山林を国庫帰属制度で国に返還することもあまり利用されていないのが実情で、こうして山林が本当に「負」動産であるならば、その他の相続財産を計画的に処分して相続放棄するのが最も負担の軽い対処法となるわけです。

まとめ

相続の発生が見込まれる場合、被相続人の相続財産を早めに把握することが必要です。債務超過である場合は相続放棄をすることとなりますが、もし、どうしても相続したい財産があるのであれば生前贈与契約が必要となりますし、逆に資産超過ではあるものの、遠方の古い家屋や山林は、実質的にはマイナスの財産である可能性もあるため、計画的に生前贈与を行い、「負」動産は相続放棄することも検討すべきでしょう。
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