物流2024年問題の現在地とさらなる課題

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物流2024年問題の現在地

2022年ころから「物流2024年問題」のインパクトが囁かれてきました。働き方改革の流れの中で、全業種で法定労働時間の遵守や残業代の支払の徹底をするよう法令改正がなされてきましたが、物流業界の現場の特殊性からこの業界だけ法令が厳格化されるのが先送りされてきました。しかし、そのデッドラインが2024年で、いよいよ2024年から、トラック運転手などの残業規制が本格的に厳しくなるため、物流が滞るのではないかと言われてきたのがこの問題です。ただ、蓋を開けてみると、昨年以降、荷物が届くのが1日程度遅くなったと感じることはあっても、著しい不便は感じていない方が多いのではないかと思います。実際、物流現場でも2024年問題の影響は「まだ限定的に抑えられている」という意識のようです。
そこで本稿では、物流2024年問題が現時点ではまだ大きな影響が生じていない要因と、まだ顕在化していない重大な課題について説明します。

ドライバーの労働時間を減らす取り組み

物流2024年問題の影響が小さく抑えられているのは様々な工夫の賜物です。例えば、個々の事業者が個別に荷物を運送すれば、積載率の低い運行も発生しがちですが、運送を複数の業者の共同運行とすることで、積載率を向上させることにより、ドライバーの業務量を減らすような取り組みが功を奏しています。
また、工場や倉庫での待ち時間がドライバーの長時間労働につながっていましたが、これまでの予約時間制ではなく、工場や倉庫に到着した順番に、AIも活用して柔軟に積み卸しすることを可能とすることにより、待ち時間を減少させて労働時間を減少させる手法も定着してきました。
さらに、例えば、東京~大阪を同じドライバーが往復すると帰りは空車運転という非効率が生じますが、ここで、大阪⇒東京のトラックと、東京⇒大阪のトラックを中間地で交換することにより、ドライバーの拘束時間を半分に減少させて積載率を高く維持する手法も広まりつつあります。

物流量が伸びていないという実情

コロナ禍で通販の物流が急増しました。その伸び率も考慮して2024年問題は懸念されましたが、コロナ禍のピーク時以降、それほど通販の運送量が増えたわけではありませんでした。その上、コロナ禍で製造業の製品製造量が若干減少したこともあり、物流量が思ったほど増加していないという点も2024年問題が穏やかに落ち着いた一因となっています
ただ、この点も長距離輸送を減少させる各種取り組みの成果である面も大きいと考えられます。実際に各家庭や店舗に配送するラストワンマイル配送に担い手は一般人のアルバイトで補う必要が高い実情もあり、配送の自動化が実現するまでは、配送の最後を担う「アンカー」をどう確保して行くかが大きなポイントになる可能性があります。

ドライバーの賃金保障という課題

業務を効率化してドライバーの労働時間を減少させることができれば会社は無駄な残業代などを支払う必要がなくなり、法令違反を指摘される可能性もなくなり、大成功です。しかしその反面で、残業代がなくなればドライバーの総収入は減少します。生活のために必要な金額を稼げなければ、ドライバーは結局、別の会社を掛け持ちして長時間労働をして収入を増やすしかなく、長時間労働から労働者を守ろうとする制度の趣旨が没却されてしまいます。そのため、ドライバーを真に保護するためには、根本的に賃上げして法定労働時間で十分な報酬を得られる仕組みが必要ですが、今回の様々な取り組みの中で、物流事業者はかなりシステム構築などのために投資しているため、賃上げ余力がどこまであるかがカギとなり、最終的には物流の値上げで解決することが想定されます。

遵法意識の低い企業と、操業意欲の低い企業への対応

こうしてトップ企業は精一杯ドライバーの動労時間減少に取り組んでいる反面で、資金力のない中小事業者はこの対応を行わず、法令遵守を諦めているところもあります。2024年以降は強行法規であるため、法令遵守していない企業には監督官庁から指導が入りますが、物流事業者自体が不足している実情から、あまり強い処分に出られない可能性が指摘されています。
また、こうした取り組みのハードルが高すぎることから、やはり対策を諦めて廃業に向かう事業者も増加しており、ドライバーの労働時間抑制のためにまとまった初期投資が必要であるのであれば、補助金の交付などを政府が検討する必要性も生じてきます。こうした「おちこぼれ」をどう救い上げていくかも今後の大きな課題となりそうです。

まとめ

物流2024年問題に関しては、大手事業者を中心に様々な方策が試行錯誤され、その結果、ドライバーの労働時間を減少させる目処はある程度立ちました。ただ、運転手の収入保障や中小事業者の取り扱いなどの課題がなお残っており、また、何らかの事情で物流量が急増した際にどのように対応すれば良いかという課題も残されています。現状、問題は大きく顕在化してはいませんが、引き続きより良い物流を模索し続ける必要は残り、AIなどに頼りながらまだまだより効率的な物流を実現していかなければなりません。
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