生成AIによる労働生産性改善への期待
近年、生成AI(Generative AI)の進化が著しく、文章作成、デザイン、プログラミング、データ解析など、多岐にわたる業務領域での活用が進んでいます。これに伴い、企業では業務効率の改善や人件費削減への期待が高まっています。特に、単純作業や定型業務においては、生成AIが人間よりも速く正確に処理を行うケースが多く、従来人間が長時間かけていた作業を数分で完了させることが可能となっています。
例えば、定例会議の議事録作成や、FAQ対応、製品説明文のテンプレート作成などは、生成AIの得意とする領域です。これらをAIに任せることで、人間のリソースをより創造的かつ戦略的な業務に振り向けることができます。また、AIが常に最新の情報や知識をベースにアウトプットを生成することから、業務品質の均一化にも貢献します。
ただし、すべての業務が生成AIで置き換えられるわけではなく、また、生成AIの活用が企業リスクとなることもあります。そこで本稿では、生成AIを業務に活用すべき場合とそうでない場合について理由とともに解説いたします。
生成AIの活用を推奨すべきケース
業務においては、上司が部下に対して業務内容や目的を詳細に説明する必要がある場面が多々あります。しかし、業務が忙しい中で一から丁寧に説明する時間が取れないことも少なくありません。こうした状況下で生成AIを活用すれば、上司が大まかな指示を出すだけで、AIが業務の補足説明や背景情報の整理を代行することが可能になります。
例えば、「新しいプロジェクトの提案資料を作成して」とだけ伝えた場合でも、生成AIにプロジェクトの概要や過去の資料を入力すれば、必要な要素を網羅した草案が短時間で完成します。これにより、上司は逐一説明する手間を省くことができ、部下も業務の全体像を素早く理解することが可能になります。
このように、生成AIがコミュニケーションの「補助者」として機能する場面では、積極的な活用を推進すべきです。部下が情報収集に時間を費やすよりも、本質的な業務に集中できるようになるからです。
生成AIに頼りすぎると自分で考える力が弱くなる
生成AIの利便性に過度に依存することには大きなリスクがあります。とりわけ問題となるのは、「自分の頭で考える力」の低下です。生成AIは、大量のデータをもとに自然な文章を生成しますが、その内容はあくまでも「過去の知識の組み合わせ」であり、新たな発想や批判的思考に基づく判断はできません。
若手社員が「とりあえずAIに聞けばいい」と考えるようになると、情報を咀嚼したり、自ら仮説を立てて検証するという基本的なビジネススキルが育ちにくくなります。また、AIの出力が誤っていた場合、それを疑う力がなければ、誤った判断がそのまま実行に移されてしまう恐れもあります。
したがって、教育的観点からも、生成AIの利用には一定の制限を設けることが重要です。特に、業務の背景や目的を理解し、自ら思考を深める訓練を要する場面では、AIの活用を最小限にとどめるべきです。
情報漏洩のリスク
生成AIを業務で利用する際に、最も注意が必要なのが「情報漏洩のリスク」です。多くの生成AIサービスはインターネットを介して動作しており、入力した情報がクラウド上に保存される可能性があります。もし、企業機密や個人情報を安易にAIに入力してしまった場合、それが外部に漏れる危険性はゼロではありません。
実際、過去にはAIチャットに入力した社内情報が学習データとして蓄積され、外部ユーザーに類似の出力がされたという事例も報告されています。このような事態が発生すれば、企業の信頼は著しく損なわれ、法的な問題に発展する可能性もあります。
そのため、生成AIの導入にあたっては、利用規約やプライバシーポリシーを十分に確認するとともに、機密情報の入力を禁止するガイドラインを社内に整備することが求められます。また、できる限りオンプレミス型や閉域ネットワークで動作するセキュアな生成AIツールを導入することが望ましいといえるでしょう。
そもそも生成AIのアウトプットを提出する部下は不要
近年、部下が生成AIを使って作成した文章や資料をそのまま上司に提出するケースが増えています。しかし、これには本質的な問題が含まれています。もし生成AIが業務の大部分を担えるのであれば、上司自身がAIを活用して完結させることも可能です。その場合、「生成AIの出力をそのまま提出するだけの部下」は、存在意義を失いかねません。
部下に求められるのは、AIの生成物に対するフィードバックやブラッシュアップ、あるいはAIにはできない独自の視点や判断を加える能力です。単にAIの出力を中継する役割にとどまっているのであれば、わざわざ人間が介在する必要はなくなります。
むしろ、上司が直接AIを活用したほうが、意図や目的に沿った成果物を迅速に得ることができる場合もあります。したがって、AIの出力を鵜呑みにするだけの部下には厳しい評価がなされることを覚悟すべきです。
まとめ
生成AIは業務の効率化に大きな可能性を秘めており、特に定型作業や補足的な業務では積極的に活用すべきです。一方で、思考力の低下や情報漏洩といったリスクも存在し、利用には一定の制約とルールが必要です。AIの出力をそのまま提出するだけの業務は、むしろ人間の役割を希薄にします。したがって、生成AIの利点を最大限に活かしつつ、人間が介在する意味を再定義することが、今後の働き方において重要となるでしょう。
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