熟年離婚の件数が増加傾向にある理由
近年、「熟年離婚」という言葉が身近になりつつあります。結婚生活30年以上を経て離婚に至る夫婦が増えており、特に団塊世代以降にその傾向が顕著です。厚生労働省の統計によれば、50代以上の離婚件数はこの10年間で増加傾向にあり、熟年世代における「離婚=珍しい」というイメージは過去のものとなりつつあります。
要因としては、男女の平均寿命が伸びたことにより、60代以降の生活にも長い時間があること、また、女性の社会的自立が進んだことが挙げられます。これにより、女性が「これからの人生を自分らしく生きたい」と考えるケースが増えているのです。年齢を重ねた今だからこそ、「このままで良いのか」と見つめ直し、新たな人生の選択肢として離婚を考える人が増えています。
そこで本稿では、女性側から熟年離婚の申し出をするにあたって予め準備すべき内容を整理します。
熟年離婚の原因は積年の不満の積み重ね
熟年離婚の背景には、長年にわたる夫婦間の感情のすれ違いや不満の蓄積があることが多いです。若い頃の離婚は「性格の不一致」や「価値観の違い」といった表面的な理由が目立ちますが、熟年離婚の場合、表には出てこなかった「感謝の欠如」「会話の不足」「生活習慣の不一致」などが、何十年もの間に積もり積もって、決定的な亀裂となるケースが多いです。
例えば、長年にわたり家事や育児を一手に担ってきた妻が、夫から感謝の言葉ひとつも受け取らなかったことに心を痛め続けていたという話は珍しくありません。また、夫が仕事中心の生活を送り続け、家庭内でのコミュニケーションを軽視してきたことが、妻の孤独感や不満の原因となることも多いです。
このような積年の不満は、定年退職や子どもの独立といった節目で表面化しやすく、「これからずっと一緒にいるのは耐えられない」と妻が感じることで離婚に至りがちです。
妻側から離婚を切り出す意義とは
熟年離婚では、妻側から離婚を切り出すケースが多いのが特徴です。その理由のひとつに、「夫の介護を担いたくない」という意識があります。長年尽くしてきたうえに、老後の介護まで背負うことに強い抵抗を感じる女性は少なくありません。
また、離婚によって「自分らしい終末を送りたい」と考える人も増えています。趣味や人間関係、自分の時間を大切にしたいという想いは、人生の後半をより豊かに過ごしたいという前向きな意志の現れでもあります。定年後の夫との生活が“第二の監獄”のように感じられてしまうという声もあり、そうした現実を避けるために離婚が選択されやすくなっています。
ただし、これには感情だけでなく、具体的な生活設計や準備も欠かせません。勢いだけで離婚を選ぶと、かえって後悔するケースもあるため注意が必要です。
離婚後の収入と住まいの確保がカギ
熟年離婚において最も現実的で深刻な問題は、離婚後の生活設計です。特に、長年専業主婦として家庭を支えてきた妻にとっては、離婚後の経済的自立が大きなハードルとなります。
まず、年金の分割について正確に把握することが必要です。離婚時に「年金分割」を申請すれば、婚姻期間中に夫が納めた厚生年金の一部を受け取ることが可能です。ただし、これは自動的に行われるものではなく、離婚協議や家庭裁判所の手続きが必要です。また、持ち家がある場合は名義やローンの状況、今後の住まいの選択についても冷静に話し合う必要があります。
さらに、賃貸に移る場合は保証人や初期費用の確保も問題になります。高齢者にとっては賃貸契約そのものが難航するケースもあるため、自治体の住宅支援制度やNPO法人のサポートも検討しましょう。
可能であれば、離婚前からパートや短時間の仕事を始め、収入を確保するとともに、社会とのつながりを築いておくことが望ましいです。自立した生活基盤が整っていればこそ、離婚後も安心して生活が送れるのです。
子どもとの関係性が良ければ離婚しやすくなる
熟年離婚を考える上で、子どもとの関係性も重要な要素となります。すでに独立しているとはいえ、親の離婚をどう受け止めるかは子どもによって大きく異なります。
関係性が良好であれば、子どもは母親の気持ちを理解し、精神的な支えとなってくれることがあります。逆に、疎遠だったり、夫と子どもの関係が深かったりすると、母親の孤立感が強まることもあります。
また、熟年離婚では、住居を移る際に子どものサポートがあるかどうかも大きな違いになります。引っ越しや保証人、経済的な一時的援助など、何らかの支えが得られる場合は、離婚後の生活も比較的安定しやすいです。
ただし、子どもに依存しすぎない姿勢も大切です。「子どもが理解してくれれば離婚できる」と考えていると、自分の人生の選択を他人に委ねることになってしまいます。あくまで主導権は自分にあり、そのうえで子どもの理解や支援を得られるように、日ごろから良好な親子関係を築いておくことが重要です。
まとめ
熟年離婚は、長年にわたる夫婦関係に終止符を打ち、自分らしい人生を取り戻すための選択肢でもあります。しかし、その実現には感情だけでなく、経済面や住居の確保、親子関係といった現実的な準備が不可欠です。特に妻側が離婚を切り出すケースでは、老後の生活設計を明確にし、必要な支援や制度を活用することが安心につながります。人生100年時代において、「残りの時間をどう生きるか」は極めて重要なテーマです。熟年離婚を考えるのであれば、焦らず冷静に、そして前向きに準備を進めることが成功の鍵となります。
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